第四蹴 因縁

 月曜日。波乱の休日が終わって、また学校に通う1週間が始まった。

 もうすっかり日常となっている杉浦と共に登校していた京は、昨日の不良たちのことを彼に話していた。

 話を聞き終えた杉浦は、ふむと一つうなずいた。

「なるほどなー。最近ここら辺でも柄の悪い奴ら多くなってきたから、気を付けておいた方がいいかもな。まぁ、伊吹は心配いらないだろうけど」

「いや…俺もできればもう喧嘩はしたくねぇからな。極力避けたい」

 うんざりとした表情に、杉浦は苦笑する。

「そりゃそうだろうよ。まぁ、おとなしくしてれば大丈夫だろ」

 それに、京はうなずきかけて途中でやめる。

「いや…」

 歯切れの悪い京に、杉浦は首をかしげる。

「俺の目つきが治らない限り、平穏は訪れないんだ…」

「あー…うーん…」

 フォローしたくても、できない。確かに、京は目つきが良いとはいえなかった。

「もうそれはどうしようもなくね?」

「けど、今のままじゃ困る」

 これは本心である。本当に困っているのだ。そもそも埼玉で初めて喧嘩を売られたのは、ただ不良たちの後ろに貼ってあったデラックスサンデープリンの張り紙をじっと見ていただけだったのに、それを不良たちがガンをつけていると勘違いしたことがきっかけであったのだ。

 まぁ、初めての喧嘩だったのに圧勝してしまった京の実力もある意味でのきっかけでもあるが。

「ていうか、お前もうちょっと笑えば?あとは表情筋をよく使うようにするとか、眉間に皺がよらないようにするとか」 

 腕を組んで考えるように提案してくれた杉浦に、今度こそ京はうなずいた。

「ああ。やってみる」

「おぉ、頑張れよ。早速今日一日練習だ」

 二人は、顔を見合わせ大きくうなずきあった。



 京と杉浦が教室で談笑しているところに、登校してきた鈴木がやってきた。

「はよー!」

「はよ」

「おはよ」

 今日も元気な鈴木くんである。

 謎の安心感を感じて、京ははっとして口元に精一杯の笑顔を作ってみた。

 鈴木が信じられないものを見たかのような顔をした。

「ど、どうしたんだ伊吹」

「いや…今の顔、どう思う?」

 ふっと表情を戻して、京は聞いた。それに、鈴木は戸惑いながらも答える。

「正直に言うと…怖い。悪魔のようだった」

「はぁぁぁ…」

 なんだかわざとらしい深いため息をついて落ち込む京に、鈴木はとても申し訳なさそうに眉根を下げた。

「ご、ごめんな…」

「いや、鈴木は悪くねぇ。悪いのは、俺の努力不足だ」

「お、おう…?」

 一体何があったのだろうか。

 困惑しきっている鈴木に、杉浦が今朝の話をしてやった。

 話を聞き終えて、鈴木はふむと重々しくうなずいた。

「なるほどなー。まぁ確かに今後社会とか出た時目付きのせいで悪印象与えちゃったら大変だしな」

「確かに…」

 そこまでは考えてなかったので、京は感心したようにうなずいた。鈴木にも意外にもしっかりしているところもあるものだ。

「お前今失礼なこと考えてるだろ」

 じとっと見つめられて、京はぎくりと肩を揺らす。

「…悪い」

「いや、ほんとに失礼なこと考えてたんかい!」

 ショックを受けたように言って、彼は肩を落とした。

「まぁまぁ、鈴木だから」

「だな」

「フォローになってない上にさらに貶されたよ。泣きそう」

 わざとらしく泣き真似をして見せてくる鈴木を無視して、京と杉浦はどうすれば京の目つきが良くなるかの話を続けていた。

(最近、俺への扱い酷くなってる気がする…)

 割と本気でショックに思いつつも、その話に混ざる鈴木であった。



 

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