第34話   タチアナ・ショック

 私。タチアナ・クローク一等航宙士は二十歳になったばかりであった。

 帝国軍第17艦隊第7水雷戦隊第4駆逐隊所属の駆逐艦ユウ7号で火器管制オペレータとして従軍している。

 下っ端の私に戦況の全体像が分かるはずもなく、与えられた任務を忠実にこなすことに専念していた。

 そして、それは突然訪れた。

 

 「敵、機動兵器、急速接近」

 「対空弾幕を展開せよ」

 2隻の敵突撃艦を6隻で追いかけている最中に後ろからさらに2隻が現れた。それだけなら最初の2隻を沈めた後に残りを攻撃すればいいだけだったが、敵はさらに機動兵器まで持ち出した。

 「目標セット。攻撃準備よし」

 私は訓練通りに対空火器を目標に向けた。

 「撃ち方初め」

 艦長の号令の下に射撃を開始する。

 実際に自分の目で見たことはないが、滝のような勢いで対空砲や迎撃ミサイル火を噴いているはずだ。

 しかし、なかなか目標に命中しない。コントロールできる射程一杯で撃っているのもあるが、広い宇宙にどれだけ砲撃しても空間を満たすことができない。

 機動兵器ってやつらはちょこまかと動き回り、その上的が小さい。

 撃てども撃てども敵の数が減らない。

 目標の追尾や設定はシステムが自動で行うので人間の技術の介在する余地はないはずだが、攻撃が当たらないのは自分が下手くそだからだと感じてしまう。

 そうこうしている内に機動兵器からの攻撃で仲間の艦のうち2隻が損傷を受けた。

 艦長の話を片耳で聞いていると、どうやら近くの味方と合流するようだ。

 私は人に気づかれないように、ほっと一息をつく。それがだめだったのだろう。凶報が飛び込んできた。

 「トウカ4号が攻撃を受けています」

 さっきの機動兵器で損傷を受けた艦だ。

 艦長が何事か命じようとした時。

 「セツ8号に被弾。後部ジェネレータ付近です」

 後ろから迫っていた敵の突撃艦の仕業だった。

 援護射撃をする間もなくほんの一瞬で仲間が2隻も沈められる。

 第4駆逐隊は全速力で援軍のいる方向に方向転換した。実際には逃げ出したんだ。

 敵の艦が追ってきていないと知った時は神様に感謝した。

 「第2巡洋戦隊と合流後、接近中の敵突撃艦を撃破する」

 艦長の訓示に正直まだやるんですか、と言いたい。

 だが言えない。戦闘意欲が薄弱と思われると良くて営倉、悪くて銃殺刑にされるらしい。

 私は顔に出てないか気になって頬をさすってしまった。そしてびっくりするほど汗をかいていることに気づいた。

 

 合流した味方の姿を見て私は安心した。

 私たちが乗っているユウ7号よりはるかに大きい上に、強力な主砲をつけた巡洋艦が2隻も現れたからだ。これならさっきの突撃艦がまたやってきても近づかれる前に沈めてやれる。

