第8話    威力偵察

 損傷箇所の修理が完了したコンコルディアは、僚艦のムーアと共にナビリア星域への帰途へと着いた。


 帰り道は、ナビリアへ向かう輸送船団に随伴し、楽に航行できた。


アウストレシアから帰還したコンコルディアとムーアの乗組員には、ローテーションに従い休暇が与えられる。カルロも久々に休暇を得たのだが、知人から呼び出しがかかる。




 「お久しぶりです。ベッサリオン大佐」


 惑星クースの軌道ステーションにある、騒がしい安酒場で一人の男が待っていた。 


 「敬礼はいらん。休暇中なのだろう」


 「そうですよ。しかし、参謀将校ともあろうお方が、いいんですか。こんな場末の酒場にいて」


 カルロは砕けた口調で、上官を非難する。


 連邦軍には、私生活にも様々な規約がある。その中に、将校はそれなりの格式のある飲食店を選ぶべし。というものがある。破ったとしても罰則があるわけではないが、度が過ぎると憲兵から苦情が来る。


 「いいのさ。貴様もこちらの方が、落ち着くだろ」


 「まぁ。そうなんですけどね。あぁ、ビール」


 ウエイトレスに注文した。


 「元気そうで何より。今日は私のおごりだ。好きなだけ飲めるぞ」


 「酒は好きですけど、強くは無いので。知ってるでしょ」


 「だから安心して、おごれるんじゃないか」


 「そうでした。とりあえず遠慮なく」


 そこから、お互いの近況報告をして、飲み食いした。




 「カルロ。お前に一つ。頼みがある」


 ベッサリオン大佐が本題を切り出す。


 「頼みですか。命令では無くて」


 「命令だったら。こんなところで言わないだろ。紙切れ一枚で済ませるさ」


 ベッサリオン大佐は肩をすくめて見せた。


 「で。何をすればいいんですか。先輩」


 意味ありげに笑った。


 「ニルド奪還戦が近いのは知っているな」


 「ええ。アウストレシアからの帰り道も、輸送船団の護衛をしましたからね。あれは定期便ではないでしょう。部下の間でも年内に、何らかの行動があると、もっぱらですよ」


 大規模な軍事作戦が計画されると、いくら情報統制をしても、物資の集積や、艦艇の編成で、下っ端の兵卒にすら、見当を付けられてしまう。


 「ここしばらくトリニダーゴ方面は膠着状態だ。これを利用して司令部ではニルド奪還を出汁に、ナビリアの戦力強化を狙っている」


 「なるほど、トリニダーゴに動きがなければ、こちらに戦力を回してもらえますね」


 「そこで、貴様にニルドへの威力偵察を頼みたい」


 「威力偵察ですか、偵察ではなくて」


 ベッサリオンは頷いた。


 威力偵察とは、別名失敗しない偵察と呼ばれている。通常の偵察が情報収集艦で行われるのに対して、威力偵察は戦闘艦によって行われる。敵防衛線に対して攻撃を行い、その反応を見る。攻撃が成功して無傷で帰ってこれれば、防御が薄いと知れ、全滅すれば、防御が硬いとわかる。受けた損害で、敵の戦力を測る偵察方法であった。


 「冗談でしょ。俺に死んでこいと」


 カルロは呆れる。


 「そこまでしなくていい。ただし、損害出してくれ」


 「損害ですか、まぁ。出すなと言われても出ますからね。どれぐらいです」


 「半数が未帰還。具体的に言えば、二隻ほどの損失が欲しい」


 ベッサリオンの要求に笑い出してしまった。


 「ご存じないかもしれませんが、ウチの54戦隊は編成未完了で、現状、二隻体制ですよ。二隻も沈めば全滅です」


 「心配するな。沈む船は司令部の方で用意する」


 「用意するって。人員は」


 「むろん。無人艦だ」


 「なるほど。やらせで損害を出して、艦政本部や艦隊総司令部に「タシケント軍は強力だ。もっと増援をよこせ」と言うつもりでしたか」


 カルロはタコのから揚げを口に放り込む。


 「話が早いじゃないか」


 「上手くいきますか」


 「貴様がタシケント相手に、上手く踊ってくれれば、後はこちらで何とかする。それにだ。上手く戦力強化が通れば。54戦隊も正式に発足できる、そうなれば貴様が正式に戦隊司令だ」


