第十七話 友達

カルーゼルの領主城へ向かう馬車の中。

アイルスさん一家と私はなぜか貴族の来賓客と同じ待遇で、貴族用の馬車へ乗せられた。

馬車の車輪にゴムなんかついてるわけないので、揺れ具合は荷馬車と変わらない。

道が整備されてるので多少ましだけど、一番慣れてない私はバス酔い状態。


ゴトゴト……ゴトゴト……

ゴトゴト……ゴトゴト……


「大丈夫……?ニア」

「……き、……」

「き?」

「……きぼぢ……わるい」

「だ、大丈夫じゃないじゃないか……」


御者に知らせて休憩を提案してくれるそうだ。騎士団なんていうから融通はきかなそうだけど……。

しばらくすると馬車は停止してくれた。小休止するらしい。

うーん。ハーブティーでも入れて飲むかなぁ。いっそのこと吐いちゃうか……。

まぁみんな見てるし、吐くのは我慢してハーブティーを淹れることにした。

ついでだから、みんなの分も淹れてあげよう。ただ傭兵団と騎士団の人たちもいれると30人を超えているので、時間がかかってしまった。

ミネルアさんにも手伝ってもらったけど、ちょっと忙しくなって馬車酔いの気がまぎれた。



「は~おちつく~それに美味しい!」

「すごい!嬢ちゃん小さいのにこんな美味しいハーブティを淹れられるなんて!」

「……教えて……もらった……ふひひ」

うんメイファさん仕込みだからね!

私の力じゃないけどドヤ顔したいぐらい、メイファさんのハーブティーは美味しいのだ。


「ニアは人気者だね!」

「……人気?……はじめて……言われた」

「そうさ!みんなの胃袋を掌握してるんだ!ここの隊商じゃニアが親分さ」

「ふふふ」

「……ふひひ」


騎士団の人も交じってみんなで笑いあって話している。はじめは怖い人たちかとおもったけど、優しそうで良かった。

傭兵団は平民だけど、騎士の人は貴族だけだからハーブティには煩いんだって。

でも満足してくれたようで良かった。




移動を再開してしばらくすると、また何やら外が騒がしくなった。

今度は何?

騎士団の人と傭兵が協力し合ってるようだ。

ドーバンさんたち大丈夫かな?

私がそわそわしているとミネルアさんも出るって言いだした。

もしかして、本当にヤバいんじゃ……。

ミネルアさんが扉を開けると、外の音が聞こえてきた。


キンッ!

ガッガッガッガッ!

ぐぅ!!

あの馬車だ!!!

ガン!ガン!ガン!

死守しろ!!!!


バタンッ


ミネルアさんが出て扉を閉めると、音がほとんど聞こえなくなった。

この馬車は防音性が結構高いみたい。それならタイヤをなんとかしてほしい。

ってそれより!かなりピンチじゃないの!

怖い……!!

隣をみるとネルも怯えていた。アイルスさんは何かできないかと焦っているようだ。


私の身体の内側から、急に恐怖のような黒い靄が拡大して……

私の全身がブワっと滾るような熱に包まれる。

そして――








キーーーーーーーーーーン






またきた!あの周囲が無音になって感覚がなくなる。

急激に音がなくなって無音になると、鼓膜が外側に引っ張られるような、気持ち悪い感覚になる。

社会科見学で行った庁舎の高層ビルから、エレベーターで一気に降りてくるとツーンとするアレに似ている。





しばらくすると、外から雄たけびが聞こえた。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!我々はやりきったぞぉおおおお!!」

