海の民~青銅器時代の大略奪~

蛇いちご

第1話 海の民

海には怪物だのなんだのがいると海に行ったことのねぇ奴は言う。

なんでもそいつらは頭に角をはやして大きなトカゲに乗ってくるらしい。

陸にまで上ってきて何から何まで奪っちまうんだと。

全くばかげた話だ。


だが、少しも心当たりがねぇわけでもない。




「見えてきましたわ、あれじゃあないですか」


船頭に呼ばれて、寝転がってた体を起こす。


周りはなんもねぇだだっぴっろいだけの水だが、確かに空気がちがう。

砂っぽい。


乗員の間をぬけて船首まで行って前を見る。


ほぉ…



「そうだな、あれが、ヒッタイトか?」



振り返る。



「お前ら!見えてきたぞ!!陸地だぜ!」



 船上にいる全員が歓声を上げ身を乗り出して前方を見る。幾つも連なる後ろの船からも歓声があがった。


竜骨に手をかけて前かがみになり、遠くに見える街並みを見つめる。


 ほぉ…、まぁまぁ豊かそうな町だが、想像とは違ったな、もっとでけぇ神殿みてぇのはねぇのか、これじゃあ大したものは出てこねぇかもな。


「よおーーーしっ!帆を下ろせ!!もう少しでかの強国ヒッタイトだ!!ワクワクするなぁ!」


「我が王よ!我が王!」



金に輝く首飾りをしている男の座る椅子の元へ男が駆けつけてきた。



「どうしたというのだ、そんなに慌てて」



「何やら大規模な船団がこちらに近づいております!」



 何を言っておる、と言いながら彼は石畳の中庭に置かれた椅子から立ち後ろを眺める。


 そこは町の中でも一際高い岡の上に置かれた宮殿であり、海を一望する事ができた。

 

だが、その海は普段の様に優し気な物ではなかった。そこには水の上を埋め尽くす帆船の群れが泳いでいたのだ。



 「よーーーーーしっ!!よし、よし、砂場に乗り上げ次第、始めようぜ」


 あと少しで乗り上げる。




 せり上がった竜骨が陸に当たり傾く。


 よし、陸にあがった…


 「いつも通り、戦利品は速い物勝ちだ、いいな?取り合うなよ」


 後ろに向かって呼びかける。


 「ん?あれは…、…全員手出しするなよ」




 「メンソフォタよ、奴らは何だと思う?」



首飾りの王が金色に輝く銅鎧に手をかけ体に付ける。



 「あれは、商船団などではありません、もっと邪悪で醜悪な物でしょう」



 「そうだな…、取り敢えず目的を聞かせに行った兵がやられ次第、本隊を投入しよう」



 「しかし…あの規模を打ち負かせるのでしょうか?」



 「うう…む」



 「なんにせよ、一応不穏な噂を聞き兵達を借りておいて助かりましたね、最も沿岸だから怪物に狙われやすいと」



 「む…」



 中庭からの目線の先では銅鎧を来て剣をもった兵士たちが上陸した船団に走り寄っていっていった。



「貴様らは何者だ?」


 とでも言っているのだろうが、あいにくこっちは何を言っているのか分からねぇ。


 「あ、そうだ、おいデルエティー」


 

 俺の後方の男たちの中から一際小さな、中年程の男が出す。


 「訳してくれ」


 話しかけてきた兵士の後ろの4人の兵士を眺める。

 


 金色に輝く銅鎧、腰に下げた銅剣



 

こいつら…ふーん、いっちょ前に自前の兵士なんていんのか、ってことはこれは国か?



「我々は決して何かを奪ったり乱暴をしにきたわけじゃない、平和裏に交易がしたくて来たんだ」



デルエティーが俺の言ったことを、精度は知らんが、訳して相手に伝えている。

この兵士、ちらちらと不思議そうな顔で、俺らの後ろの船を見てやがる…



こいつ勘づいたか?


兵士が聞き終わり何かを言う。



こいつ、剣を握る手に力が入ったな…


「それにしては荷物がすくな」



 デルエティーが言い終わる前に、銅鎧に巻いた縄に引っ掛けておいた銅の剣を抜き兵士が咄嗟の事に動けないでいるのを肩から斬る。


 もう少し馬鹿でいてくれたらちょっと楽だったんだがな。



「よーーしっ!!お前ら行くぞ!!ジャンジャン奪え、ジャンジャン殺せ!」


その場にいる全員は大歓声を上げながら槍を持ち、また、剣を抜く。

略奪の始まりだ。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る