 ベッサリオンはカルロの前に餌をぶら下げた。


 「それはいいですね」 


 カルロは、にやりと笑う。


 「軍は階級と役職が全てだ。守りたいものがあるのなら、より高い階級、強い権限をもつ役職が必須だ。今更、貴様に言うことでもないがな」


 「判りました。威力偵察の実施が決まっているなら、我々に任せていただける事は光栄です。しかし、いいんですか。こんな場所で軍の機密について話して、情報部が怒りますよ」


 カルロは周りを窺う。


 「大丈夫だ。クリーニングは済んでいる」


 「なんだ。情報部の承認済みでしたか。それでいつ始めるのです」


 二人は、細かい打ち合わせをした。


 「助かる。いつもすまんな」


 「先輩には世話になっていますから。先日の人質解放作戦では迷惑掛けました」


 「あれは、気にするな。いまだに根に持っているやつは少数だよ」


 二人はビールジョッキを仰ぐ。


 「そう言えば、お姫様の調子はどうだ。仲良くやっているか」


 「ロンバッハ艦長のことですか。仲良くやってるのではないですかね。話しかけたら答えてくれますし」


 「人の妹を、コミュニケーション障害のように言うな」


 「お言葉ですが、やや、その気はありますよ」 


 唸るベッサリオンの姿がコミカルでカルロは笑った。




 短い休暇が済むと、第54戦隊に正式な命令が発令された。


 「これは、何の意味があるでしょうか」


 作戦書をめくりながら、ロンバッハが首を傾げる。


 「貴官らの代わりに、身代わりになる船があるんだ。上手く使いたまえ」


 「はぁ」


 作戦参謀の説明にも、いまいち納得できないようだ。


 「下手に他の艦と組まされても、我々の機動力が抑制されるから、良いではないか」


 最新型のエスペラント級突撃艦についてこれる艦は少ない。他の突撃艦と組むと遅い艦に合わせた機動を強要される。カルロは利点を強調して見せた。


 「了解いたしました」


 ロンバッハもとりあえず疑問は引っ込めた。




 「説明しなさい」


 作戦参謀が退出し、作戦室がカルロとロンバッハだけになると、当然のように詰め寄られる。


 「何のことでせう」


 「しらじらしい。私が疑問を持つのに、あなたが肯定的なんて、おかしいでしょ」


 「おかしくは無いだろう。我々は死なずに済みそうだからな」


 「ということは、無人艦は撃破される前提なのね」


 「前提というか、無人艦なのだから、身代わりになって貰わなければ意味が無いのでは。タシケントの奴らもバカじゃない。無人艦ぐらい余裕で落としてくるだろう。我々はそのデータを観測すれば、楽に任務が達成できて、いいじゃないか」


