第3話 先生と二人きりの時間

「せっ、先生!」

「びっくりしたか? どうだ一緒の席に座らないか?」

「はい」


 背の高い橘先生が私の横に立つと、私には先生の腕が見え、そのまま見上げて視線を向ける。

 目が合うと先生は笑顔で私を店の奥の席にエスコートしてくれた。

 四人掛けのテーブルに二人で向かい合って座ると、先生は「鞄貸して」と言いながら、さっと私の通学バッグを空いてる席に置いてくれた。


「で、相模は何食べる? 先生奢ってやるから」

「いいですよ、そんな。お小遣い持ってきたし、そんなこと生徒一人にしたらえこひいきになりますよ」

「じゃ、内緒な? で、何にする? 俺は苺のかき氷にするぞ」

「えっ……橘先生も苺のかき氷好きなんですか?」

「ああ。ってことは相模も?」

「あっ、はい」

「じゃあ、かき氷でいいか?」

「……はい」


 私は橘先生に会えたばかりか、ちょっとした共通点を見つけられて飛び上がるほど嬉しかった。

 同じ物が好きってすごく特別ですごく尊い気がした。


「おばちゃーん、苺のかき氷二つ」

「あいよ。二つね」


 胸が苦しい。私はまともに橘先生の顔が見れないでいた。口ではいくら憎らしい言葉をいったりして素っ気ない風を装ったって、私は先生が大好きだから、橘先生のちょっとした一言や仕草で気持ちが左右されてしまう。


 橘先生は話し上手聞き上手だと感じてた。


「友達を作るのは難しいよな」

 唐突に先生は言った。

 でも先生のなかではいつも、いつ私にそれを問いかけようか考えていたに違いない。

「私、一人が良いんで。高校の友達なんて要りません。それに友達ならちゃんといますよ? 中学まで一緒に通っていた幼馴染みが」

「そうか。それを聞いて先生はちょっと安心したぞ。相模にも腹を割って話せる親友がいるんだな」

 嘘じゃない。

 つい前まで高校進学までは仲のいい子はいた。


 先生と私の前に待ちに待った苺のかき氷がやって来た。

 シロップだけじゃなくて、苺の果肉がたくさんのったかき氷。


 私と先生はテーブルに置かれたガラスの器をそれぞれ自分の方に寄せ、一瞬目が合う。

 先生が優しく笑った。


「さぁ、食べようか。いただきます」

「いただきます」


 一口すくったかき氷を口に入れると、苺の甘酸っぱさと練乳のどこまでも甘い濃厚さ、削られた氷のひんやりさが混ざりながら駆け巡る。

 かき氷と橘先生が私の幸せメーターを上げた。


 先生が私の目の前にいてくれることが、甘さに加わる。

 私の『好き』が深くなる。


 ――橘先生が好き。


 ただでさえ美味しい苺のかき氷が、いつもより数倍美味しかった。




        つづく





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