第2話

蝉の声がやけに煩わしい。ぬるい風は肌の汗を嫌にさせるばかりだ。そんな中、屋上に夏海は一人で立っていた。丁寧に折りたたまれた白い紙飛行機には大切な言葉がいくつも綴られている。

雪が完全に溶けきってしまう頃、月華雪乃は遠くへいってしまった。突然の別れに夏海は泣いて文句を何度も言った。しかしそれが雪乃に届くことがないことをようやく呑み込めた頃、彼女は雪乃に言われた通りに紙飛行機に手紙を綴って屋上から飛ばすようにしている。

あの山の向こう、それよりもっと遠く。どこまで離れていたとしても必ず雪乃に届くと信じて今日も紙飛行機を飛ばす。

今日も、明日も、紙飛行機は飛ぶ。あの山の向こうまで、雪乃の元まで。

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月の雲隠れ 月桂樹 @Bay_laurel

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