両親

 恵、ね。でもあなたはこれで本当にいいの? 後悔しない?」


 姉は俺をじっと見ている。俺のことを心配してくれているのだろうか。でも俺の答えは決まっている。


「後悔はしない。俺はこれを受け入れないといけないんだ。今はまだ受け入れられない。それでも、その一歩としたいから」


「そう、恵也……いえ、今から恵か。恵がいいのならいいのだけど」


「そうそう、戸籍を改めるのは来週ね。今週は私も父さんも休みは取れないから、来週の月曜日に市役所には行きましょうか。先生には明日学校に行ったときに言うか戸籍を変えたときに言うかは自由にしなさい」


 母さんは俺に選択肢をくれた。学校側に伝えるのは俺だ。正式な書類を書き換える必要もあるだろうから、明日には伝えよう。これは蓮たちにも明日にはしっかり口頭で伝えよう。


「分かった。父さん、母さん」


「どうした」


「ありがと」


 この二人には精一杯の感謝をしたい。俺のすべてを受け入れてくれた。そして俺のことを真剣に考えてくれた。それほど感謝しなくてはならないことはない。


「子供のことを真剣に考えない親がどこにいる。親ってのは子供にいつだって大真面目に向き合っているんだよ」


「そうね、生まれて、物心がついてどんな言葉を投げかけたらいいのか本当に悩んだものね。それは今も同じなの」


 その言葉を聞くとどういうわけか、こころが暖かくなった。俺は何も言えなかった。嬉しかった。


「さて、ご飯にしようか。今日は結弦が作ってくれたらしいしな。私もたまには結弦の料理を食べてみたい」


 確かにこの姉はあまり料理をしない。厳密には、俺が作ることはよくあるが、姉が作ることは時間が合わなかったりして機会がないのだ。味のほうは大丈夫なのだろうが、ガサツな和えのことだ。少しばかり不安にもなる。


「見た目は大丈夫そうだな。姉ちゃん、味のほうは大丈夫なんだろうなあ?」


「問題があるように見えたら、あなたの目は確実に前にはついていないだろうね」


 自信たっぷりに言い切った。まずかったときはおちょくってやる。俺は目の前にある、みそ汁を口に含んだ。シイタケと煮干しの出汁がよく効いている。

 おかずは豚肉の生姜焼き。ショウガもチューブで撃っているものではなく、買ってきた生生姜を使っている。チューブのものは味が劣るし何やら味付けまで施されていることもある。それはもはや生姜とは言えない代替品に成り下がっているようにも思える。付け合わせは千切りキャベツにミニトマト。千切りもきれいだ。俺はここまで上手には出来ない。


 さらに細切りにした厚揚げとほうれん草の和え物もある。バランスの良い味付けだ。


「姉ちゃんを侮ってた」


「私もだ。結弦がここまでしっかりしたものを作れるとは思わなかった」


「二人とも前に作ったことは……あるけどそれは簡単なものだったか」


 そう、姉が前に作ってくれたのはカレーやスパゲティといった比較的簡単に作れるものばかりだった。


「あら、二人とも料理は上手よ。なんたって私が仕込んだんだもの」


 俺も母さんに料理を仕込まれたことがある。うちは両親共働きで俺や姉が作らないといけないことも多かった。母さんが作ってくれることも、父さんが作ってくれることも多かったが、俺や姉が作ることもまた多かった。昔は共同作業でやっていたことが今では一人でやるようになった。


「はあ~おいしかった。ごちそうさまでした」


 俺は腹をさすった。お茶を飲んで食器を台所に持って行った。うちでは料理を作った人が後片付けも責任もってやることになっていた。そして洗面台に行き歯磨きをして部屋に行った。この時点でもう9時半。残っている宿題もあるしそれを終わらせる必要がある。


 教科書を開いて宿題となっている問題集を開く。今日授業でやったノートも見ながら、進めた。やはり、一人のほうが進みは早いがつまらない。

 宿題が終わったの11時だった。いつもより早い時間だが今日は寝ることにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます。料理の話を書くときはどうも力が入ります(笑)

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