私が溶けた

荒瀬 悠人

第1話

溶けたアイスが手首を伝う。

まるで青年の想いのように。


隣にいる青年の視線に、今日も私は気付かないふりをする。この時、いつも私は、大人になり過ぎたのだなと実感する。

学校での出来事、部活、友達、そして将来の話し。彼はどれだけ私を苦しめているか、知りもしない。

恥と後悔と希望に満ちた汗を拭い、若さを振りかざしてくることが、どれだけ残酷なことか、彼は知らない。


「年を取るとね、期待したくないのよ。ほっといてちょうだい」


「年がどうとかよく分かんないけど、俺はあなたが好きです。それでいいじゃないですか」



唐突な告白。


どうしよう。


私が溶けた。


もう元には戻らない。


年を取って、季節を避けてしまいがちになる私を、あなたは呼び戻そうとする。


「ねえ、モヒートって知ってる?」


「なんですかそれ?どこかの首都ですか?」


あなたがあんまり楽しそうに笑うからついついつられてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が溶けた 荒瀬 悠人 @arase_yuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