人間に変身できる薬

 かわうその店での会合から、ちょうど二週間目に突入する頃、フラフラヨロヨロ……として、ちょっとやつれた感じの十時が風魔の小屋にやって来た。


「おや、十時」


 大丈夫かい、と風魔は言おうとしたが、十時の顔を見て後の言葉を飲み込んだ。


「やっと、やっと出来たんだ……!」


 十時は嬉し泣きをしていたのである。


「へえ、もう出来たんだ」

「すげえ、十時! で、出来たのはどっちなんだ? モンスターの方? 人間に変身できる薬の方?」


 モジャラが聞くと、

「モンスターは、まだ。完成したのは、人間に変身出来る薬の方だよ!」と十時は言い、マントの裾をひらりとなびかせ、白衣のポケットから白いチューブを取り出した。


「名付けて!『ベム〜早く人間になりたい〜』」

「や、やめとけよその名前は!!」


 モジャラは慄いた。


「パクリだろうが!!」


 しかし、思い通りのものが出来てバラ色気分の十時の耳には、注意など届かない。何なに、これくらいどうってことはない。ちょっとくらいのパクリなんて、温かい目で見守ってあげよう。


「ま、あがりなよ十時。人間に変身出来る薬について話を聞かせてよ」

「お、OK……!」


 十時はすぐに風魔の小屋に飛び込んだ。そして誰よりも早く居間のちゃぶ台の前に座り、くだんのチューブを出すと、中身を少量、ちゃぶ台の表面に押し出して見せた。


「これはね、見かけはただの保湿クリームみたいだけど、全身に塗りたくれば、どんな妖怪でも人間に変身出来ちゃうって優れモノなんだ!」

「え、マジのマジな話?」


 モジャラは、ただ白くてドロっとしているだけのクリームを見て、目を丸くした。


「全然、霊験あらたかな感じには見えないけど!! 本当に、こんなんで人間になれるの?」

「もちろん!」


 十時は笑いかけたが、急に肩を落として、「だけどさ、一つだけ問題があるんだよね……」と言った。


「効果がね、一時間しかもたないんだよ。俺、頑張ったけど、どうしてもそれ以上時間を伸ばせなかったんだ。妖怪が人間になるというのは、それなりに負担のかかることで……」

「いや、一時間ももてば充分じゃないか? ねえ、モジャラ」

「オイラは平気だと思うよ〜。それに、それはクリームなんだろ? だったら、また塗り直せば良いじゃん。効果が切れた時にさ」

「うん、そう、そうなんだけど、ね……」


 十時は頷いたが、腕組みをしながら、まだウーンと考えている。

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