第2話 燻ぶる衝動

 突然全身の筋肉が強張る。


 重たい瞼を開くと眩さに目がくらむ。


 全身鉛のような気怠さが包む。


 しかしそれは非常に心地よく抗い難い。

 だからこの世から二度寝がなくならないと分からせてくれる。


 後ろ髪を断ち切るようにのっそりと上体を起こす。


 どれかどの部位かわからないくらい粉砕されている骨片

 首と胴が無造作に離れているボアウルフ

 はらわたを引き裂かれ内臓が飛び出ているリザードマン



 眩さになれた景色は血と臓物が広がる燦燦たる光景であった。



 こんな状況で人は寝られるのか、自分の神経の図太さに呆れてしまう。



 道中、大量の魔物の待ち伏せに遭った。

 特に危なげなくすべての魔物を斬り伏せた後、そのまま意識を落とすように寝てしまったようだ。


 疲れているな、ふうと大きなため息をつく。


 くすぶっていた衝動はほんの少しの起爆剤で前へ、前へと心を進ませる。


 しかしそれは諸刃の剣だ。


 死屍累々の景色をぼんやり眺め、その手痛い対価を払ったということを実感する。


 肩を落としまた大きなため息を吐く。


 こんな見え透いた罠に引っかかるとは。

 つまらぬ罠で死にたくはない。


 一寸先も見えぬ暗闇でチラリと光る光明が見えたのだ。


 焦りが心の片隅でニョキリと顔を出してくる。


 それはふてぶてしくさらに我が物顔で大きく姿を現してくる。


 吐き出すように今度は勢いよく息を吐く。


 吐き出された息によって目の前にあった骨片は塵となり空へと飛んでいく。


 どこまでもどこまでも高く舞い上がり、そしてついに空の青さに飲み込まれてしまう。


 きっとこれは誰がどう見ても意味のないことはわかっている。


 けれど、どうしてもやめることはできなかった。


 くすぶっていた衝動は身を焦がし、過程はどうあれここまで導いた。



 この衝動こそが理由となる。


 もう消え失せた塵の行方を追うことはなかった。

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