第25話 出会いな魔王(回想編1)

 日曜日、先導するナギのあとをついて歩く。


 今日の目的地はそう、ナギの家だ。


 俺の部屋に来たことはあっても、ナギの部屋に行くのは初めてだ。楽しみであるとともに、家族の方に合うと思うと緊張もする。

 話に聞くと、ナギはお爺さんとお婆さんとの三人暮らしだそうだ。両親は、二人とも他界している。


「ふふっ、楽しみにしててね」


 ナギは楽しそうだ。以前したリサーチから、新しい水着を買ったらしく、それをお披露目したいんだそうだ。俺は今から、どんな反応をすればいいのか悩んでいる。『似合うね』『可愛いよ』そんなありきたりな言葉じゃ、きっと納得してはもらえないだろう。


 しかし、手ぶらで大丈夫だろうか? なにが失礼になるのかさっぱりわからない。


「やっぱりなにか、手土産があった方がいいんじゃない?」

「大丈夫だよ。そんなことしたら、気を使った婆ちゃんに逆にお土産いっぱい持たされるよ」


 まあ確かに、普通の友達の家に遊びに行くときに土産なんて持ってかないけど。お付き合いしている彼女の家となるとやっぱり考えてしまう。

 うう、考えすぎて眩暈がしてきた。到着するまでに落ち着かないと。


「到着でーす」

「着いちゃった!」


 手を引かれてマンションに入り、エレベーターを呼ぶ。すぐに開いた扉を通り、十まであるボタンのうち、六を押す。

 あっという間に到着すると、通路を進んで一つの扉の前へ。ナギは躊躇ためらうことなく扉を開け、中に入った。


「どーぞ」


 促され、俺も中へ。


「お、お邪魔します」


 左右に扉のある廊下を少し進むと、リビングに出た。


「やあ、いらっしゃい」

「よくきてくれたわね、さあどうぞ」


 椅子に座るお爺さんと、その後ろに立つお婆さんに勧められ、テーブルの椅子に座った。テーブルの上には大皿に焼き菓子やチョコレートが入れてあった。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 お婆さんが温かい紅茶を出してくれた。


「私はちょっと準備するから、呼ぶまで待ってて」


 そう言って、さっき通った廊下にあった扉の一つに入っていった。そこがナギの部屋らしい。

リビングに、お爺さんお婆さんと三人で残された。え、これなんの時間? どうしたらいいの?


「お菓子どうぞ」

「ありがとうございます」


 お婆さんに勧められて、クッキーを一つ手に取る。俺、今のところありがとうしか言ってないな。


「ナッちゃんの、彼氏なんだって?」


 お爺さんが話しかけてくる。いきなり核心を突く問いかけに、緊張がはしる。


「最近ね、ずっとあなたの話ばかりなのよ」


 お婆さんも席につき、そう言った。


「ナッちゃんの両親のことは聞いてる?」

「はい。どちらももう亡くなられてるとか」

「母親は三年前に病気でね。父親は正確には行方不明なのよ」

「母親が亡くなったときにはそれは落ち込んでね。中学の三年間は、なかなか友達も出来なかったみたいで、ずっとふさぎ込んどったんよ」

「それが、高校に入ってすぐでしょう、彼氏ができたってねぇ、嬉しそうに話すんよ。そんなすぐ、タチの悪い人に捕まったんじゃないかって最初は心配しとったんじゃけど、彼氏のことを話すナッちゃんはそれは楽しそうでねぇ。ほんと、仲良くしてくれてありがとねぇ」


 お婆さんに感謝されてしまった。


「いえ、こちらこそ、天野さんのおかげで毎日が楽しいです」

「これからも、ナッちゃんを支えてやってくれな」

「支えるだなんてそんな、もちろん、このまま良い関係を続けていきたいと思ってますんで」


 んで、なんだ、なんて続ければいいんだ? よろしくお願いしますか?


「よろしくなぁ。ワシらじゃ、親の代わりにはなれんかったけぇ」


 そう言って、二人はナギの部屋の方を見た。

 孫思いの、とても良いお爺さんお婆さんだ。頑固なお爺さんに『お前に孫はやらん!』とか言われたらどうしようかと考えていたのがバカみたいだった。


「で、どっちから告白したん?」


 ゴブッ。ごふごふ。お爺さんからのいきなりの質問に危うく紅茶を吹き出すところだった。


「あっと、一応、天野さんから。本人に言ったら僕からだと言うと思いますけど」

「そうかそうか。ナッちゃんわがまま言ったりしとらん?」

「あははは……。それはまあ、ほどほどにお互い様ということで……」


 そんな感じで、ナギ雑談で時間を過ごしながら、俺はナギと初めて会ったときのことを思い出していたのだった。



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