「守り切った!生き残ったぞ!!!」

すごい歓声だ。防音性の高いと思ったこの馬車の中でも普通に聞こえる。

その雄叫びを聞いてると、ミネルアさんが戻ってきた。

アイルスさんは相当奥さんを心配していたようだね。私たちが目の前にいるのに、ラブラブちゅっちゅ始めた。

ネルにとっては当たり前だけど、私は恥ずかしくなって目をそらした。


「ああぁよかったよ!ミネルア心配したんだよ!ちゅ」

「んぁ……お、おい私は平気だ!それよりみんな怪我はないか?」

「大丈夫!お母さんは?」

「私がやられるぐらいならこの領は滅んでるよ」

「すごい自信だね!はははっ!」

「……私も……平気……なにが……あったの?」

「ああ、今はもう落ち着いてるから話すよ」


ミネルアさんの話によると、暗殺部隊のような洗練された集団と、騎士のような集団の2勢力同時に襲撃されたらしい。

2勢力あわせて60人を超えるほどの襲撃だったので、かなり苦戦していたそうだ。

こちらは騎士団と傭兵団合わせて30人、ドーバンさんやミネルアさんがいるから大丈夫かと思いきや、相手も一人ずつ、S級並みの兵士がいたそうだ。

となると襲ってきたのは、かなり権力のある勢力になる。後々を考えると、生け捕りするしかないと考えていたので、さらに味方の動きが鈍った。

で乱戦の末、生け捕りを諦めようとしたときに、なぜか敵の集団が全員苦しんで倒れたそうだ。

みんながもうだめだ!って思ったときにそれが起きたから、奇跡じゃないかってみんな讃えあってるんだって。

何はともあれ死体処理などやることはたくさんあるので、今日はこの近くの広場で野営になった。

もう遅い時間だもんね。騎士団の方たちも頑張って守ってくれたから、丁寧にお礼をいって回った。

夕飯もミネルアさんと一緒に作って振る舞った。



「……ふひ……ありがと……ございます」

「いやー当然のことをしただけさ!」


「……ふへへ……ありがと……」

「嬢ちゃんはケガなかったか?うまい飯ありがとよ!がんばった甲斐があるぜ!」



全員に食事を配り終わって、各々が好き勝手食べ始めた。

私も席にもどって、ネルたちと食事を始める。

周囲から楽しそうな声が聞こえている。すごいね男所帯だと、ちょっと物怖じする勢いだ。

でも今はよほど間近まで接近されなければ怖くないし漏らさない。


「ねぇニア?いつも思ってたけど、たくさんあるのに全然たべないよね?」

「……たくさん……たべてる」

「いやいやいや!少ないって!もっと食べないと!いくら何でも痩せすぎだよ……」

「……あんまり……食べても……吐いちゃう」

「そっか……」

「……すこしずつ……増やすから……ふひ……大丈夫だよ」


ネルがあんまり心配するから笑顔で大丈夫と言っておく。

前は仲良くなる人なんて誰もいなかったから、おしっこもらしたり吐いたりしても、あまり気にしなかったんだけど、最近は仲良くなった人の前では恥ずかしくって、吐いたり漏らしたりしたくないと思っちゃうようになった。アイルスさん一家や傭兵の人たちの前ではできるだけ嘔吐したくない。


「……っ!じゃあちょっとずつでいいから、ちゃんと食べてね!」

「そうだぞニア……そのままじゃ旅なんかしてたらすぐに死んでしまう」

「ニア……隊商のみんなはお前が好きで心配してるんだ。だから大変なことがあったら頼っていいんだからな」

「ふひ……ありがと……ふひひ」


その日は時間を忘れるほど、みんなと食べて飲んでお話した。夜遅くなると大人たちは酒を飲み始めたので、私たちは馬車に戻って横になった。

今日の寝床は私とネルとミネルアさんが貴族馬車の中で、あとはみんな外だ。アイルスさんは付き合いで飲んでるんだって。

たくさんお話で来た日はなんだかうれしくて、興奮してあんまり眠れない。

死にかけることが多い異世界だけど、楽しいことのほうがいっぱいあって、私は来てよかったと思った。


「ねぇ……ニア?おきてる?」

「……うん」

「お城についた後、用事がすんだら僕らはたぶんまた旅に出なきゃいけない。ニアはどうしたい?」

「……みんなと……いきたい」


私はせっかくできた友達をもう手放したくない。別れたくないのだ。

初めに仲良くなったメイファさんやリコちゃん。それにメラさんやガンツさん。

仲良くなれたけど、結局一緒に居られなかった。だから次は離れたくないっておもっちゃう。わがままかな?


「たぶんね……お城でお別れになっちゃうと思う」

「……え?」

「ごめん……詳しくは言えない」

「でもね……どこにいても僕たち友達だろ?それは消えてなくなることはないよ」

「……ぅう……ほんと?」

「あぁ!絶対、絶対だから!」


……離れたくないけど……いきなり言われるよりはマシだった。

それより、私より小さいネルだって言い難いのに、ちゃんと話してくれた。

ずっと友達だって言ってくれた。

そんなこと言ってくれたのは人生で初めてだったから、ほんとうに……ほんとうにうれしかった。


「ネル……今日だけ……手を……つないで?」

「うん、いいよ!友達だからな!あはははっ」

「……ふひひ」


その日はネルと手をつないだまま寝た。私は幸せな気分で寝ることが出来た。

ネルたちと離れても、きっとまた会えるし、会った時には友達のままだもん。

心配させたくないから、笑ってお別れしたい。

きっとうまくできる。今度は考えなしの自信じゃなくて、誇れる自信をもって断言できると思う。


友達って強い!





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