第十六話 初めての狩り
あと3日ぐらいかな?港町に着くのは。
ガラガラガラ……
ガラガラガラ……
うん、平和だね。私の思考に平和の文字が表れる日がくるなんて。
私が目覚めてから数日経った。ただでお世話になるのは忍びないので、料理担当でミネルアさんと一緒に作るようになった。
そういえば、私は異世界にきてまともな戦闘をしていない。
クラスメイトの勇者たちはレベル50台まであがってすごく強くなってたのに……。
私は確かまだレベル3なんだけど……。
素振りとか魔力の練り上げとか、日課はやってるけど数日じゃあすぐ強くなるわけないよね。
良いのかなこのままで?商隊の人たちのを覗いてみようかな?
一応、断ってからお願いして見させてもらうことにした。だって怒られてギスギスしたくない人達だから。
ドーバンさんと、ミネルアさんがここの中では一番強いみたいだから見せてもらった。
「【鑑定】」
===========
名前 : ドーバン
レベル : 326
クラス : 人間
年齢 : 28
性別 : 男
状態 : 【良好】
職業 : 傭兵
称号:冒険者ランクA
HP :22550 / 22550
SP : 2000 / 2000
力 : 350+750
体力 : 400+150
器用 : 50+50
速さ : 30+20
知性 : 25
運 : 55
スキル :
【戦斧】【アックスブーメラン】
【ジャイロアタック】【ラージプロテクション】
【奥義:グランドアックスショット】
【統率】【折衝】
===========
===========
名前 : ミネルア
レベル : 426
クラス : 人間
年齢 : 24
性別 : 女
状態 : 【良好】
職業 : 商家の妻
称号:冒険者ランクA
HP :18050 / 18050
SP : 4500 / 4500
力 : 350+400
体力 : 280+150
器用 : 423+120
速さ : 626+50
知性 : 120+150
運 : 55
スキル :
【クワドルプルバインド】【バーサク】
【プロパティシールド】【シトリーフ】
【奥義:インディペンディントアタック】
【隠匿】【索敵】
【生活魔法】【料理】【調合】
===========
すごい!すごい主婦だ!スーパーおかあさん見参!かぁっこいい~!
ドーバンさんもすごい!スーパー中年だ。
レベルも勇者より高くて、能力も強い……。勇者じゃない人のトップレベルじゃないかな?
だとすると、勇者はこれより強くならないといけないってことかな?
もうこの人たちに世界を任せたら?あまりにすごくて、拍手しちゃった。
パチパチパチパチ
「……すごく……つよいね」
「そういうニアはどうなのさ?」
「ニアは一人で行動してたんだから、きっと強いよね!」
「……コフォン!おりゃノーコメント」
「……たぶん……ネルより……よわい」
そういってギルドカードを見せてあげた。
【ギルドカード】
===========
名前 : ニア
レベル : 3
クラス : 人間
年齢 : 13
性別 : 女
状態 : 【良好】
職業 : 採取者
称号:冒険者ランクF
HP : 20 / 20
SP : 13 / 13
力 : 5
体力 : 5
器用 : 10
速さ : 1
知性 : 10
運 : 1
スキル : 【鑑定】【調合】【調理】【生活魔法】
===========
「……え?……うそ」
「あんた、こんなんで一人で港町へ行こうとしてたのか?それにドーバン知ってたのかぃ?」
「ああぁ……毎日短剣もって、へっぴり腰で【チップンダンス】を踊ってたら、とても手練れには見えないぞ」
「えぇ……あたしはあれはネルに見せるネタで踊ってるのかと思ってたけど……?」
「……ぅ……ぅうううう」
「あぁああ!ごめんごめん。泣かないで!」
酷い罵りだ。でも本当に私がへっぽこなのはしってるけど。
ところで【チップンダンス】てなんだろ?っておもったら今度街でやってるのを見かけたら教えてくれるそうだ。
「よ、よし、じゃあこの旅が終わるまでで良ければ、俺が少し教えてやるよ」
「……え?……いい……の?」
「わぁよかったじゃないかニア!ドーバンよかったら僕も教わりたい!」
「おお、ぼっちゃんもついにやる気になったか!ようし!二人まとめて教えてやる!」
「やったー!」
「……ふひひ」
そうして私たちはドーバンに戦い方を教えてもらうことにした。
簡単な魔物なら自分で身を守れるようになることが、当面の目標だ。
「じゃあ、今日は何の武器を使うか、どういうスタイルで戦うか方針を決めよう」
「はい!」
「……はぃ」
「ふふ、じゃああたしは朝飯の準備やら忙しいから、ドーバン任せたよ」
「あいよ!」
「あ……ご飯やる」
「いいよ、あんたに教えてもらってるから、簡単な物は作れるからさ」
「……あり……がと」
ミネルアさんはニカっといい笑顔で去って行った。
さっそく訓練だけれど、改めて私は何ができるの?もう何にも向いてないのは知ってるけど、何をどうすれば?
「二人とも、この剣を振ってみてくれ」
ブフォン!
ヘロヘロヘロ……ガシャン!
