第2話 パフォス略奪

「我が王よ!」

首飾りの王は砂浜で一人が肩から斬られ血を流しながら倒れるのをじっと見つめる。


「なんと…なんと…」

その場は大いに盛り上がる。自分の兵を斬った男が何かを騒ぎ立てるとその部下らしき男達も武器を天高くあげておぞましい声で叫ぶ。


「王よ!本隊を出します!!いいですね!!」


その勢いに負かされた自軍の兵士達は4人全員が武器も取らずに男たちに背を向け逃げていく。


「出せ!本隊を出せ!!あの獣共を打ち払え!」


「ちゃんと、物を奪ったら火をつけとけよ」


この町はまぁまぁ栄えてるみたいだな…、港はまぁ整備されているが…ここは本当にヒッタイトか?

まぁ、良いや。


石を加工して作られた家が四角い家が、港から続く道の方向を向いて少し上がりがちな土地に建ち、その最も後の谷の上がり切った所に大きな宮殿が広がる。

そして、今そこには人間の津波が迫ろうとしていた。


「男なんていらないからなぁ~」

やっぱり、いくらとってもまだ敵は来ねぇな。

仲間と目についた家を略奪しながら町を登ってきたが…ここヒッタイトじゃねぇな。


今はどれくらいまで来たか。

宮殿からの距離から測って大体半分くらい過ぎたらしいな。



扉を蹴っ飛ばして開けると、そこでは誰かを後ろに庇いこちらに小さなナイフを向け震えている逞しそうな漁師が立っていた。


「おっ、これはいいや」


家の窓から、外で鳴り響く悲鳴や怒号がひっきりなしに聞こえてくる。

ここの人間は無抵抗な奴ばかりだったが、こいつは骨がありそうだ。


「怖がんなよ」


こいつの後ろにいるのは、わけぇ新妻か?と…ちいせい息子か。

若妻は…ほぉ、これは上玉じゃないか。

逞しい漁師は大きい体を前傾姿勢にしながら、激しく呼吸し、目を見開く。


おっ、来るか?


足を浮かせて、こっちに突っ込んでナイフを刺しに…

おっ。

半身をねじってナイフを避け、勢いのついた漁師の足を引っかけこかせる。

威勢いいじゃん!


「気に入った!」


馬乗りになり首を斬る。

「お前に免じてこいつらは逃がしてやるよ、もう聞こえないだろうけどな」

若妻と小さな息子に近づく。


怯え切った様子の若妻は震えながらも、息子を後ろに隠し必死に庇っている。

言葉は分からないだろうから、何を説明しても無駄だろう。

抵抗する若妻を無理やり引っ張って家の外に出す。

子供もくっついてきているようだ。

そして手を放し、しかめっ面でシッシッと手を払う。

何を言っても分からねぇだろうが、これなら分かるだろ。

若妻ははっとした顔をし、息子を抱え上のほうへ逃げていった。

そっちならまだ略奪が及んでいねぇから逃げられるな。


ごろつき同然だし、この行動に善意を感じてほしいわけでもねぇ、ただ個人で戦った勇気ある人間を尊敬してぇ。

だから、そいつは殺してやるが、そいつの意志は尊重する。

そうでもしないとな…


「本隊、総集しました!いつでもでれます!」


「うむ…総員出撃!獣狩りだ!」


まだ、宮殿の方までは略奪の波が届いていない。

そんな宮殿で鬨の声が上がる。


「お前らー!集まれ!物取り終わり!!」


そう言ってから、腰につけた青銅の角笛を吹く


「よく訓練された獣どもだ!蹴散らしてくれる!」


上の方には少しひらけたところがあり軍団を展開するには十分な広さだった。


「よしっ!この広場から展開する!コスタス!軍団を二つに分ける一方はお前に

任せる、アラム人は俺と!フェニキア人はそいつと行け!」


広場からはちょうど道が2つに分かれており離れれば離れるほど道が分散していった。


「行くぞ!!目標上!ある程度まで進んだら角笛を吹く!そしたら止まって盾を下ろして屈め!そこからはいつも通りだ!」


いくつかに分かれている道でいくつかの軍団が固まって走っていた。

それはちょうど広場を目指している。


褐色の肌をした兵士たちが上から下から、金色に光る銅鎧を揺らし金の剣を振り上げて走る。


互いに敵が見える程になってきた途端、角笛がなる。

そして、蛮族達はそれぞれの道に横一杯になりながら止まり一斉に盾を前に向け地面に下ろす。


「止まるな!怯むな!なんてことはない!!ビビってるだけだ!」


盾の後ろに全員の体がスッポリと隠れている。

それが4箇所で起こった。

動く様子が無い。


「!、盾を構」

その瞬間、4箇所で一斉に、盾の後ろから槍が横いっぱいに広がって飛んでくる。


「うっ、待て、逃げるな!待て!」

角笛が鳴ったと同時に盾があげられ、兵士達がそこから飛び出し…



町は燃えていた。

活気溢れる港町だったが、今は空までも赤く染まる火の海に飲まれてしまっていた。


「中々頑張ったんだけどなぁ〜、残念だったな、でも抵抗しなければこんな痛い思いしなかったんだがな」


そこには一糸纏わない、中肉中背の、我が王と呼ばれていた男が、切り傷や痣だらけになりながら、縄で全身を縛られた状態で転がされていた。

その男の目の前には、王と呼び慕っていたものの首があった。


「にしてもだ、ここが本当にヒッタイトか?」


小さい中年男が、しゃがみ込み元王の目を見る蛮族の長の隣から、元王に訳して伝える。


元王はただ黙ってぐったりとしていたが、やがて何かを口走った。


「頭、ここヒッタイトじゃないらしいですわ!ここパフォスってとこらしいです」


「パフォスだ〜?聞いたことねぇな、ちっ、ヒッタイトじゃねぇのか…、まっ、どうりでね…ヒッタイトの場所を聞け」


中年男が再び問いかける。

ジッと、夜になり火で照らされ、半分が影になっている、褐色の顔が覗く。

その目は反射する火で赤く輝いている。

元王は答える。


「この先をずっと真っ直ぐ行ったら海がある、その先だ」


「そうか、ありがとよ」


蛮族の頭は、そう言うと、元王の首を短剣で切った。




















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