第40話 ギリギリな助っ人
「…………離れろ」
男の子とも女の子ともわからないほど幼い声でそう言ったモロクの影がゆらりと揺らめいたかと思うと、一瞬にして倉臼さんとの距離を詰める。
倉臼さんの足元を狙う鎌の一つを小剣ではじき、もう一つを足を上げて回避。バランスを崩しかけた倉臼さんにさらに左右から鎌を振るう。倉臼さんは左手にナックルガードの付いた短剣を喚び出し、それらを防御。返す刃で小柄なモロクを攻撃するが、モロクはそれを飛び上がり回避。さらにそこから空中で振るわれる鎌を弾き返しながら小剣を突き出すと、器用に空中で身を
それが一呼吸の間に行われた。俺は目で追うのでギリギリだ。安藤先輩に稽古をつけてもらっているとはいえ、こんなのついていけるわけがない。
「倉臼さん、大丈夫?」
俺は声をかけることしか出来ない。
「話に聞いていたよりも弱い。本人ではないのかもしれにゃい。これならにゃんとかにゃるかも」
直後に迫ったモロクが、一瞬で倉臼さんの背後をとる。膝裏に蹴りを入れて倉臼さんの体勢を崩すと、下がった頭部へ鎌が迫る。
倉臼さんのこめかみに鎌の切っ先が突き刺さる。が、それは幻影。さらに下に伏せた位置から短剣を突き出すが、それは軽々と避けられた。その隙に体勢を立て直し、構えをとる倉臼さん。冷や汗でもかいているかのように自信なさげに呟く。
「……ならにゃいかも」
なんとか出来なかったときは死ぬときだ。なんとかせねば。
「俺になにか出来ることはある?」
「にゃい」
即答つらい。
「アイツの狙いはなんだと思う?」
「聖剣の排除、くらいしか思いつかない」
やっぱり狙いは俺なのか。
このままだと、倉臼さんがやられて、次に俺がやられる。
それなら、動揺を誘う意味でも、言葉で揺さぶりをかけるか。
「おい、お前。狙いは俺なんだろ。倉臼さんは関係ない、俺だけをやれよ」
「カケルくん!?」
突然の俺の言葉に、倉臼さんの方が動揺する。あれ? 俺やっちまった?
いや、モロクとやらも俺と倉臼さんを見比べるようにして、なにかを迷っているようだ。
「カケルくんはあたしの唯一の希望なの。絶対守る!」
倉臼さんの覚悟は嬉しくもあるが、ジリ貧ならなにか状況の転換が必要だ。
「
「いざとなったらするけど、モロクも強化されたらカケルくんを守りきれない」
「…………やっぱり邪魔」
そう言葉を発したモロクが、倉臼さんに一気に飛びかかる。
迫る鎌を短剣ではじき、小剣を突き出す。空中で身を捻った勢いで下から顎を縦に繰り出されるが、それを
後ろに倒れる倉臼さんに、モロクはさらに追撃。とっさに受け身をとろうと小剣を手放してしまった倉臼さんの防御が間に合わない。モロクの振り下ろす鎌が、倉臼さんのお腹に突き立つかというその寸前。
辺りの空気が変わり、モロクが横へ吹き飛んだ。
そしてモロクがいた場所のすぐ後ろには、蹴り足を上げたまま停止した、ナギが立っていた。
「なにやってるのよ。危ないわね」
俺と倉臼さんは、驚きで声が出せない。
「んで、あれはいったいなに?」
ナギの蹴りで吹っ飛んだモロクは、木の幹に着地。右手の鎌を木に引っ掛けてそのまま幹に背中向きに張り付き、左手はわき腹をさすっている。
「カケルくんを狙う暗殺者よ」
ナギは異界化した空間で、魔力を展開。魔法を準備する。
「なんでカケルを狙うのよ」
その質問に倉臼さんが答えるよりも先に、モロクが動く。
「…………守って……」
そう言って、モロクは闇に溶けるように消えた。
「……なんだって言うのよ?」
「行ったみたい」
倉臼さんが気配を探って言った。
まだ油断ならないので、異界化をキープしたままナギが倉臼さんと対峙する。
「あなた、倉臼さん? あなたも異世界の人だったのね」
「天野さんこそ、全然わからなかった。そうか、狩場くんの
二人は近づき、お互いに手を差し伸べる。
「カケルを守ってくれたのね、ありがとう」
「天野さんが仲間で良かった」
二人の言葉が重なる。
『まさか自分以外に「魔族」「勇者」がいるなんて……』
手が触れ合う直前で、その手が止まる。
「勇者……?」
「魔族……?」
二人がそれぞれ後ろに飛び退き、距離をとる。
「なるほどね」
「コイツを倒せば」
『全てが丸くおさまるわけね』
勇者と魔王の戦いが始まった。
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