9話 自室で二人きり

 今日はわたしの部屋につぐみさんを招待した。

 両親の帰りが遅いので、気兼ねなく二人きりの時間を楽しめる。

 本当は装飾や食事などありとあらゆる方法でおもてなししたかったんだけど、逆に気を遣わせてしまうと申し訳ないので、今回は飲み物とお菓子だけに留めた。

 ベッド脇に用意したサイドテーブルに、オレンジジュースを注いだグラスと、数種類のお菓子を乗せたお皿を置く。


「遠慮せずにくつろいでくださいね」


「うんっ、ありがと~」


 さりげなくつぐみさんをベッドに座るよう促し、わたしはイスに腰掛ける。

 普段わたしが使っているベッドに、つぐみさんが座っている。至福の光景だ。


「つ、つぐみさんがよければ、寝転んでくれてもいいですよ」


 自然な流れで願望を叶えようとしたものの、緊張のあまり声が上擦ってしまった。

 恋人を自分の部屋に招く緊張感と高揚感は、想像以上に凄まじい。

頭の中ではもっと過激なことを何度も経験しているから多少は平気だと思っていたけど、決してそんなことはなかった。

妄想と現実は違うのだと、つくづく思い知らされる。


「いいの? それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうねっ」


「はい、どうぞ」


 やったーっ!

 わたしはニコッと微笑みつつ、歓喜のあまり心の中で踊り狂う。

 つぐみさんがベッドに寝転ぶ様子を逃すまいと、瞬きも我慢して凝視する。

 すると、想定外の事態が起きた。

 あろうことか、つぐみさんは横向きでも仰向けでもなく、うつ伏せで横たわった。


「んー、美夢ちゃんの匂いがする。いつも思うけど、すごくいい匂いだよね」


 いとも容易く理性を爆散させる、魅惑的な発言と行動。

 不幸中の幸いと言うべきか、無自覚で意地を発揮したのか、わたしは一周回って冷静さを維持できている。

 少しして、つぐみさんは体を起こし、元の体勢に戻った。


「つぐみさん、あーん」


 ここぞとばかりにクッキーを手に取り、つぐみさんの口元に運ぶ。

 実はずっとやってみたくて、機会をうかがっていた。


「あーんっ」


 つぐみさんがクッキーを食べる際、ほんのわずかだけど唇が指に当たる。

 念願の『あーん』を経験できたばかりか、偶然とはいえ指を咥えてもらえた。幸せすぎる。

 その後も二人きりの時間を最大限に満喫し、外が暗くなってしまう前に解散した。

 玄関までつぐみさんを見送った後、部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。

 まだ少しだけ、つぐみさんの匂いが残っている。


「~~~~~~っ!」


 わたしは枕を顔に押し付けるようにして抱きしめ、幸せの余韻に浸りながらベッドの上を転がり回った。

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