第二章 領主の思惑

第十四話 ニアと隊商の親子その1

のっそのっそ……


のっそのっそ……


のっそのっそ……ぜひ……ぜひ……


私はのんびり東へと歩いていた。

道は整備されてて綺麗だ。馬車に乗れたらどれだけ楽だったんだろう。

メラさんがしっかり準備を整えてくれたおかげで、快適なはずなんだけれど徒歩は無謀だった。

ただでさえ体力がないのに。


食事に関してはたくさん必要ないので、めぼしい食材があれば採取して料理する予定だ。

道のすぐ近くの林には、ハーブと調味料になる実、それから根野菜や山菜みたいに食べられるものが豊富にはえている。


シュッシュッ!

このナイフすごい切れる!メラさんありがと!


採取でちょっと休憩したら、私はある日課を始めた。

それはナイフで素振りだ。だってほら、私はファンタジーの世界に来たっていうのに、一度も戦ってない。

おかしい……。いや戦わずに済むのなら戦いたくないんだけど、弱いままだと会う人すべてに迷惑をかけそうだし。

ということで、素振りをしてるんだけど……。


シュッシュッ!……はっ……はっ……


シュッシュッ!……ぜひっ……ぜはっ……


シュッ……ス……ぜひぃいい……ぜひぃいい……


もうダメ……5回素振りしたらもう体力切れだ。これ向いてない気がする。

あとは魔法だ。メイファさんに教えてもらった生活魔法は使えるから、魔力を練りこむ練習をしよう。

ある程度魔力がふえて、きっかけがあったりその魔法を見たりしてイメージできるようになれば覚えられるって書いてあった。

私の魔力はまだとても少ないから、練りこんで増やすことに集中しよう。


すー……はー……すー……はー……

すー……はー……すー……はー……

メイファさんとの時間……おもいだしちゃった。






採取と日課が終わるともう夕暮れだ。

あとは足りないものは~近くで同じように野営する人に物々交換を持ち掛けるのが基本らしい……けど。

どうしよ?

せっかくみんなに送り出してもらったんだから、勇気をだして頑張ってみようかな。

私は近くにいた商人らしき人達の野営場へ来てみた。


「こ、こここここここぉ~~」

「ん?なにかな?」

「おねぇさん?どうしたの?こ?」


話しかけたのは気のよさそうな商人風の30歳くらいの男性だ。

隣に小さい、といっても私と同じぐらいの背丈の男の子がいた。

話しやすいと思ってこの商人にしてみた。


「……こん……ばんはっ……ふひひ」

「?」

お父さんらしき商人はすごく怪しんでる……やばい。

「おねぇちゃんいらっしゃい!なにかごようですか?」

男の子は臆面もなく話してくれる。ほっよかった……。


「……これで、すこし……にくを……わけて……くらしゃい」

噛んだ。

この男の子はちゃんと話せるのに、私はめちゃくちゃ恥ずかしい。

ハーブとさっき取った野菜で提案してみたがどうだろう?


「ん~野菜はいらないな。ハーブは、こんな状態の良いものだと釣り合わない……。」

「……ねぇ、お父さん?おねぇちゃんが困ってるんだから、僕何とかしてあげたい!」


やだこの子、すごい良い子!


「……」

「……」


「……ふひ」

だめそうかな?けっこう私にしてはがんばったよね……?

かなり勇気をだしたんだけどなぁ……ぐす。


「……っ!ああああああの!!じゃあハーブと交換で【オルク】肉を差し上げますよ!」

「え?……あ、あり……が……と……ございます」


オルク肉ってなんだろ?ゲテモノじゃなければいいな。

商人さんは、ものすごい量を寄こそうとしてた。いらないいらない。

一切れだけで500gぐらいありそうだから、それだけもらった。

私は商人とその子供や周りの人に丁寧に挨拶をして離れた。





もう日が暮れてきてるから手早くやっちゃお。

石と生活魔法で簡易かまどを作って、枯れ木を集める。

生活魔法便利すぎ。メイファさんありがと!


採れたハーブ、野菜、交換した肉があるから煮込みスープとハーブステーキを作った。

それとやっぱり木の実が万能すぎた。油、蜜、種を磨り潰して調味料と余すところがない。ステーキのソースも作れた。

ある意味これもファンタジー?


