風魔が大ピンチ?!

 翌日。雪子のアイス・ガーデンで、朝になるまで楽しくおしゃべりをした妖怪たちは、やっぱり大寝坊。

 モジャラとマシュラの二人は黄昏時たそがれどきになってようやく目を覚ました。破れ畳の広がる風魔の小屋の中である。


「わ~! かなり寝坊しちゃったっ!」

「オイラも……」

「昨日は寝るのが遅かったからねぇ…。あ、あれ? 風魔くんは?」


 マシュラは驚いた。

 昨晩まで隣にいたはずの風魔が居ない……。


「本当だ! どこ行ったんだ、風魔!」


 モジャラは小屋をパタパタと走り回った。気が付いてみると、風魔がいつも履いている下駄が土間からなくなっている。


「どうして一人でどっか行っちゃうかなー!」


 もちろんモジャラは、風魔がいつもマシュラを鬱陶うっとうしがっている? 怖がっている? のはよく知っているし、昨日も寝るという段になって、「なんでマシュラは学校に帰らないんだ??」とおののいているのも見ていたから、風魔が居なくなった理由は分かっているのだけれども……。


 せめて自分には何か言ってからにしてほしかったと思った。簡単な書置きでもいいし。何の伝言もなく取り残されるのは好きでない。


「全く……。風魔は……」


 ところが、突然マシュラがすすり泣きを始めたので、モジャラは慌てて振り向いた。


「シクシク……。うぅ、風魔くん……」

「マ、マシュラ! 泣くことないって!」

「だって……風魔くんに何かあったと思うと……!」

「だ、大丈夫だよそんな! どうせかわうその所だって! オイラが今探しに行って来るから!」

「ううん……。もう、風魔くんがどこにいるのかはわかってるの……」

「何だって?」


 マシュラは涙をポタポタと畳に落としながら、いつから持っていたのか、魔法で取り出したのか、茶色の古びた地図を広げて見せた。


「今ね、私、さがしものの魔法を使ってみたの……そしたら……!」


 マシュラは最後まで言い終わらないうちに、ワッと畳に泣き伏した。


「ええっ、妖川の上流の、地下七百メートルに埋まってるっ?!」


 地図を見て、すっとんきょうな声を上げはしたが、「さすがにそれはないだろう」と最初、モジャラは思った。

 しかし、泣き続けるマシュラを見ているうちに、「もしかしたら本当かもしれない……」とだんだん気持ちが変化した。


 地下七百メートル……。これが本当なら、さすがに風魔でもヤバいかも。

 そう考えると、居てもたってもいられなくなり、モジャラは足をバタつかせながら小屋の外へ飛び出した。


「……マシュラ! 何があったのか考えるのは後にして、今はとにかく風魔を助けに行こう!」

「そ、そうだね! ごめんね、私取り乱しちゃって……」


 涙を拭きながら、慌ててマシュラも外へ出た。



 二人は道々相談をして、夜な夜なお墓の穴を掘っている亡霊の「ムロ」さんの家に寄り、スコップを二つ借りた。

 マシュラは大きいのを、モジャラは小さいのを引きずって川の上流へ急ぐ。


「マシュラ、風魔が埋まってるのはこの辺かなぁ?」

「うん、地図がここだって言ってる……あ、だめだめ! 土を叩かないで! 気を付けないと、風魔くんが……」

「ごめん! じゃ、そっと掘ろう……」


 二人はそれから黙って一時間ほど掘り続けた。

 ところが、土が固くてなかなか思うように掘り進められない。

 穴の深さがやっと一メートルに達した所で、マシュラもモジャラも地面にあおむけに倒れ込んだ。

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