河川敷に戻ってきた鈴木と虎徹の姿を認めて、杉浦は首をかしげる。京の姿がない。

 それに、虎徹が少し慌てた様子で彼に駆け寄り、耳打ちをした。

『事情があって兄貴は後で来るっす。フォロー頼んます』

 それにうなずいて、杉浦は近づいてくる鈴木の肩に手を回した。

「おぉい、遅かったじゃねぇか」

「悪かったよ。不良に運悪く絡まれちゃって」

 そこまで聞いて、なんとなく京がこの場にいない理由がわかった気がする。

「そんな時、颯爽と現れたのが猫のお面をかぶった同い年くらいの男子だったんだ。そいつがそりゃあもうあっという間に不良を一掃してくれてな!かっこよかったぜい」

 恍惚とした表情で語る鈴木に、杉浦は若干複雑そうに笑った。

「そりゃすごいな。俺もみてみたかった」

「お〜、多分この辺に住んでるんだろうから、また会えるだろ」

 それはそうだろう。というか、あと数分で再会できる。ああ、目の前のこの少しバカな友人にも打ち明けてしまいたい。

 その気持ちをグッと堪えて、杉浦は若干引き攣った笑みでうなずいた。

 ザクザクという足音が聞こえてきて、そちらに三人は目を向ける。

 京が、一斉に視線を浴びせられたことにより居心地の悪そうに顔をしかめた。

「なんだよ?」

「なんでもない。おかえりー」

 杉浦が苦笑混じりに言うと、鈴木が首をかしげる。

「伊吹どこ行ってたんだ?」

 それに、京が少し言いづらそうな顔をする。杉浦と虎徹がぎくりと肩を震わせてじっと彼を見つめた。

「…便所」

 もっともらしい、答えだ。いや、むしろ下手なことは言えまい。

 ごくりと三人は生唾を呑む。果たして、鈴木には疑われずに済むだろうか。

「そっかー。ここら辺近くにないもんな、便所」

(鈴木(さん)がバカでよかった!)

 満場一致で、三人は鈴木を心の中で罵った。



 家に戻ると、リビングから空腹を刺激するには十分な香りが漂っていた。

 今は夕方。きっと、美代が夕飯を作り始めたんだろう。

「そろそろ帰るかー」

 鈴木が少し残念そうに目尻を下げながらそう言った。

「だな〜」

 杉浦がうなずくと、虎徹もうなずく。京がそっと目を伏せた。残念だ。

 玄関を上がって、リビングに入る。

 テーブルの上には、六人分の箸と小皿が。

「…これ」

 台所から美代が頭を持って顔を出した。

「おかえりなさーい!みんなお夕飯食べていくでしょ?」

 当然のように笑う美代に、四人は顔を見合わせる。

「いいんすか?」

 鈴木が期待を込めた瞳で確認を取る。

「もっちろん!そのつもりで作ってるしね」 

「やったぁー!」

 喜ぶ鈴木たちの隣で、京が嬉しそうに笑った。

「サンキュ、お袋」

「ふふ、どういたしまして」

 柔らかく笑う母親に、京は胸が暖かくなるのを感じた。

(本当に感謝しかねぇな)

「手伝います!」

 鈴木がビシッと手を挙げた。杉浦と虎徹もうなずく。

「俺らもやります」

「人数いた方が楽っすよね!」

「あら助かるわ〜」

 のんびりと笑って、美代は台所に入ってくる三人にあれこれも指示を出す。京もその光景に笑って、その輪の中に入っていく。

 波乱の自宅訪問、無事に終わりそうでよかった。

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