 ロンバッハは額に手を当てて考え込む。


 「妙に、ペラペラと。どうやら、前もって理論武装しているようね。私に話せないことかしら」


 カルロが隠し事をしている前提で話しが進む。


 「考えすぎではないでしょうか」


 ロンバッハは黙って、じっと、カルロの目を見つめる。碧い瞳が逃げを許さない。


 「お前、それは、ずるくないか」


 「話して」


 「あぁ。もう。はいはい」


 カルロは諦めて、手を振る。


 「ベッサリオン大佐の要請だ」


 カルロの答えに、ロンバッハが盛大にため息をつく。


 「それなら、それと、初めから言いなさい。変に勘ぐってしまうでしょ」


 「今ので判るのか」


 「どうせ。くだらない。政治的取引でしょう。聞く気にもならないわ」


 「左様で」


 疑念が解けた、ロンバッハは銀の髪をなびかせて、振り返りもせずに作戦室を出て行った。




 準備の整った第54戦隊は、老朽化した軍の輸送艦二隻を引き連れて、ニルドに向けて出発した。


 現在、タシケントに武力占領されている、ニルド公国は、ナビリアの中でも小さな単一惑星国家である。そこに向かう航路は二つしかなかった。


 「目標α2撃破しました」


 タシケントの監視衛星を撃破する。


 「これで2つ目か、思ったより少ないな」


 ドルフィン中尉の報告に頷く。


 「そろそろ。インターセプトが上がってくるな。善し。後退する」


 カルロは、転進を命じる。


 「予定通り、航路から抜けるぞ」


 「迂回機動なんかして、いいんですか。威力偵察なのに」


 「かまわん。現場の判断だ」


 本来ならこのまま進んで、無人艦を生贄にして形だけの戦闘でも良いのだが、単純すぎて性に合わない。どうしても一捻り入れたくなる。


 「進路変更1002」


 「アイサー。進路変更1002」


 54戦隊は、主要航路から離れ、タシケント側の迎撃をかわす事にした。  




 「ポイント541D偵察衛星からの信号ロスト」


 「これで2つ目か。何者かの襲撃だな」


 ニルドに設置された、タシケント駐留軍のステーションは、即座に反応を示した。


 「インターセプター発進せよ」


 二隻の駆逐艦が出撃していく。




 「さて。どう反応するかな」


 「想定されている戦力は、戦艦1~2隻。航空母艦も同数。重巡洋艦戦隊1個 水雷戦隊2~3個。護衛艦20隻程度でしたね。」


 情報部からの想定では、タシケントはかなりの戦力をニルドに集結させている。


 「真正面からぶつかると、3分と持たんな」


 「いきなり、全戦力と遭遇しないでしょうが、圧倒的に不利ですね」


 「攻略しろ言われれば、本気で脱走するな」


 カルロの言葉にドルフィン中尉は笑って同意した。


 「艦長。予定の航路に乗りました」


 航海長の報告に頷く。


 タシケント側の索敵ラインを潜り込む軌道を取った。


 「どこあたりで、捕捉されるかな」


 カルロは腕を組む。捕捉されるまで進まなければならないのが、今回の任務だ。


 「そういえば、無人艦に予備の推進剤が積んであったな。今のうちに補充しておくか。おい。ムーアに連絡しろ。ここで、補給する」


 「アイサー」




 「迎撃隊からの通信です。敵影なし。破壊された探査衛星の残骸のみです」


 タシケントのニルドコントロールは首を捻る。


 「ただの、ハラスメント攻撃か。そのまま周囲を警戒させろ」


 「アイサー」


 カルロ達、54戦隊はタシケントの哨戒網に、補足されることは無かった。




 「どこまで、進めるのだ。あまり奥まで行ってしまうと、帰りが大変なことになるぞ」


 54戦隊は、文字通り無人の野を突き進む。そろそろ、接敵して、無人艦をぶつけて帰りたい。


 「ムーアに繋げ」


 カルロはロンバッハに相談することにした。


 「このまま、進むしかないでしょう」


 ロンバッハの回答は明確だった。


 「しかし。想定より、深く進入している。帰り道のことを考えると」


 「偶然とはいえ、タシケントの索敵ラインを潜り抜けたのですから、一撃して帰りましょう」


 ものすごく単純に言い切られた。


 「そうだな。幸運と考えるか」


 このまま進むことにする。




 「うーん。どうしてこうなった」


 カルロは唸る。


 目の前にはタシケントと惑星ニルドを繋ぐ、航路が広がる。


 進めるまで進むという、プランに従った結果、止められることなく、敵補給線に到達してしまった。通商破壊戦をするつもりが全く無かったので、無駄に動揺してしまった。


 「どうしますか」


 「まて。考えている」


 このまま、目に付く輸送船を片っ端から臨検して、手当たりしだい拿捕して帰れば、大戦果だ。連邦軍では、拿捕した船に積み込まれた物資の10%はボーナスとして、乗組員に分配されることになっていた。積み込まれている物資にもよるが、一攫千金のチャンスだ。


 「何隻か拿捕してだ。無事に帰れるか」


 カルロの質問に、ドルフィン中尉は呻く。


 「厳しいでしょう。ここまで到達できたのは、たまたまですから、目の色変えて追いかけてくるタシケントに対して、足の遅い船を同行させるのは無理でしょう」


 「そうだな。よし。諦めた。進路変更339」


 「アイサー。進路変更339」


 後ろ髪引かれる思いを残しながら、惑星ニルドに向けて舵を切った。




 「哨戒艇247より、入電。ポイント994H114にて、連邦軍の艦艇を発見。数2」


 その、報告にニルド駐留軍はパニックになる。


 「馬鹿な。補給線が分断されるぞ。上がれる部隊を集めろ」


 「どうして、簡単に裏に回れる。哨戒部隊は何をしていた」


 「とにかく、敵の規模を確認しろ、本格的な進攻なら、完全に後手に回っている」


 少ない情報では、最悪の事態を想定しなくてはならない。蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。


