第二話 吸血鬼と忌まわしき紅
15 手合わせと目的地
リュックザイテの街から出たセイル達は、街道から外れた森の中に入った。しばらく進んでいくと、月明かりに照らされた、木々が開けている場所に出た。その中心辺りに立つとセイルはこう言った。
「槍を出せ」
「魔物ですか?」
「いや、違う。お前の今の実力を見ておこうと思う。軽く手合わせをするぞ」
セイルは荷を下ろし、腰から長剣を抜いた。
黒塗りの刀身は月明かりに照らされず、闇に紛れる。
リーレは戸惑いながらも袋から使い慣れた槍を取り出した。何の変哲もない、ただ少しくたびれ、刃が劣化しつつある槍だった。
「この石を投げ、地面に落ちたら開始とする。構えろ」
「……」
セイルは足元から拾った親指程度の大きさの石を空へ投げた。それはやがて重力に引かれて落ち、地面に着いた。
しかし、両者は動かない。セイルは様子見のため受け身の態勢でいる。
「どうした?来ないのか?」
「……はああああ!」
リーレは意を決し、吸血鬼の脚力によって瞬時に間合いを詰め、突きを繰り出す。セイルは最低限の動きのみでそれを躱し、剣で弾く。かなりの力が込められていたはずのそれは、しかしいとも容易く逸らされた。
「動きにブレがある。真っすぐ打ち込め。線を意識しろ」
セイルはそのまま剣を横に薙ぎ、胴めがけて攻撃を繰り出した。リーレは弾かれた槍を少しだけ引き、縦に構えてそれを防ぐ。しかし僅かに間に合わず、少し後ろに押された。
「槍の利点は間合いが広いことだ。近づけば隙ができる。一定以上の距離をとれ」
リーレは俊敏に動き、連撃を繰り出すも、セイルには掠りもしない。また、だんだんとと焦りが見えてくるリーレに対して、セイルは余裕を見せている。リーレの動きに対して口を挟むほどだ。
(どうして……?力に関してほとんど差は無い。どうしてこれほどの差が?いや、待って。どうして人間が吸血鬼と互角の力を持つの?おかしい……)
「終わりだ」
セイルがリーレの槍を弾き飛ばし、武骨な鉄の槍が宙を舞う。十メートルほど離れた木の根元に突き刺さった。
顔に疲れの滲むリーレはその場に座り込んだ。
「お前に槍は向いていない。線は悪くないが、間合いが近すぎる。これからはこれを使え」
そう言って、全く息の上がっていないセイルは袋から細剣を取り出した。これもまた黒く塗りつぶされている。
「さて、これからのことだ。ここから北東へ十日ほどのところに辺境の街モーナトがある。そこを次の目的地とし、夜に森の中を歩いて向かう。昼は穴でも掘って眠っていろ。十分程度休んだら進む。息を整えておけ」
セイルは一方的にそう告げると、森の中へ入っていった。
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