第39話 告白なクラスメイト
「それは災難だったね」
村雨先生が俺と倉臼さんの話を聞いて言った。
試験が終わって次の日、授業は午前だけで、放課後の午後、保健室にきていた。
村雨先生に聖気を抜いてもらうためだ。
……この表現、なんとかならんもんかな。
「その
村雨先生が言う。
「自然に発生しないのであれば、何者かが呼び出したのでしょうか?」
「それにしては目的がわからんな。せっかく呼び出したのに野に放ってどうするのだ? 他に大量に徘徊している風でもなし、人ひとり堕落させたところでなんにもなるまい」
「しばらくは警戒して見回りましょう」
倉臼さんが答えている。そのあともいくつか打ち合わせをしていた。
その次はキクのことだ。
「その子のことは倉臼に任せて大丈夫だろう」
倉臼さんも頷いている。
結局あの日、倉臼さんはキクに対し『
当初の予定通り、キクを危険なことに巻き込まないための説明。
猫に驚いてこけて気を失った。
意識が戻るまでなにもしなかった。
俺と倉臼さんの間にはやましいことはなにも無い。
それだけ。
必要な、嘘だ。
ただ、なぜこのタイミングで倉臼さんがキクのところへ来たのかは、俺が呼んだのだと正直に話したらしい。
だから、取り乱したキクが俺にフラレた事実は消えてない。でも、その俺はキクを心配している。これはそういうことだと。
あれ以来、キクとは挨拶くらいしかしていない。それでも日が経つごとに、前の調子が戻っている、ような気がする。そもそも、お互いの関係性は全然変わっていないのだ。最強であると
「そっちは全然ダメだな」
そう言う村雨先生のセリフは、俺に向けられたものだ。
俺は今、俺の中に宿る聖属性の気(としか言いようがない)をコントロールしようとしていた。
右手に握った、水の入った小瓶に気を移すのだ。
うん、無理なんだが。
全く無理なんだが。
お手本として先生がやってみてくれるのだが、なんの感覚もない。つまり真似も出来ないから習得のしようがない。
かなりの時間頑張ってみたんだけど、結局時間を無駄にしただけだった。
あのとき、初めて魔界で銃に込めたときは出来たんだけどなぁ。多分アレが聖属性の弾丸で、だからこそ魔王オロチに一撃与えられたのだ。
つくづく、ナギに当たらなくて良かった。
「今日はここまでにしよう。焦らずとも、いずれ出来るようになるさ」
村雨先生のその一言で、今日は解散となった。
帰り道、いつの間にかすっかり遅くなってしまった。
日も沈み、街頭に照らされる道を倉臼さんと一緒に歩く。こういうときは、女の子を家まで送って行くものだろうか? でも倉臼さんの生活環境を考えると一人暮らしだろうし、家までついてこられるのは嫌だろうか?
「カケルくん、ちょっといい?」
「ああ、やっぱりそこまでついて来られるのは嫌だよね」
「にゃんのことかな?」
しまった、途中をとばしすぎて会話が成立しなかった。
「いや、なんか用だった?」
「あの、あんまりこういう、二人きりになることも少にゃいので」
「? うん」
「ちょっとお話しませんか? み、耳を撫でてもいいですし」
俺ん
違うんだ、これは必要なことなんだ。今後、俺の聖属性のことや、
倉臼さんの頭を
くすぐったいところもあるのか、ときどき小さく声をもらしながら身じろぎしている。
「はぁ、んん、カケルくんはさ」
「なに?」
「もし、あたしがキスして欲しいって言ったら、どうする?」
「な、なにいきなり」
「どう?」
なにを考えてるのかわからないが。
「して欲しいの?」
「うん」
倉臼さんは、上を向いて俺を見ながら言った。
「しないよ」
「だよね」
倉臼さんの頭の向きが戻る。
しばらく、俺が猫耳を愛でる時間が過ぎる。
……あれ? なんだこの状況。俺、もしかして、最低なやつ? すでに好感度が上がりすぎていたのか?
「ちなみに、なんでしたいの?」
「それはもちろん、カケルくんともっと仲良くにゃりたいからだよ」
「そんなことしなくても、仲は悪くないだろ」
「誰にも気兼ねにゃく聖剣をキープしたいんだよね」
「正直だな」
「嘘です。カケルくんが好きだからです」
倉臼さんは少し照れたように、しかしはっきりと言った。
「それこそ嘘だろ。倉臼さんは勘違いしてるだけだ。俺以外の仲間を見つければ、もっとふさわしい人がいくらでもいるよ」
「でも今はカケルくんしかいないから」
「俺には付き合ってる彼女がいるんだよ」
「正々堂々奪い取ってみせるよ」
「俺、その本人なんだけど言っちゃって大丈夫?」
「ちゃんと意識してもらわにゃいと、カケルくんは鈍感キャラみたいだから」
あたしのアプローチを勘違いだと思ってスルーされたら嫌だからね、なんて言っている。
「それに、なんで今なの?」
「当然、カケルくんの心が弱ってるところを狙ったからだよ。万全のときよりつけ込みやすいでしょ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ。カケルくんはキクちゃんをきっぱりフッたけど、それが正解だったのか悩んでる。もしあたしがなんでもないときに告白したらなんの
それに、カケルくんはフッた相手でも邪険にしたりしないってわかったから、と続ける倉臼さん。
俺は、猫耳を愛でる手を止め、離す。その直前、その手を倉臼さんに握られた。
俺はそのまま告げた。
即答で断言する。
「ごめん、俺は倉臼さんの気持ちには応えられない」
「あきらめにゃいよ。あたしには他に選択肢はにゃいから。なくすものも
「協力はするよ。出来るだけだけど」
ナギが本気で不利になることは出来ないからね。
「お耳、もっと
「み、見くびるな。その程度で俺はなび……いたりしない」
「他も触っていいんだよ」
「尻尾か!?」
「なんで!?」
倉臼さんはクスクスと笑っている。
俺が倉臼さんに望むことが他にあるというのか?
不意に倉臼さんが立ち上がって振り返る。少し目を細め、俺の手を倉臼さん自身の胸に押し付て、顔を寄せながら囁くように呟く。
「尻尾もいいけど、ほら、こんなことだって出来ま」
そのセリフを全て言い終わる前に、倉臼さんがなにかに反応。短剣を取り出して振り返ると、迫る黒い影の攻撃をはじいた。
「カケルくん、下がって!」
言って倉臼さんは影に短剣を投げると、影はそれをキンとはじく。いったいなんなんだ?
『
倉臼さんは小剣を喚び出し、構える。
対する影は、まるで闇に溶け込む黒いレザー質感のライダースーツのような、ピッタリとした服に身を包んだ、小柄な人影だ。
小柄……というか、明らかに小さい。小学校に入っているかどうかというくらいの子供のようだ。よく見ると、両手に鎌を構えている。
「カケルくん、ヤバいです」
「見たらわかる」
「そうじゃないんです。知ってるんです」
「なにを? アイツを?」
「アレは裏切り者、
なんか聞き慣れない単語が出てきたけど、倉臼さんは真剣だ。
「人間の街をいくつも壊滅させてきた、魔王の手下、あたしの世界の最悪の敵です」
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