 「連邦の針路は」 


 「針路987このままでは、民間の軌道ステーションに接触します」


 「ポイント665Q22で食い止めるぞ。第21水雷戦隊と機動部隊を回せ」


 動かせるものは、とりあえず何でもかき集める。


 「哨戒艇131より入電。接近中の敵艦は、強襲揚陸艦です」


 「強襲揚陸艦だと。後続は」


 「いまだ確認できません」


 「探せ。強襲揚陸艦が来るということは、背後に艦隊がいるはずだ」


 実際は軍艦色に塗装された輸送船でしかないが、軍事的な常識が、ただの輸送艦を強襲揚陸艦に見せた。


 タシケントは血眼になって、存在しない艦隊を探す。




 「無人艦。捕捉されました」


 「よしよし。後はどれぐらい食いついてくれるかな」 


 無人艦から送られるデータが利用できているが、直に撃沈される。


 「艦長。見てください」


 チャートに転送されたデータに背筋が震えた。


 「すごい数ですね。一個戦隊以上です」


 「よし。食いついたな。ムーアに打電。我に続け。このまま突撃する。第一戦速」


 カルロは声を張り上げた。


 コンコルディアとムーアは単縦陣を組んで、手薄になった宙域を突き進んだ。


 居住惑星の軌道上には、通信衛星から工業プラント、宇宙船のドックに到るまで、様々な設備が設置されている。


 国際的な軍事協定により、明確な民生設備への攻撃は禁止されている。とはいえ、戦闘中の不幸な事故ということで、うやむやにされることが多いが、今回はその手を使う必要は無かった。


 「目標まで3分」


 第54戦隊は、囮の無人艦とは惑星ニルドとは反対側から侵入した。


 「全艦。雷撃戦用意。一番から4番まで魚雷、装填」


 「アイサー。魚雷装填。1番から4番」


 「無人艦からの信号をロスト。撃沈された模様です」


 「ご苦労様」


 カルロは沈めた船を短く労った。




 「ポイント874G225に感あり。IFFに反応ありません」


 「敵艦と認定。迎撃を回せ。二正面作戦するほどの戦力の浸透をなぜ許した」


 「動ける艦艇は、強襲揚陸艦への対応に出払っています」


 「哨戒艇でも構わん。とにかくやつらの好きにさせるな」


 タシケントコントロールは徐々にパニックから立ち直りつつあったが、手持ちの戦力が無かった。




 「目標を捕捉」


 「てっー」


 計8本の量子反応魚雷が放たれる。超弩級戦艦ですら、当たればひとたまりも無い。


 そして、今回の目標は、外れる心配が無かった。




 「敵艦から分離する物体あり。魚雷と思われます」


 オペレーターの報告にタシケントの指揮官は青ざめる。


 「どこに向けてだ。確認急げ」


 「解析中です」


 8本の魚雷と見られる物体は、ある一点を目指している。


 「解析でました。第8エネルギープラントです」


 「第8プラント。くそ。軍のエネルギープラントか」


 ニルドの軍用エネルギープラントは元々、連邦軍が設置したプラントだ。ニルド陥落後はタシケントが利用していた。自分で設置したプラントを攻撃するなら、あらゆるデータが揃っている。誤射の心配も無い。




