閑話008 藤堂 拓海が見た真実2
そして異世界生活5日目。
その日の午後は自由時間があったので、ぶらぶらと歩いているとワイワイと嬉しそうな声が聞こえてきた。お城はどこかみんなピリピリして、こんなアットホームな雰囲気になっている人は誰もいなかったはずだ。
気になって行ってみると、食堂のような場所だった。
もう夕方になりかかってる時間だから、あまり人はいないようだ。
どうやらテーブルを囲んで、コックらしき複数の人物が楽しそうにしている。
「こんにちは」
「あ……これは勇者様」
ザッ!っと全員が床に跪いた。
「あー僕に気を使わなくて結構ですよ。それよりそれは?」
見ると、なんともいい匂いのおいしそうなスープ?あれ?これミネストローネだ!あんなに不味い料理しかできない宮廷料理だったのに、目の前にある料理はすごくうまそうだ。
「こ、これ……一口貰えませんか?」
「は、はい!じゃ、じゃあ鍋にまだ少しあるのでよそってきますね!」
僕と同じぐらいの年齢?かちょっと下ぐらいの見習いの女の子がいそいそと厨房に入っていった。
「どうしてこんなにいい匂いなんでしょう?失礼だけれど、お城の料理は全部不味かった。でも今目の前の料理は、こう食欲を誘う、僕達の世界の料理だとおもう」
「いえ、これは私どもが作ったのではないのです。一人のメイド姿の来賓が先ほど作られていきました。素性は知りませんが、側仕えを連れていらしたので貴族の方、もしくは同等の位の方だと思います。でも貴方様のように、我々に優しく接してくださって」
「ほ、ほう……」
「お待たせいたしました……こちらをどうぞ」
かちゃりと置かれたのは、火を通して温めなおしてくれたのだろう。
ほかほかと湯気がたち、いい匂いがした。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~っこれはうまい!」
これは僕たちの世界でもなかなか食べられないぐらい美味しい!
うそだろ?こんなところでこんな美味しいものが食べられるだなんて!
ここ5日間は、ゴムでも食ってるような気分だった。
そのギャップもあって特別にうまくご馳走に感じる。
「でしょでしょ!作り方を教えてくださったので、これからはお城の料理も美味しくなりますよ!」
「ああぁ!でも許可を得るのに時間もかかるので、勇者様の食事に出すのはすぐには難しんでさぁ。もしよかったらここに来てもらえれば出すことは可能ですよ」
「うん!これから毎日くるよ!僕たちにとっては死活問題だったんだ」
これは大きな問題が解決しそうだ。
しかしその来賓客はだれだったんだ?メイド姿?給仕じゃないのか……。
もしかしたら転移者の誰か?もうちょっと探ってみよう……。
あれは……国王ともう一人、教会の司教か?仰々しい集団が列をなして部屋へ入って行くが、二人以外は廊下で待機のようだ。
これは思惑が聞けるのではと思い、僕は忍び込んだ。ドアを開ける瞬間に入り、偽装幕を張って天井にへばりついている。
二人の話しぶりだと、ほぼ同等の権力かやや大司教のほうが上といった口ぶりだ。
「勇者様の召喚に一匹、ゴミが混ざっているそうですな」
「う、うむ……大司教殿にご協力いただいたにもかかわらず、こんなことが起きようとは……」
ん……もしかして花咲さんのことじゃないのか?ゴミって……。
「いやいや、私は一向にかまいませんが勇者さまの存在力の|総容量(キャパシティ)が決まっておりますゆえ、無駄遣いは遺憾ですな」
「存在力の総容量?」
「ええ、一回の勇者召喚で授けられる能力の総容量は決まっているんです。それが召喚時に、各個人に振り分けられるのですよ」
