効果は一時間!さあどうする?

「何? 何かまた問題でも?」


 モジャラが聞くと、十時に代わって風魔が答えた。


「そうか、あやかし村から人間界に行くのも一時間位かかるからね。今の季節は雪女の雪子にとって、外を歩くのでさえ危険なことだからなあ……」

「そうそう、家を出る前に塗って、暑さで溶けないように人間に変身しておくって手もあるけど、そうなると海に着く前に効果は切れるし、そもそも妖怪の世界こちらがわで人間に変身するのってどうなのかな……」

「なるほど……それは確かに難しいね」

「俺たちは雪子が人間になっても『これこれこうだから変身したんだ』って分かってるから良いけど、事情を知らない他の妖怪や地獄が騒ぎ出したら厄介なんだよねー」

「そうそう。そうなると、海遊びどころじゃなくなるね。もしかしたら、皆で地獄に行って申し開きをしないといけなくなるかも」


 モジャラは風魔の言葉に、ヒェーッと全身の毛を逆立てた。


「そ、それは嫌だなあ!」


 いくら妖怪で、恐ろしいものやおぞましいものを沢山見慣れていると言っても、何か悪い事をしたら罰として連れて行かれ、痛い目に遭わせられるのがその場所なので、モジャラも地獄はあまり好きじゃない……というか、かなり苦手なのである。


「本当にね。僕も、閻魔大王あのひとには会いたくない。例え申し開きが五分かそこらで済んだとしても、閻魔大王あのひとはそれから五時間くらい、こっちの鼓膜が破れるくらいの大声で自慢話をするか、じめじめさめざめと愚痴を言うかするに決まってる」


 ……風魔も風魔で、モジャラとはまた違う心配をしているようだ。


「困ったねー。でも薬の効果をこれ以上伸ばすことは出来ないから……何か別の方法を探さないと。ウーン、雪子専用の冷凍庫でも作った方が良いのかな……。でもなあ、まだモンスターの方に時間がかかりそうだし……」

「今から作ると間に合わなくなっちゃうかな?」

「ウーン、多分……」


 十時は申し訳なさそうに両眉を下げてモジャラを見た。


 でもその時だった。風魔が「クーラーボックス」と呟いたのは。


「うんと保冷剤や氷を入れて冷やしたクーラーボックスに雪子を入れて、人間界の海まで運べば良いんじゃないか? 薬は海に着いてから、クーラーボックスの中で塗れば良いんだよ」

「おおっ……!」

「それはっ……!」


 十時とモジャラは顔を見合わせ、同時に言った。


「名案だ!!」


 しかし、あやかし村には、雪子がしっかり収まるようなBIGサイズのクーラーボックスはない。

 そもそも、「クーラーボックス」を使うという概念がないのだ。冷蔵庫や冷凍庫なども、かわうそや雪子のように料理屋でもやっているのでなければ、持っていないのが普通である。


「誰かにそれらしいものを借りてくる? 例えばさ、ドラキュラのホームズさんに言って……」と、モジャラは知り合いの名を挙げた。


 ドラキュラのホームズさん、というのも、なかなか個性的で面白い妖怪なのだが、彼の話はここでは割愛させて頂く。


「棺を借りたってしょうがないだろう……。やっぱり、クーラーボックスはきちんとしたところで用意しよう。それが一番だよ」

「えっ、用意するって、どこで?」

「人間界のホームセンターだよ。ドロさんも誘って行こうかな」


 僕は人間界が苦手なんだけどね……と、風魔は苦笑いしながら言った。


「そこで十時にお願いがあるんだけど」

「え、なに?」

「その人間に変身できる薬を、貸してもらえないかな。僕とドロさんでテストしてみたいんだ」

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