体育1

「しかし花崎君もかわいらしい名前を選んだよね。その名前は自分で考えたの?」


「いや、親に考えてもらった。俺が娘だったらつけていた名前らしい」


「なるほどね、キラキラネームとかにされるよりはよっぽどいいんじゃないかな。例えば、飛翔の翔に馬と書いてしょうまじゃなくてペガサスみたいなさ」


 そんな名前の人には申し訳ないが、キラキラネームは可哀そうな名前だと思う。親のエゴイズムでつけられらような名前を果たして誇って名乗れるのだろうかと言われたら、答えは否となるに違いない。


「幸いそこに対する良識はあるらしい」


「キラキラネームをつける人ってどんな気持ちなんだろうね」


「さあ、子供が生まれて舞い上がっちゃったとか? 子供もいない俺たちが考えても無駄なのかもしれないけれど」


 近くにキラキラネームを持った人がいなかったというのも大きな原因かもしれないがキラキラネームというものの存在意義が俺にはいまいちわからない。


「でも、芦屋君はキラキラネームの心配をする必要はなさそうだよね」


「それはそういう意味だ、田中ぁ」


 低い声を出して芦屋が聞く。田中はくだらない話をする調子と同じくらい自然に芦屋をディスったが、それを見逃すことはなかったようだ。


「そのままの意味だよ。君はいい人だと思うけど、結婚は出来なさそうだって僕は思うんだ。根拠は聞かないでよ。あくまでも予感でしかないから」


「そうか、それなら俺はお前の予想を覆すことをここに宣言しよう。もしできなかったら、同窓会があった時に、恥ずかしい思い出を大声で言ってやるとな」


「そんな約束をしちゃってもいいのかなあ? ま、君がいいのなら僕はいいけどね」


 田中は基本優しいが、毒を吐くことがままある。その毒は比較的強いのでメンタルが弱いものが聞くと堪えることもあるようだが、そのおかげか、田中と付き合いのあるものは自然と鍛えられて精神が極めて強くなる。


「花崎君は芦谷君が結婚できると思う?」


 急に話を振られてどうも対応できない。でも芦屋が結婚か…… 


「うん、想像できない。でも田中も結婚するイメージはない。今の時代は結婚しない人もいい勢いるから何とも言えないけれど」


 この時勢では結婚しない人は異端などと言うことは控えたほうがいいし、一高校生の俺でもそんなこと多様性というやつに完全に反していることくらいわかる。


「だそうだぞ、田中も俺と仲良く結婚できないそうだな。お前も結婚できなかったら、俺と一緒に同窓会で恥ずかしいことを叫んでもらうからな」


 俺は思わず笑ってしまった。田中は勢いに押されながら承諾した。ここまで田中の毒舌が打ち消されかけるのはなかなかない。


「おい、そろそろ席につけよ」


 先生が教室に入ってきた。どうやら朝のHRの時間らしい。話に夢中で予鈴に気が付かなかった。不覚、気を付けないと。

 今日の授業は体育がある。それは俺にとってもなかなか面倒なこと。今回の種目は人数の関係で男女混合となった、器械体操。前方倒立回転飛びとかをする奴だ。一応俺もそれはできるが、今はできるかは分からない。できると信じたいものではあるが。


 俺はHRが終わると着替えのために教室を出て、体育科の部屋に行った。渡されたカギを使って開けると、そこにはテレビやソファがあった。ただしテレビは液晶ではなくブラウン管でほこりも少しかぶっていることからもう使われていないことは確実だ。ただビデオテープが棚にたくさん並べられていることから、過去にはしっかりと使われていたようだ。


 俺はソファの上に着替えを置いて、制服をぬいだ。たたむのはどうも苦手で、そのまま放ってしまった。下着姿になるが、どうにもこの姿は慣れない。そして体操着を着てヘアゴムでポニーテールにした。長いままだと面倒だが髪を切ることは姉に停められたのでこういうスタイルにしている。

 体操着はというとブルマではない。というか、そんな旧時代の遺物を採用している高校などあるのだろうか。もしあったら、倫理観を疑う。


―――――――――――――――――――――――――――――――

遅くなってすみません。それにしても今の時代にブルマなど採用している学校はないと信じたいものです。なぜあんなものがあったのか理解に苦しむしそれの実物を見たことのない世代であります。

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