 隊列を整えて、敵のいた方向へ再び進んでいくと奴らも準備をしていたようだ。

 「敵、機動兵器多数。100機近い数です」

 私はちょっとその報告の意味が解らなかった。

 10機程度だった機動兵器がどうして100機に増えるのよ。

 「敵は機動部隊か」

 艦長が副長と何か言いあっている。

 機動部隊ってなんだったけ。軽いパニックになっていたのだろう何のことかわからなかった。

 そうだ。空母だ。やたらと機動兵器を抱え込んだ大きい艦。そいつが近くにいるんだ。

 私は対空砲と迎撃ミサイルの設定をもう一回確認する。

 大丈夫。全部正常だ。

 「対空戦闘用意」

 「対空迎撃準備よし」

 私は副長に向かって叫んだ。

 この艦の防空任務は私にかかっている。


 敵を捕捉して10分もたたないうちに隣のオペレータが叫んだ。

 「敵艦。より分離する物体あり。数6。いえ8魚雷と思われます」

 「対抗雷撃戦用意。合図とともに囮発射」

 対抗雷撃戦では私に出番はない雷撃員の仕事だ。

 魚雷を私の対空砲やミサイルで攻撃すると距離によっては艦に被害が出てしまう。私の担当になる前に撃ち落としてほしい。

 雷撃と共に敵の機動兵器が一斉に動き出す。

 100機の機動兵器がいくつかの集団に分かれて襲い掛かってくる。

 「対空射撃開始」

 今回。私が乗っているユウ7号の受け持つ迎撃範囲はさっきの戦いよりも小さかった。味方の艦と協力して迎撃できるからだ。

 対空迎撃は上手くいっている。特に巡洋艦は一隻で広範囲をカバーしてくれる。それが2隻もいるんだ。

 私は自分の担当エリアだけを気にしていればよかった。

 ピーピーピー

 突然私の端末が警告音を出す。

 今までの機動兵器と動きが違うものが接近してくる。

 「対艦攻撃機の反応あり」

 私はシステムが出した結論を副長に報告する。

 「優先的に排除せよ」

 「ヤー」

 言われなくてもそうするように訓練されている。

 こっちに来るなという思いと来るなら来てみろ、という気持ちが入り乱れる。

 目標が射程圏内に入った。

 「攻撃開始」

 私の指示により対空砲が真っすぐ飛んでくる対艦攻撃機にむかって発砲した。

 どうやら奴らのお目当ては巡洋艦らしく私たちの方には来なかった。

 奴らの進路を横から妨害してやった。

 私はたぶん一機落としたと思う。少なくともシステムはそう言っている。

 「対艦攻撃機。一機撃破」

 「よくやった。引き続き迎撃せよ」

 私の報告に艦長が笑顔を向けてくれる。

 私は嬉しくなってしまって必要以上に威勢のいい返事をした。でも私は人を殺したんだよね。それが一人か二人かは知らないけれど。

 殺した人の死体が目の前にあればきっと私は悲鳴を上げて腰を抜かし何もできなくなるだろう。でも、私の戦場は高価な戦闘機械に囲まれた空間で、死体どころか異臭も爆音もしない。不気味なほど清潔な戦場だ。

 だから私も戦える。

 その後も数えるのも嫌になるほどの機動兵器の相手をする。機体の撃破も大事だけと命中コースにある敵のミサイルを撃ち落とす方が優先だ。

 それは上手くできたと思う。少なくともユウ7号には目立った被害が出ていない。機動兵器は艦と違い武器の搭載量が少ない。一斉に来てありったけのミサイルをばら撒いたらさっと消えるものだ。もう少し頑張れば凌げる。

 

 「敵突撃艦。突入してきます。4隻。方位754」

 機動兵器に夢中になって、すっかり忘れてしまっていた。私の相手ではないけれど突撃艦もいたんだった。

 それは艦長も同じだったようで慌てて主砲を突撃艦に向けるように指示を出した。

 仲間の機動兵器を囮にして突っ込んでくるなんてなんて卑怯な奴らだろう。

 私は敵の突撃艦に憤りを感じた。

 「敵雷撃を確認。数16」

 「対抗雷撃戦。囮放出。対空弾幕も張れ」

 艦長が命令する

 突然の目標変更に私は手間取る。

 大丈夫。

 落ち着け。

 まだ時間はある。

 とりあえず射程の長いミサイルを敵の魚雷に向けよう。対空砲は射程に入るまで時間があるから、ぎりぎりまで機動兵器の相手をしなくては。

 対抗雷撃とミサイルを突破されたら対空砲が最後の頼みだ。私は注意深くタイミングを計らなくてはならない。

 この切り替えは訓練の中でも最も繰り返してやった。

 奴らの魚雷の中には馬鹿みたいに大きなものがある。駆逐艦なら近くで爆発しただけでやられてしまうらしい。

 私の対空砲がへましたら艦長が神がかった操艦で避けてくれるといいんだけど。


 私の祈りは半分成就した。

 対抗雷撃と迎撃ミサイルで半分以上の魚雷を撃ち落とし、私の対空砲も仕事をした。したはずだったが味方の艦に向かっていた一本の魚雷が急に方向転換してこっちに飛んできたんだ。

