METRO DREAMS

七臣

第1夜・発車

 「あと2分で発車します」とのアナウンスが流れる。


 ここ、玉屋口たまやぐち駅から寿屋前ことぶきやまえ駅までは、市営地下鉄でも一番、距離が短い。


 だいたい、地下鉄だというのに隣の駅が肉眼で見えてしまうほどしかない。これくらいの距離だから、普通の人なら、歩くほうを選ぶと思う。それでも、あえて地下鉄を選ぶのは、地下鉄が大好きだからだ。


 もうひとつ地下にあるホームに電車が着いたのか、ホーム中央の階段から人があふれてきた。


 黒いブラウスを着た少女が、階段を勢いよく上がってくる。中学生くらいかな。顔は可愛いんだけど、服がぶかぶか。今にも裾を踏んで転びそうにみえる。


 女の子はドアのところできょろきょろとしていたが、おれを見ると、にっと笑った。そして、おれの横に勢いよく座る。


 女の子に続いて、7、8歳くらいの男の子と女の子が駆け込んでくる。その次も子供だ。


 今日は、社会見学でもあったのか?




 やがて発車のアナウンスが流れた頃には、電車の中は子供だけでいっぱいになっていた。最初の黒服の女の子だけ中学生くらいで、後は全員、小学生くらいにみえる。その中でおれだけが二十代だ。


 発車のベルが鳴り、ドアが閉まる。


 そして、電車が動き出したとたん。


 それが始まった。


 女の子が、急に背が伸び始める。

 女の子だけじゃない、他の小学生たちも、どんどん大きくなる。


 黒服の女の子はもう、女の子と呼べるような歳じゃなくなっていく。

 他の子は女の子を追い越して、もっと大人になっていく。


 そしてぼくは。


 ぼくは……?




 指がどんどん、短くなっていくのが見えた。

 服がどんどん、ブカブカになっていくのを感じた。

 その間にも、どんどん景色が変わる。

 天井がどんどん高くなる。


 あせって、となりのおねーさんを見た。

 おねーさんは、にっこりと笑った。


 ああ、これはいいことなんだ。

 ぼくも笑った。

 ぼくの笑顔で、まわりにも笑顔がひろがる。

 でんしゃが、なにかいって、がたんと揺れた。

 ぼくは、ざせきのうえにころがった。

 「あ、着いたみたい」と、ママは、ぼくをだきあげる。

 おもしろくてぼくはわらった。

 おなかがすいた。

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