うん、野営にしてはちゃんとできた。

生活魔法の便利さもあったけど、商店街でのお手伝いはいい経験だったみたいだ。




もっ……もっもっ……


うん。オルク肉美味しいね。オルクが何なのかわからないけど、豚だと思うことにしよう。


もっ……もっもっ……もっ

ご馳走様。


うん。もうお腹いっぱい。オルク肉500gももらちゃったけど、私だけなら1か月は持つ。

あまった食材やスープはもう革袋に収納しておこう。マジックボックスは、時間の経過がないってガンツさんが言ってたはず。

デザートはすりおろしリンゴのハーブ添えでさわやかスイーツ。うーんガンツさんのリンゴはとっても美味しい。

それに木の実の蜜ですごくおいしくできた。

ふふ……一人で寂しいと思ったけど、おもったより優雅に過ごせて楽しい。さっきの商人さんのおかげだね。



「おねえちゃん……すごいね!おいしそうなご飯作ってたのみたよ!」


私は夕食の片づけを終えたので、ハーブティーを飲んでのんびりしていたら、目の前にさっきの男の子がいた。


「あ……さっき、……ありがと……飲む?」

「いいの!?ありがとう!」

「……お礼」

さっきのオルク肉の交渉の後押しをしてくれたこの少年にハーブティーと、さっきのデザートの残りのすりおろしリンゴをご馳走した。


「ん~~~~~~っ!うっっっっっっまい!」

「……おいしい?」

「うん!野営なのに、こんなに甘くておいしいものが食べられるなんて!僕はこんなおいしいの初めてだよ!」

「……ふひひ」


喜んでくれたみたいでよかった。

そのあともハーブティーを飲みながら雑談をしていた。

私はこの子の勢いについていけないから、聞くだけなんだけど。


この子は【ネル】。まだ9歳だって。私と同じぐらいの身長なんだけど……。商人の息子で王都から港町へ向かう途中らしい。

ネルは魔法の才能があるって言われてて、将来王都の学院に通って魔法使いになるか、お父さんの後を継いで商人になるか迷ってるんだって。

こっちの子は9歳でもう将来のことを考えるんだ。私はその日生きるのが精いっぱいだったから、まったく何にも考えてなかったよ。

でもこっちの世界なら、何か私にもできることがあるかも?この旅の最中に考えてみようかな?

いろいろ話してくれたけど、私は王都から逃げてきた放浪者で、偽って【冒険者ニア】のわけだから、大した情報は出せずにお茶を濁してしまった。

なんだか申し訳ない気分になった。


「ニアはどこまで行くの?」

「……東の……港の……町」

「じゃあ僕たちと一緒だね!良かったら一緒にいかない?」

「……えと……いい……の?」

「うん!ニアと一緒の旅だったら楽しそうだもん!それに美味しいもの食べられそうだし!」

大丈夫かな?

でも私はもうちょっと成長しないとダメだと思う。おもらしばっかりしてちゃダメだ。

ネルが一緒なら襲われないと思うし、信じて頑張ってみようかな。それにこのペースで歩いたら途中で行き倒れそうだし。


「……おとう……さんに……許可もらって?」

「うん!ちょっと聞いてくるね!」

「……いって……らっしゃい……ふひひ」


元気にお父さんの方へ走っていくネル。相手は商人だし、ただでは連れて行ってはくれないだろうから、交渉材料がほしいかも?

幸いマジックボックスにまだ料理やデザートは残ってるし。おもてなししてみよう。

とおもったら……



「……っひ……っひ……っふひ」

ガクガクガクガクガク

こ、こわいいいぃいい~~~!も、ももおおもれそう。


一人だけ来るかと思ったら、私は隊商の野営場所まで連行されて、ネルくんのお父さんと傭兵団に囲まれてしまっている。

このお父さん商人は【アイルス】さんという。さっきも少し怪しんでいたけど、そんなに厳しい顔をしてなかったから油断した。

いまはものすごい敵意というか、警戒心が強い顔をしている。


「それで?うちのネルを誑かしたデザートとやらはどれですか?」

「こ……ここ……こち……こち……」

私は急いでマジックボックスから、すりおろしリンゴハーブをとハーブティーを出した。

デザートという概念はこの世界にないらしく、そうとう珍しいらしい。

確かに食文化の本を見たときに、食後はお茶以外の選択肢はない感じだし、お菓子のようなものは一切載って無かった。


「……そ……そろ……そ……」

げ、限界……で、でちゃう……


「……え?」

「……っ」

ちょろろろろろ……


あああああ……だから言ったのに……言ってないか……。

私は相手が一人で離れていればもう平気になったし、だいぶ改善されていると思っていたけど、やっぱり複数人のしかも男性に囲まれたらもうダメに決まってるじゃない?


ばたり。


「ニ、ニア!?ニアおねぇちゃーーーーん!?」

「……う……そ、その子は一体どうしたんだ!?もしや病気か?……やりすぎた……のか?」

「いやいや旦那、まだ話しただけですぜ?」

「……い、いやぁすごい罪悪感。こんな子供を怖がらせるなんてやりたくなかったんだよ。おれぁ」

「だってこんな子供が一人で旅なんて怪しいじゃないか?実力を隠してるとか?絶対あると思ってたんだがなぁ……」

「おれも……遠目で料理を見てたが、すげー手際がよかったぞ?」

「と、とにかくだ……この子を休ませてあげよう……馬車の中なら安全だし運んでくれ」

「ぼ、僕がやる!二人だけ寝床を準備するの手伝って!」

「「わかりやした!坊ちゃん!」」


ネル少年はニアのことを大事にだっこして、馬車へ向かう。

ネル少年では運べないとおもったが、ニアは軽かった9歳児の彼でも余裕で抱きかかえられるほど。


あんなに美味しいものをご馳走してくれたし、お話してて面白かった。

なのに不可抗力とはいえ、彼女の好意を仇で返してしまったのだ。

だから、絶対に自分で介抱してあげたかった。

いつまでもみんなに頼ってばかりじゃいられない!

ニアをみてネル少年は一つ成長したのだった。












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