 「取り舵一杯。E側スラスタ全開。対空弾幕」

 私だって馬鹿じゃない。言われる前に何とかしようと試みるけど。急激な姿勢変化に対空砲の管制が追い付かない。見当違いの方向を撃っている。

 迎撃ミサイルが目標をとらえた時には魚雷が目の前まで近づいていた。

 魚雷の接近警報が鳴り響く中、私は悲鳴を上げたと思うがちょっと覚えていない。

 覚えているのは艦長の操艦が良かったのか私の祈りが通じたのか、敵の魚雷がユウ7号の側舷を通過していったことだけだ。

 だが敵の性根は腐っているんだろう。

 私が歓喜の声を上げようとした瞬間を狙って奴らの魚雷が爆発したんだ。

 ユウ7号は爆発に煽られるように姿勢を崩す。

 艦橋に多種多彩な警告音が鳴り響く。

 いろいろな報告が一斉に艦長に上がる。

 ほとんどが悪い知らせだ。

 「ジェネレータにダメージ。出力低下します」

 「予備電源に切り替えろ」

 「推力低下。速度を維持できません」

 「後部区画に破断発生。空気漏れを起こしています」

 「後部区画を閉鎖」

 「後部区画閉鎖。くそ。気密扉反応しません」

 今度は私の番だ。

 「近接用火器管制システム。使用不能です」

 システムの再起動を試みるも何の操作も受け付けない。

 「ダメージレベルが3を超えます。艦長」

 副長が艦長に向かって何かを促した。

 艦長はぎゅっと目をつぶり俯いた後。顔を上げて命令した。

 「艦を放棄する。総員退艦」

 それはユウ7号の死を意味した。

 全員が席を立ち上がって退艦準備にかかかる。

 ユウ7号には2隻のランチと人数分の脱出カプセルが積んである。

 脱出には基本はカプセルを使えと教えられる。

 私は迷わずカプセルの積んである区画に向かおうとしたが、みんなが止まっている。

 早く行ってよ。

 叫びそうになると副長が艦長に報告している。

 「右舷。脱出カプセルまでの通路が破壊されています」

 それは脱出カプセルの半分が使えないことを意味している。

 「ランチを使う。2号艇は貴様が指揮しろ。艦橋要員はランチに乗り込め」

 みんなが一斉に動き出す。

 ああっ。ランチでの脱出になってしまった。

 大丈夫なんだろうか。

 私はランチの格納庫に向かって進んだ。



 コンコルディア艦長。カルロ・バルバリーゴ少佐には嫌いな訓練がある。

 いや。カルロだけではなく多くの艦隊勤務者も同じ気持ちに違いない。少なくともあれを好きだというものは相当な変わり者だ。

 誰もが嫌う訓練。それが「宇宙遊泳訓練」である。

 部外者がこれを聞くと、なんだ宇宙服着て漂うだけだろうと言う。そんなことを言う連中にはぜひともこの訓練に参加してほしい。

 この訓練実に単純で簡単で過酷なものだ。

 行うのは付近に恒星や惑星、微小天体すらないような宙域が選ばれる。そして全員、宇宙服を着てその空間に放り出される。一人一人が視認できないような距離まで散らばると訓練開始。