「ぜひ……ぜひ……お、おもい」
「す、すまん。ネルぼちゃんは剣はいけるな」
「はい!」
「ニアは剣に向いてないな」
「……はぃ」
「まぁしょげるな!次言ってみよう。力がないからなぁ、選択肢としてはクロスボウか魔法か」
「……魔力……ない」
うん、歩んできた道だからわかるけど、何にも手段がないな私。
「そ、そうかぁ……うんじゃあやれることは少ないけど、できることならあるだろ?」
「?」
「あのチップンダンスをもうちょと見栄えのある短剣さばきにしてやろう。それだけで小さい魔物からは身を守れる」
「……ほんと?」
「ああぁ。だからそんな泣きそうな顔すんじゃねぇよ。お前がその顔すると、男がみんな固まって仕事にならねぇからな!ははっ!」
「……ありがと……ドーバンさん……ふひひ」
そんなこんなで、構え方から切り方のバリエーションまで教えてくれた。
型も知らないのに素振りだけしてても、宴会芸しか上達しないってさ。結構頑張ったてたのに無駄な練習だった。
食事はミネルアさんが、私が教えた調理方法をある程度覚えてくれたから、全部私がやらなくてもおいしい料理が出てくるようになった。
もう何年も料理番をやってるから、すぐ覚えちゃったね。リコちゃんを思い出す。リコちゃん元気かな?
昼食は私も一緒に作って、午後はまた訓練だ。移動しながら休憩時だけ訓練なので、ずっとはできなかったけど、私はかなり上達したと思う。
これからも毎日やろう。
次の日はネルと私で、【ウッピ】という小さい魔物を一緒に狩る事になった。
【ウッピ】ってあれウサギだよ。ウサギに角が生えた感じのやつ。可愛いつぶらな瞳がやりにくい……。
ふたりで「わーっ」と声を出して追いかけたものだから、すぐに逃げられた。
ぜひー……ぜひー……ぜひー……
もうむり。
「ニア大丈夫?」
「……うん」
「ニア、追いかけたらだめだ。攻撃してきたやつを避けてから刺す!」
ザッ!
「……すごい」
ドーバンさんがお手本を見せてくれた。私でもやれそう!
お手本と同じように近くにいるウッピでやってみた。
チッ!……ザッ!
「……わっ」
「やったー!すごいよニア!できたね!腕は大丈夫?」
「……ありがと!……へ、平気……ふひひ」
うわーすごいうれしい!ウッピの角がちょっと手を掠ったけど、出来た!
小動物を殺すなんてかわいそうという考えは変わらないけど、できない事が出来るようになるって楽しいね!
結局小一時間で私は2匹、ネルは4匹狩る事ができた。ぐぬぬ9歳に負けた。
ウッピの肉はジューシーで美味しいんだって。それも楽しみだ。
また隊商の移動が始まり、御者の人にきいたらあと2日で街に着くらしい。
そこは聞いていた通り港町で、海産物が豊富でおいしいって!
いいねいいね。魚を食べたい。
午後も馬車を走らせていると、急に停止した。
なにやら傭兵の人達が慌てているようだ。
「おい、二人とも身を隠しておけよ」
「うん」
「……はぃ」
「俺はちいと確認してくる」
「……き……気を付けて」
やばい雰囲気……大丈夫かな?
……
……
……
……がくがく震えだした。でも最近隊商のみんなが優しくしてくれるので、おもらししてない。
ちょっと怖くて震えている私に、ネルは手を握ってくれた。
「大丈夫だよ……」
「……うん」
私のほうがお姉さんなのに情けなくなった。
でもネルが握ってくれた手は温かくて安心した。
……
……
……
……ばっさ!
「すまない待たせた。ちょっと面倒なことが起こりそうだが、危険はないと思う」
ドーバンさんが返ってきた。何やらもめごと?
ドーバンさんは事のあらましを説明してくれた。
さっき隊商を止めたのはカルーゼル領の騎士団だった。
襲撃か、取り締まりかとおもってドーバンさんとアイエルさんが話を聞くと、カルーゼルの領主が面会を求めてるそうだ。
この隊商も領主ともめるわけにはいかないので、了承した。ただしまだ護衛任務中なので、傭兵団もセットでの面会になるから安心してほしいって。
私は成り行きで乗ってるだけだから関係ないか。
「……私は?」
「ああぁ。すまない同行してくれ」
まったく関係ない……とまではいかないし、最近ずっと頼りっぱなしだし、正直この隊商とは離れたくない。
完全に依存しまくってる私としては何も言えない。
「……いいよ」
「ああ、じゃあこのまま街には行かず、領主の城へいくぞ?」
「……はい」
「いいの?ニア」
「そうだよ。ニアは何も関係ないんじゃないのかい?」
「いや……詳しくは言えないんだが、無関係じゃない」
「……ふひひ」
領主の城はすぐそこの分かれ道を北へ行くと1日で着くそうだ。
お城ってことはまたご飯がおいしくないのかな?
なんてのんきなことを考えていた。面倒なことが起こる予感はしていたけど、私は現実逃避した。
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