 「目標に命中。全弾命中です」


 コンコルディアの艦橋が沸く。


 モニターの中で、全長2kmある、エネルギープラントは盛大に爆発する。あの調子ではスクラップにするしかないだろう。


 「タシケントに使われているとはいえ、自分の持ち物を吹き飛ばすのはいい気分ではないな」


 「そうですね。ですが、威力偵察としては大戦果ですよ」 


 ドルフイン中尉の言葉に頷き、気分を変える。


 「よろしい。ここからが本番だ。いいか、家に着くまでが遠足だぞ」


 軍では割とよく聞く冗談に、皆声を上げて笑う。士気は高い。


 「艦長。ちょっとよろしいですか」


 オペレーターが声を上げた。


 「どうした」


 「タシケントの通信を解析していましたが、ここです」


 「ここがどうした」


 オペレーターは衛星軌道上のある一点を指し示した。


 「恐らく、敵の司令部です」


 「本当か」


 横から見ていた、ドルフィン中尉が色めき立つ。


 「攻撃いたしますか」


 カルロはチャートを前に僅かに考えた。


 「無理だな。ここからでは、攻撃前に捕捉される。刺し違えてまで戦いたいやつはいるか」


 クルーに向かって、軽い口調で言う。艦橋の幾人かは明確に首を振った。


 「私もだ」


 「艦長。ムーアから入電」


 「繋げ」


 ロンバッハ少佐がモニターに現れた。


 「バルバリーゴ艦長。こちらでタシケントの司令部を捕捉しました。攻撃しましょう」


 予想外の好戦的な台詞が飛び出した。


 「却下だ。我々だけで戦争をする気か。エネルギープラントを吹飛ばしたので充分だ」


 「了解。そう仰ると思いました。ただ挨拶ぐらいはしておきたいですね」


 好戦的な意見をすぐさま、引っ込めたところを見ると、こちらが本題のようだ。


 ロンバッハの碧い瞳が光る。


 「礼儀正しいことで。挨拶ね」


 一刻も早く帰りたいのだが、せっかく司令部が判明したのに、何もしないというのも芸が無い。


 攻撃は出来ないが、何か嫌がらせぐらいは、していくのが、敵としての作法か。


 「そうだな。昔、観艦式のエキシビションでやったのをやってみるか」


 「バーティカル・キューバン・エイトね」


 間髪いれずに答えが返ってきた。


 「覚えているか」


 「もちろん」


 「では、タシケントの皆様にご挨拶だ」


 併走していたコンコルディアとムーアは再び、単縦陣を組んだ。




 「敵艦の艦種が判明しました。連邦のエスペラント級突撃艦です」


 「エスペラント級は、連邦の新鋭艦だな。データを集めろ」


 「司令。目標に変化あり。機動を変更しています。なんだこれは」


 それっきりオペレーターは黙り込んでしまった。


 「どうした。報告しろ」


 「いえ。しかし、これは。映像に切り替えます」


 ニルド・コントロールのメインモニターには光り輝く帯が表示される。


 「なんだ。これは」


  光の帯は、ロールを加えながら徐々に巨大な8の字に形作られる。


 ニルド・コントロールのスタッフは呆然と見上げていたが、何が起こったかすぐにわかった。これは、曲芸飛行の展示だ。


 「ふざけた真似を」


 連邦の突撃艦は、救難信号用の発光剤を艦尾から放出しながら航行する。


 放出された発光剤は、光り輝きながら、二隻の突撃艦の機動を正確にトレースする。僅か数分の短い時間のことであったが、見ているものに強烈に印象付けた。


 「なんて。高性能な突撃艦だ」


 データの解析を続けていた、オペレーターが呟く。


 「性能だけではないぞ、恐ろしく練度の高い連中だ」


 二隻の突撃艦の描く光の帯は、ロールのタイミングも含めて、完璧にシンクロして機動していることを如実に描いていた。一人で操縦する機動兵器ではなく、複数の人員で操舵する艦艇をペアで、航空ショーの真似事をして見せるとは、僅か二隻とはいえ、途方も無い艦隊運動だ。


 ニルド・コントロールの面々は、各々の立場で連邦の実力を理解し、慄然とした。




 「発光剤、放出停止。3秒前」


 「3・2・1今」


 「停止。取り舵20 第一戦速」


 「アイサー。取り舵20 第一戦速」


 「どうだ」


 やり切った顔でカルロは叫ぶ。


 「成功したと思われます」


 「ここまで、上手くいくとは、思わなかった。観艦式の時よりいい出来じゃないか」


 「おめでとうございます」


 はしゃぐカルロにドルフィン中尉は祝いを述べた。


 「うむ。挨拶は終わった。帰るぞ。進路変更876」


 二隻の突撃艦は、タシケントの追撃を振り切るために、加速し離脱していく。後には、陽動に引っかかったニルド駐留艦隊と破壊された軍用プラントが残される。


 ニルドへの威力偵察は、無事終了した。




                                        続く

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