「つまり、ゴミが無駄なエネルギーを消費したということでしょうか?」
「そういうことになる。ただ!そいつを殺せば、その容量分を世界の理が再分配してくださるのだ」
なっ!?またしてもババを引くのか花咲さんは……。これはクズ勇者たちが聞けば喜びそうなネタだ……。
「なっ!なんとっ!それはすばらしい!ただ召喚者を殺すのは法律上は不可能でございます……何か良い手が?」
「何をいっておるのですが国王?あのゴミのステータスを見たでしょう?勇者ではないのです。来賓扱いではなくなれば、即放浪者と同じ身分になります」
「なるほどぉ……放浪者としてなら……どこでのたれ死のうと問題ありますまい」
「……くくく。そういうことです。初手の実行には勇者を使うと良いでしょう。多少無理やりでもゴミの非にできますからな」
「おおぉ、何から何まで完璧ですな!」
……俺はその場を静かに抜け出した。これ以上は大した情報はないだろう。
しかしこれはいよいよ王国とそれに教会も信用おけなくなったな。彼らの思惑と差異が生じれば、僕らもあっさりと殺されるだろう。このままでは、生き延びるための情報と手数はまだ足りなそうだ。しかし存在力の総量、それに暗殺計画。この情報は色々と使えそうだ。例えば鈴沢さんとの交渉でもカードになりそうだ。
相変わらずのルーチンワークを続ける僕ら。あまり進展があるように思えなくて不安を感じてる。
剣術、主に僕は短剣術をのばしていた。長剣を持つことは少ないと思う。
隠密行動の邪魔になるだけだしね。
それとクラスメイトのストレスというかギスギスした雰囲気が気になる。
今は暴動が起きるのは避けたい。ストレスが限界になりそうなやつをあの食堂に誘ってやるか。
そう思っていたら、突然事は起きた。
僕は現場にいなかったからわからなかったが、クラスメイトの誰かが魔法でストレスを解消させようと、花咲さんを攻撃したらしい。
花咲さんは怪我を負って生死の情報はわからなかった。
おいおい……そこまでやるのか……これは例の国王と大司教の話が現実化したと考えるのが自然だろう。これは僕らの身にも危険が及ぶのは遠くないと考えるべきだ。
僕はそれについての情報を集めた。
次の日になって、急にメイドたちの態度が変わった。
朝の支度の最中の話だ。
「ねぇソフィさん、昨日の事件について何か知ってる?」
「事件ですか?あの中庭での件でしょうか?」
「そう!それについてどういう話を聞いている?」
「わたくしが知っている事実でよろしければ……。モコ=ハナサキというクz……いえ、ゴm……オホン、召喚者が怒り狂って暴れて勇者様方にファイアーボールを撃った殺人未遂容疑がかけられています」
「はっ!?」
「ですからあの犯罪者は現在、裁定待ちの為拘束中です」
なんだそれは!?あのやさしいソフィさんからこんなキツイ言葉を聞きたくなかった……。しかもおそらくこれは真実を知っていてなお、嘘をついている。
ダメだ……|こいつ(……)はもう敵だ。
そろそろ行動に移すべき時間だろう。花咲さんは動けないだろうから、接触するならまず鈴沢さんだ。彼女はいっつも取り巻きと一緒にいて、声をかけ難い。でも今は異世界。守れるのは己のみ。多少周りの|顰蹙(ひんしゅく)を買おうが、やれることをやらなくては。
「こんにちは。鈴沢さん。いまちょっとお話いい?」
「あぁん?あーし忙しんですけどー?」
「あー藤堂?こいつはザ・普通くん」
「そんなネーミングなんだ。じわるわ~」
「ぐっ……」
やっぱりこいつら嫌いだ!!!
「す、鈴沢さんだけにちょっと話があるんだけど」
「なぁに?告る気?あーし興味ないよ」
だーもう!はぐらかされて話が進まない!