 なに。実に簡単で2時間経ったら手にした発信装置のボタンを押すというだけの代物だ。当然時計は持って行かない。体感時間だけで2時間を過ごすのだ。

 時間が来てボタンを押すと信号をキャッチしたドローンがやってきて訓練者を連れて帰ってくれる。それで終了。子供でもできそうな訓練だ。


 「ドルフィン大尉。貴様。遊泳訓練の記録。何分だ」

 「えっ」

 コンコルディアの艦長席から突然の質問が降ってきた。

 「やっただろう。鳩の餌みたいにばら撒かれるやつ」

 「やりましたが、その良い成績とは」

 「何分だ」

 「最大37分であります」

 恥ずかし気にドルフィン大尉は申告した。

 「おおっ。頑張ってるじゃないか。30分超えたら大したもんだ」

 「艦長は何分なんです」

 「貴様のタイムを聞いた後だと言いにくいな」

 カルロは頬を掻く。

 「それはフェアではありませんよ」

 「違いない。最高記録33分だ。平均では22分」

 「その。平均的な成績ですね」

 ドルフィン大尉が言いにくそうに感想を述べたがカルロは気にも留めずに頷いた。

 「何度かやらされたが30分の壁はきつい。よく37分も耐えれたな」

 「タイムを伸ばすために同期と賭けをいたしましてなんとか」

 「勝ったのか」

 「いえ。負けました」

 「なんだ。同期は何分だ」

 「41分であります。完敗です」

 「40分の壁を超えるとは」

 「しばらく自慢話に耐えなければなりませんでした」

 「それは自慢するな」

 二人の会話を聞いていたクルーも隣のクルーと、お前何分などと話が盛り上がる。艦隊勤務者鉄板の話題であった。

 この訓練最大の難点は恐怖と感覚である。

 広い宇宙空間にただ一人で放っぽり出される。

 目標となる天体も見えずほとんど暗闇。通信もできない。自分が今どんな体勢なのかもわからない。

 大丈夫だ。テストもしっかり行ったと頭でわかっていても、もし発信装置が壊れていたら、何らかのトラブルで発見してもらえなかったらと想像すると、目のくらむような感覚に襲われる。

 大体5分ぐらいで自分の呼吸音が気になりだし、そのうちに心臓の鼓動がやけに大きく響き出す。

 早いものはここで恐怖に耐えかねてボタンを押す。

 これで第一段階。ここを乗り切ったものが次に遭遇するのが時間感覚。

 2時間だから結構長い。あれこれ考えて、もう2時間経っただろうとボタンを押して戻ってみると20分も経っていないことに驚くのだ。

 中には半日ぐらいの感覚だからいくら何でも大丈夫だろうとボタンを押したが20分。というものもいる。

 この訓練は1時間超えられたら英雄。2時間完遂する奴はド変態と呼ばれるほどに過酷だった。

 ちなみにこの訓練には失格というものがない。2分だろうが2時間だろうが訓練終了となる。だが時にこのタイムは軍隊という最強の縦社会で大きな武器として使えるのだ。

 一説には人事考査にも用いられるとの噂もあった。

 「あの訓練な。何の役に立つのかと当時は考えていたが、今なら痛いほどよくわかる」

 「同感です。救助活動を早急に行います」

 ドルフィン大尉が背筋を伸ばした。


 コンコルディアを含む第13航空打撃群は帝国軍との交戦エリアに進出し、撃墜された友軍機の救助活動を行っていた。

 機動兵器には二種類の脱出方法がある。一つ目は被弾し制御不能と判断したAIが自動でコクピットブロックをパージする方法。このコクピットブロックはそのまま脱出カプセルとなり国際救難信号を発信しながら搭乗者を冷凍休眠状態に持っていく。搭乗者を仮死状態にすることにより生命維持に係わるエネルギーを節約し長期間の漂流にも対処可能だ。

 記録では最大3年後に無事救出された例があるほど優秀な装置だ。装置自体も頑丈に作られているため信頼度が高い。

 もう一つがキャノピーを吹き飛ばしてパイロットだけで脱出する方法だ。

 これはコクピットブロックすらも破壊されたときに使う最後の手段だ。

 パイロットスーツにはバッテリーと酸素と水、若干の栄養液が装着されているが、休眠装置はついていない。救難信号の出力は小さい。太陽風の状況によっては探知できないこともしばしばだ。

