陰謀劇の渦中でも、少年は選択を諦めない

 金色の髪に薄青の瞳、ひときわ美しい容姿を持つヴィーは、旅の途中で物盗りに遭遇するが、そこで賊に捕まり無理矢理働かせられていた幼い少年・ディルと出会う。ディルの親は元々貴族に仕える書記だったが、ある陰謀に巻き込まれ命を落としてしまう。ディル自身も罪人の子として王都を追い出された状況だった。ディルに助けられたヴィーは彼に一緒に来るかと誘う。素性の知れないヴィーを怪しむディルだが、今の状況から脱却するため、ヴィーに付き従うことを決める。

 権謀術数渦巻く陰謀劇であり、非常に重厚で奥深い物語です。家、権力、国の勢力図といった問題ももちろんありますが、そういったマクロな舞台の中で中心となるのがディルとヴィーという「個人」の物語というのも対照的でいいと思います。特に第一部は貴族に仕えていたディル視点をメインにして話が進んでいくところが多く、過酷な環境の中でもヴィーを信じて、自分の意思で立っていようとする姿勢が胸を打ちます。第16章はそんなディルの道のりを思うと感動する以外の選択肢がありませんでした。
 今作の魅力は、加えて物語の「引き」が非常にうまいところにもあります。伏線満載ミステリアスな物語において情報の提示は非常に重要な「見せ場」ですので、その情報の出し方がうまいなと感じております。

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