割れて破損したガラスパネル横から、実弾を発見。現場に落ちていた金属を、日本刀の刃先と断定――しかも殺傷能力を有した、真剣である。現場の状況を鑑みて、テロである恐れが浮上した。


 周りの目撃情報から、特異な容姿をした少女はすぐに特定された。その少女が襲い掛かった相手も、また目立つ容姿ですぐに特定された。

 泣きじゃくっている女の子に話は訊くにはハードルが高いと、平野は被害者側に話を振った。

「まずは、そうだな……家族構成の確認いいかな?」

 頷く理仁に、平野は資料をめくった。

「お父さんが五藤能人、お母さんが五藤エレン……あれ?」

 家族構成の中に五藤善吉なる人物がいる。福島と平野には、思い当たる人が一人いる。首相経験者でもある本山繁之介もとやま しげのすけの後援会長であり、古い友人である人物と同姓同名である。調査書を辿れば、その人で間違いなさそうである。まさか、孫を狙った事件なのかと、二人で政治思想犯の可能性も視野へと入れ始めた。

「お父さん、五藤善吉の養子かな?」

「善吉おじいちゃん?」

 数年前亡くなった祖父の名に、今回の事件と何か関係あるのかと相成は理仁と顔を見合わせた。

「で、君が相成くんで、次男の理仁くん……妹さんがいるんだね」

 平野の言葉に相成が少し頷く。


 明らかに日本人ではない容姿をした理仁に、平野は資料の戸籍を指でなぞる。

「年子なんだね……相成くんは日本人の父親似で、理仁くんはお母さん似かな?」

 よく言われることに、理仁は笑いながら髪の毛を手ですく。

「やっぱり、金髪すごいですかね」

 他の兄弟が茶髪なのに、自分だけ明るい金髪なのがコンプレックスだった。街を歩けば、自分は日本人のつもりでも外国人観光客扱い。それが理仁にとって、たまらなく苦痛だった。

「目もすごく綺麗だね」

「よう言われます。珍しいんですかね? グレーに近い青い目って」

 ヘーゼルの目を持った兄。アンバーに近い茶色の目をした妹。何故、自分だけがこんなに明るい目なのだろうと、理仁にはそれも悩みだった。

「日本人の血が入っているにしては珍しいね」

 平野の言葉に、相成は思わず笑った。

「いやいや、こいつ養子ですからね」

 相成が弟に初めて会ったのは、父親が本家の養子に入ったときだった。義理の祖父が連れてきた子は、理仁と名乗った。母親が病弱で入院中であるため、親戚筋にあたるエレンが引き取ることになったらしい。

「やだな、何言うてんの? 俺養子ちゃうやろ」

「あぁ、なんだ冗談か」

 資料を見ていた平野は、どういう冗談なんだと苦笑い。

「お前、子供の記憶どこに落としてきたんや」

「は? 小さい頃の記憶なんかあるわけないやろ」

 落としたと突かっかてくる兄に、理仁はそんなのいちいち覚えていられないと笑い飛ばした。

「幼稚園どこ通ってたかも思い出されへんのか」

「それはさ……あ、あれ?」

 言われてみれば、理仁の記憶は小学校から始まっている。通ったはずの幼稚園の記憶がまるでなかった。

「俺がなんで、荒れたかわかってないやろ!」

 祖父は、兄弟の中で理仁の扱いだけ、あからさまに変えるのだ。両親ですら、理仁の扱いにほんの僅かだが、気になるほどの違いがあった。習い事の数だって、理仁だけ、やたらと多い。


 自分たちと理仁は違う。そう意識させられ育った相成は、思春期の反抗期にそれが爆発した。荒れに荒れて、すべてのものに、うがった見方しかできなくなってしまったのだ。


 さすがに、長年暮らしてきた弟のような理仁へ養子だと論うことは酷でできず。ずっとずっとこらえて抑え込んできた相成は、わかっていない様子の理仁に違和感を覚える。

「それは俺ばっかりえこひいきしよるって……でも、長男の兄ちゃんと次男じゃ、そら厳しさもちゃうやろ?」

「お前、マジでそれ言ってる?」

「理仁くんは、五藤家の実子で間違いないよ。ほら戸籍にも」

 記憶違いをしている様子の相成に、平野は笑いながら戸籍を指さした。

 ちゃんと次男として届け出がなされている弟に、相成は背筋が凍った。

「お前、誰やねん! 宇宙人か! お前、うちに来た時、七歳やったろ!」

 手を伸ばしてくる理仁を払いのけ、相成はソファーから飛びのく。

「何が目的や! 地球侵略か!」

「なんで、そんな笑われへん冗談言うん? 俺が宇宙人なわけないやん……兄ちゃんの弟やろ」

「何言うてんねんや! レーナ様……お前のおかんは、お前が十の時に亡くならはったやんか!」

「レーナおばさんって親戚の?」

 四十にもならぬうちに、病気で亡くなったのがレーナという女性だった。そんな親戚の名前をいきなりだしてくる兄に、理仁は訳がわからず怪訝そうな顔。


 何が目的で来たのか。気づいたら家に入り込んでいた人物に相成は警戒した。張り詰めた緊張感の中で、いきなり肩を叩かれて、驚きすぎて絶叫した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る