 まさにあの宇宙遊泳訓練と同じ状況になる。

 自力で動くこともできず、訓練の様にドローンが来てくれるわけでもない。

 カルロはパイロットたちの恐怖心を思い身震いした。

 戦死は即死に限る、と誰かが言っていたが遺憾ながら同意する。



 私。タチアナ・クローク一等航宙士は艦長の指揮する1号艇に乗り込み、沈みゆくユウ7号から脱出した。

 艦長の中には沈みゆく船と運命を共にする人もいるらしいが、うちの艦長はそんなことがなかったので少しほっとした。

 だが、安心したのもつかの間。このランチという乗り物はあくまでも艦と艦とを行きかう用の連絡艇。脱出を想定はしているけど専用ではないのだ。

 私は後部貨物室の壁に取り付けられている簡易シートに体を固定していた。

 目の前には重傷を負った機関士が担架に括り付けられている。意識はあるようだ。時折うめき声をあげているがここでは応急措置以上のことはできない。

 そんな光景を前にして私は仲間と同じ蒼い顔をしていただろう。

 会話は禁止されてはいなかったが酸素の消費を考えると話す気にならない。

 せいぜい隣の操舵士に。

 「怪我はない」

 「大丈夫。ありがとう」

 これぐらいだ。

 このランチが脱出カプセルより優れている点は、ある程度なら自力で航行できること、通信設備が整っていることだろう。味方の艦が近くにいれば拾ってもらえる。

 戦闘はどうなっているのだろうか。

 巡洋艦一隻に魚雷が命中したらしいが、大丈夫だろうか。

 突撃艦の雷撃にやられてはいないだろうか。

 このランチに流れ弾が当たらないだろうか。

 いつになったら味方の艦に拾ってもらえるのだろうか。

 お父さんとお母さんはどうしているだろう。弟のヨハンは今学校にいっているのだろうか。犬のパブロはなどと、ぐるぐると思考が回転する。

 どれぐらいそうしていたか分からない。

 ずいぶん時間がたった。

 突然後部貨物室のハッチが開いて艦長が入ってきた。

 もちろんみんなの注目が艦長に集まった。

 艦長は私たちの顔をぐるっと見渡し重々しく告げた。

 「我が栄光ある帝国軍は今回の海戦に敗北したようだ」

 一斉にうめき声が上がった。

 私も呻いていたはずだ。

 「味方は撤退を開始し、本艇の周囲には友軍の姿はない。敗北した以上、友軍による救助作業は望み薄だ」

 つまり置いて行かれた。

 私は放心してシートの上で崩れ落ちた。

 体を固定していなければ、そこら辺を漂っていただろう。

 「もし、連邦軍が接近してくれば、私は本職の責任において投降信号を上げる。諸君らの奮戦に感謝し、それを生かせなかったことを謝罪する。すまない」

 艦長は軍帽を小脇に抱えると見たこともないぐらい深々と頭を下げた。

 「頭を上げてください。艦長」

 その姿に私は正気を取り戻し声を上げた。

 皆口々に同じようなことを言う。

 それでも艦長は中々頭を上げてはくれなかった。

 「艦長。方位206より接近する艦艇あり。連邦軍のようです」

 操縦室より通信が入った。

 「わかった」

 艦長が貨物室から出ていくと私はベルトを外して小さな窓にとりついた。それを見た仲間も次々に外して窓に群がる。

 目視で見える距離には何もなく、ただ星々の海が広がっているだけ。

 私は交替で窓を譲った。

 降伏か。仕方ないと言えばそれまでだけど、どんな扱いを受けるのだろうか。

 一応帝国軍と同様の扱いをしているらしいが、帝国軍でもたまに虐待の話が出てくる。

 運が良ければ捕虜交換で一年とたたずに解放される例も聞いた。

 逆に何年も抑留される話も。

 しばらくすると敵との交信が貨物室にも流れた。

 「こちら。人類共生連邦軍所属。突撃艦コンコルディア。貴船の投降信号を確認した。投降する意志有や」

 「こちら。銀河帝国軍所属。レオン・ハスラム少佐だ。貴軍に投降する」

 「了解した。そちらの人数を述べられたし」

 「総勢16人。うち重傷者2名だ。救護を要請する」

 「了解。国際戦時法第2条に基づき捕虜としての権利を保障する。なお抵抗する動き有とこちらが判断した場合。この条約は適応されないことを強く警告する」

 「了解した。抵抗はしない。そちらの指示に従おう。付近に同じ型のランチいるはずだ。小官の部下たちが乗っている。私の決定を伝えてくれ」

 艦長と敵の突撃艦とのやり取りが続く。

 仲間の一人が見えたぞという。

 皆が窓に集まる。

 私も窓を譲ってもらい外を見た。

 突撃艦にしては随分大型の艦がゆっくりと近づいてくる。

 「エスペラント級だ。俺たちを雷撃した艦かな」

 そうか、私たちのユウ7号はこいつにやられたのかもしれない。

 私は私を殺したかもしれないその艦を睨みつけてやった。

 こうして私たちは連邦軍の捕虜となった。

 国にはいつ帰れるのだろう。

 

                          続く

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