こうなったら実力行使だ。僕は彼女の耳元に顔をすばやく近づけて囁いた。
「(花咲さんのことで話がある)」
「!!!!!!!!」
お、これに彼女はいい反応を示した……。
ふふふ、クッソビッチギャルだと思ってたけど、こういう反応を示すとは可愛いかもしれないな彼女。
「い、いいわ!あっちの広い部屋で聞いてやろうじゃないの」
「きらら?いいの?こいつ目がちょっといやらしいんだけど」
「大丈夫大丈夫。あーしがこいつにやられるわけないでしょ」
「それなーっ!」
「じゃあいってらー」
僕と鈴沢さんはすぐ近くの大きい部屋でテーブル席についた。
他に聞かれたくないし、ついてきたソフィさんと鈴沢さんのメイドにはお茶の用意をしてもらうことにした。
「そんで?メイドまで遠ざけて何の話?」
「ごめん。ステータス登録の時に、花咲さんを笑っていなかった君とどうしても話がしたかったんだ」
「おー、それに気が付けるとは、藤堂やるねぇ。あんたの話をきいてやるよ」
相変わらず太々しい態度だけど、興味を持ってくれた。
これは大きな収穫だ。しかしまだ僕のことを舐めるように見て値踏みしているようだ。
「ありがとう!あの時さ、王国側の人間もクラスメイトも全員わらってただろ?それに異様さというか気持ち悪さを感じたんだ」
「そんで?」
「普段はこういうことを良しとしない委員長や飛鳥井、三菱さんまで笑っていた。洗脳か何かの精神干渉があったと、僕は思っている」
「ん~?あーしの見た限りだと、飛鳥井と委員長は元からクズよ?三菱さんは微妙、良く知らん」
「え……?じゃ、じゃあ二見くんのことはどう思ってる?彼も笑ってなかった」
「あーあいつは花咲に惚れてるのよ」
「はぁああああああ!?」
「あいつは精神的にも強くなるきっかけがあったし、仮にあんたが言う精神干渉があったとしてもはねのけるでしょうね。その強くなるきっかけにも花咲が影響しているから想いは相当強いわ、ただ周りはまったく見えてないから、使い物にはならない」
「そ、そうか……」
「で?あんたは何がしたいの?」
急に鈴沢さんの目つきがきつくなる。いくら能力を授かったからって戦闘のプロではない彼女が殺気を放ったところで、ふわっとして相手に突き刺さらない。
しかし明確な殺意を向けるような反応を見せる。
「……あ、ああ。転移前さ、花咲さんってイジメられてただろ?怪我ばかりしていたし。」
「そうね」
「僕は彼女を助ける勇気がなかった……。本当に屑さ僕は」
「だけど、君と君のグループ3人はイジメてたけど、あれは外部の強い殺意をもつグループの敵意を霧散させるためにやってただろ」
「おおおおぉおお!だいせいかーーい!よくぞそれにたどり着いたぁ!」
彼女はパチパチパチっと拍手をしながら純粋に僕のことを褒めている。
喜んでいいのか悪いのか、ちょっと小ばかにされた気分だ。
まぁ良くも悪くも彼女の性質なのだろう。
「あーしはモコを陰からサポートしていた。クズから守るためにね。あーしのグループの、サキ、キョウコ、ランも協力してもらってる。ただ彼女たちはあーしのお願いだから聞いてくれてるだけで、彼女は好きじゃないってさ」
「じゃあ実質、鈴沢さんと二見くんだけか……」
「そうなるわね……いままでは」
「いままでは?」
鈴沢さんは、僕のことを気に入ったようで、慣れ親しんだように手を握ってくる。やめてくれよ僕は童貞なんだから、勘違いしちゃうだろ?
「これからは、あんたも……でしょ?」
「!」
彼女は僕の手を握ったまま上目遣いで見つめてくる。
か、かわいい……。
はっ!あ、あぶない、僕は彼女の毒牙にかかってしまうところだった。いまは生き残る手段を見つけるのが先だ。
「あ、ああ。だから僕も彼女をサポートしたいと思っているんだ。きみはどうする?」
「いいねいいね!ここは伝手も何もないから、いまモコがどうしてるかわからなくて、さっぱりだったし」
「ああ、やってやろう!僕も調べてみるよ!」
本当は花咲さんのことはどうだってよかったが、今は彼女に話を合わせよう。可愛いしね!
あの情報は隠したままだ。僕は自分がクズであることを知っている。
こうして2人だけの仮初の勇者パーティーは出来上がったのだった。
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