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 グレッシオとマドロラ、クシミールはウキヤに辿り着いた翌日、早速キャリーに連れられて、ウキヤの裏通りを歩いていた。

 ちなみにジョエロワは別件で情報収集に向かっている。



 キャリーが先導をして移動しているからだろうか、昨日のよそ者を見るような視線ではなく、客を見るような視線になっている。

 それだけこの場所は、粛正される恐れのある裏に属することばかり行っているのだろう。だからこそ、粛正されないように客と言うのを絞っている。



 グレッシオはキャリーがいてくれて良かったと思いながら、キャリーの後ろをついていく。

 キャリーは恐る恐るといった様子だが、彼女にとってはホームグラウンドである裏通りをどんどん進んでいく。



 時折キャリーは裏通りに存在する孤児に声をかけられたりしていた。それに対してキャリーは淡々と答えていた。ここでずっと過ごして、この場所でずっと生きていたとはいえ、キャリーにとってこの場所で親しいものはいないのかもしれない。

 それはすぐに想像が出来た。もっとも親しいものがいるのならば、わざわざマドロラについていき、ニガレーダ王国に足を踏み入れようなどとは思わないだろうが。




「――まず、此処」



 キャリーはそう言って一つの場所へとグレッシオたちを案内した。



 それは裏通りの中にある小さな教会のような場所である。こんな教会のような場所でそのようなこそこそとした何かが行われているのだろうかと不思議に思う。

 とはいえ、宗教的な団体の中では腐敗している場所というのも多くある。それかもしくはこの場所は教会とはいえ、もう神官などもいない場所なのだろうかとさえ思う。



 グレッシオはそんなことを思いながら、その小さな教会の裏口から中へと入る。





 中には神官服を着た男性がいた。





 その男性はキャリーとは顔見知りらしい。




「おや、キャリー。その方々は?」

「裏通りに用事あるらしい。だから連れてきた」




 キャリーがそう言えば、神官は目を細めてグレッシオたちを見る。



 その細目の神官は、グレッシオたちを探るような視線で見る。優し気な雰囲気を身に纏っているが、その見た目通りではないだろう。

 そもそも本当に心優しい普通の神官であるというのならば、こんな裏通りにいたりはしない。






「さて、この裏街の方に用事とはどういってご用件でしょうか? 私の所でやっているのは、性奴隷の斡旋などぐらいですが」

「……そういうのではないな」

「そうですか。では、どういったご用件ですか?」




 此処は教会。そしているのは神官だというのに、やっていることはそういうことらしい。なんともまぁ、すっかり腐敗している場所である。

 とはいえ、この目の前の男は神官服を着ているとはいえ、きちんとした神官ではないのかもしれないとグレッシオはそのように考えた。



 この神官も正規の神官ではなく、非正規な手段で神官になったのか、それともそもそもの話、神官の見た目をしていながらも神官ではないのか。



 ――神官ではないのに、神官を装うような人物というのはそれなりにいるものだ。神への冒涜だなどと言われたりもする闇神官は、神官を装うことによって利益を得る事が出来るからと神官を装っていることが多い。

 正規な神官はきちんとその信仰団体で洗礼をうけ、修行を行ったものだけである。目の前の神官が正規の神官にはとてもじゃないが見えない。




 こういう闇神官と呼ばれる連中は、正規の神官たちとは敵対している。見つかれば捕まり、良くて長い労働、悪くて処刑である。





「非正規の奴隷商を探している。そこで奴隷を買いたいと思っている」

「ほぉ、なるほど。それで此処にですか。目の付け所が良いですね。ウキヤは正規の奴隷商も多い街ですが、非正規の奴隷を売る場所も多いものです。わざわざ非正規の奴隷商を探しているということはよっぽど珍しい奴隷をお求めなのでしょう」




 神官はそう言いながらグレッシオたちを射抜くように見た。




「それも娯楽としてではなく、別の目的をもって探しているように見えますね。きちんとお金があるというのならば私の方から奴隷商に話をしましょう。見た所、貴方達はこの裏街をなくそうとしているわけでもなさそうですし。お客でしたらご案内しますよ」




 非正規の奴隷商の扱っている奴隷は非合法な奴隷ばかりである。表に出せないような奴隷――、それを扱うのが非正規の奴隷商だ。

 正規の奴隷商が扱っているのは、金銭を払えずに奴隷に落ちたものや戦争によって奴隷に落ちたものといったものが多い。あとは奴隷の子供であるからそのまま奴隷になったものなどだ。正規の奴隷は奴隷としての仕事を全うすれば、奴隷から抜け出すことも認められている。



 非正規の奴隷商は無理やり奴隷に落とされたものが多い。本人自体には非がないのに奴隷に落ちたものである。——こちらはそもそも奴隷から抜け出すことが難しい。


 ちなみに正規の奴隷商でもかなりグレーなゾーンで奴隷に落とされるものもいる。奴隷商が借金を作らせて、そのまま奴隷に落としたりとか。



 グレッシオたちは神官の後ろをついていき、非正規の奴隷商の元へと向かうことになった。




 

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