絶頂刑事・ポールたつお

木船田ヒロマル

不可能犯罪と天才刑事

「身体が壁と一体化している⁉︎」

「そうだ。しかも壁は築20年のマンションの壁で、被害者の身体は腕や足や数箇所が、その壁にピッタリハマっている」


 新人交番巡査、小田成行の驚きの言葉に、県警からやって来た天賀警視は落ち着いて説明した。


「無茶苦茶っすね」

「不可能犯罪なんだ」

「どうしようもないんすか」

「いや、一人だけ、この難事件を解決できる男がいる」

「誰です?」


「私だ!」


「えーと……」

「紹介しよう。埼玉県警刑事課・特殊解決技術室、ポールたつお警部補だ」

「あ、初めまして。中越谷第二交番勤務、小田成行巡査であります」

「よろしく」


「さっきから気になってたんですが、その不可能犯罪の話をなぜ僕に?」

「それは……」

「それは私から説明しよう。小田巡査」

「ポール警部補」

「私はIQ800億の天才なんだが、IQが800億もあると普段他人とコミュニケーションが取れないため、強力な催眠暗示によって普段はIQを92程度に抑えている」

「あ、そんな調節ができるんですね」

「不可能犯罪や難事件の推理をする時のみ、催眠暗示を解き、瞬時に事件を解決していたんだが、二年ほど前にトラブルがあってな」

「トラブル?」

「私に催眠暗示を掛けていた催眠術師がフグに当たって死んだのだ」

「お気の毒に」

「以来、私はIQ92のままで人生を生きている」

「面白いお話ですが、それと僕とになんの関係が?」

「だが、私が唯一、催眠術師の力を借りずにその催眠暗示から脱する方法がある」

「それは?」

「賢者タイムだよ」

「賢者タイムって……あの?」

「そう。男が自らを慰め、その絶頂に至った後に訪れる静寂の刻。その心性は、限りなくヨーガの悟りに近い状態だと言われている」

「面白いお話ですが、それと僕とになんの関係が?」

「時に私は、女性よりも清潔感がある君のような男性が好きでね」

「はあ」

「事件の解決のために手を借りたいのだ」

「お話が見えませんが、何をお手伝いすれば?」

「思い切って言ったのに何度も言わせるな。君の、手を、借りたい」

「…………えっ」

「手だよ。手。賢者タイムにさえ入れれば、事件は解決……」

「いっ、イヤですよ!」

「それでも警察官かね!」

「そりゃこっちのセリフです! 自分でなさったらいいでしょう!」

「私は自分ではフィニッシュまで達さないのだ!」

「知りませんよ! 大体僕彼女いますし!」

「大丈夫! それは興奮にプラス要素だ!」

「完全に変態じゃないですか! 絶対に嫌ですからね‼︎」


「小田巡査。気持ちは分かる。だが事件解決の為だ。人事査定には加点するし、特別ボーナスも出そう。どうかここは一つ……!」

「出世やお金の問題じゃありませんよ! やりたきゃ警視がやったらいいでしょう!」

「ご指名は君なのだ!」

「何が悲しくて警官のカッコで他人のナニシゴいてイカせなきゃならないんですか!!!セクハラでしょ!!!」


「大丈夫! 警官のカッコも君が嫌がっているのも興奮にはプラス要素だ!」

「オメーは口を閉じてろ変態!!!」


「小田巡査。仮にも上司に向かってそれは口が過ぎるぞ」

「いいんですよ天賀警視。今の罵倒も、股間にグッと来ました」

「ポール君……」


「『ポール君……』じゃねえよ! やりませんからね、僕は!!!」

「君の彼女。美人だね」

「……!!!」

「君が断るなら、君の彼女に頼んでもいいんだ」

「なっ……⁉︎」

「本当は君がベストなんだが、君が嫌がって断るなら、その事情も含めて彼女に頼んでみよう。勿論、無理強いはしないよ。ただ、恋人なら、君の警察内での立場なんかを思い遣って、最大限の配慮はするかも知れないよね」

「警視! これは恐喝で完全無欠混じりっけ無し純度100%の性犯罪の予告ですよ! 逮捕してください!」

「あー! あー! あー! 聞こえない! なーんにも聞こえないっ!!!」

「てんめぇ……てめえの実名でウィキ立ててメタクソに荒らしてやんからな……!」

「彼女がダメなら実家のご両親でもいいんだ。確か、ご実家は徳島だったね?」

「くっ、こんなことが……こんな激烈なセクハラが現代の法治国家で許されていいのか……?」

「さあ、答えを聞かせて貰おうか。小田成行巡査!」


****


「……はっ……うんっ……んっ……」

「うう……美紀……美紀……」

「ああっ、それ! ……恋人の名前っ……もっと呼んで……」

「…………」(きっも)

「ああっ、その蔑みの顔っ! いいっ! すごくいいっ! ああっ、ああああっっ!!!」

「…………」

「うッッッ」

「…………」


「分かりましたよ警視」(キリッ)


「おお、事件の真相は⁉︎」


「犯人は予め、壁に被害者の身体が丁度嵌る穴を複数開けて、被害者が絶命しないように人工心肺や大量輸血による処置を行いながら、一度被害者の身体を外科手術でバラバラにしたのです」

「それで?」

「一度バラバラにした被害者の身体を、壁の穴に嵌め込む形で再び縫合、点滴や流動食などで被害者を生かしながら縫合した箇所がつながるのを待ち、抜糸。手術痕が目立たなくなるまでそのまま生かし、充分に傷が消えてから、改めて被害者を殺害した。

 これが、この事件の真相です」

「と、いうことは、犯人は外科医か、少なくとも外科手術の知識のあるものだな。すぐに手配しよう。ありがとう、ポール君!」

「いえ。小田巡査の献身的な協力のお陰です。私一人の力では、この推理は生まれなかった。感謝するよ。小田巡査」

「いいからパンツはけよ」

「私たちはいいコンビだ。事件が起きたら、また頼む」

「二度と御免だよ」

「犯罪──それは法による統治への挑戦。非道な裏切りに誰かが涙する時、その涙を拭い、悪に立ち向かう法の番人が必要だ。小田巡査。それが我々警察官の使命なんだよ。辛いだろうが、お互いに頑張ろう」

「辛いのはオメーのせいだし、犯罪者はお前だよ。パンツはけよ」

「これにて一件落着!!!」

「俺は納得してねーからな!!!」



*** 完 ***

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶頂刑事・ポールたつお 木船田ヒロマル @hiromaru712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