第8話

登校鬼ごっこが終わって昼休み。俺は小牧に部室に呼び出された。


今頃だが、俺は2-Bで小牧は2-A組なので、用があるなら直接ではなくてメールをしろといっておいた。


は? ライン? もってねえよ。


もっててもそもそも会話する相手すらいないからな。


俺は購買のパンを持ちながら部室に入った。

そこには既に小牧がいた。


「あら、遅かったわね。私をここで5分30秒も待たせるなんて言い訳はあるんでしょうね? 」


「いや、普通にパン買いに行ってただけだから…」


「そう。なら仕方ないわね。寛大な私が許してあげる」


「さいですか…」


俺は部室のど真ん中に放置してある対面して座れるようにくっつけてある席に座ろうとした。


「待ちなさい」


「え? 」


小牧は俺が座ろうとした席を移動させて自分の隣に持ってきた。

そして自分が席に着くと、隣の椅子を座れと催促するようにぽんぽんと叩く。


「いや、流石に近すぎないか? 」


「いいから座りなさい。それとも私の隣に座ると何か変な気分でも起こってしまうのかしら? 」


そうだよ! といってやりたかったが、俺はその言葉を飲み込んだ。流石にそんなこと言ったらセクハラになりそうだ。


「いや、恥ずかしいし…」


「そう。ならいいわ」


小牧はそういうと。自分から席を立って椅子と机を元に戻した。


あれ? いつもならもう3言くらい罵った後に無理やりとなりに座らせるのに、何故か今回はあっさり引いた。なんなんだ? おかしい。おかしいぞ。


「さあ、これでいいでしょう。早くご飯を食べましょう? 」


「あ、ああ、そうだな…」


不審に思いながらも俺は先に向かった。


なんだ? マジでどうしたんだ? 朝の出来事があって少し反省したのか? だとすれば俺も非常にありがたい。まあこいつも高校生だから更正する心くらい持ち合わせているのだろうと思い俺はおとなしく席に着いた。


「で? 何でここにわざわざ呼び出したんだ? 」


俺は購買のパンを袋から取り出しながら聞いた。


「何をいっているの? あなたの察しが悪くなったら一体何が残るの? せいぜい二足歩行くらいしか残らないわよ? 」


「お、おう…」


あーこいついいパンチ打ってくんな、おい。


「あなた、いつも1人でご飯を食べているでしょう? 」


「そんな俺を哀れんでわざわざここに呼んだ訳? 」


「そういうことよ。よかったわね、二足歩行以外にも取り柄があって」


くそ。あんまりムカつかない俺は変なのか?


やっぱり俺こいつに手懐けられている気がしてならない。しかも会って2日目で。


そして、しばらく無言でパンにかぶりついていると小牧が立ち上がった。


「? 」


俺は不思議な思いながらも小牧を見つめる。

小牧は一歩、二歩と俺に近づき、俺の目の前で止まった。


なんだ? どうしたんだこいつ。


「どうした? 」


俺が聞くと小牧は返事の代わりに行動に移してきた。

ちょこんと俺の膝の上に座ったのだ。


……は?


「な、何をしていらっしゃるんでしょうか? 」


小牧は俺の膝の上に座って無言で俺にくっついてくる。


「隣同士に座れないなら膝の上に座ろうと思ったのよ」

前言撤回。こいつ、全然更正してなかった。

むしろレベルが上がった。俺が狼狽している中、小牧はというと、その顔をニヤつかせて俺に密着してくる。おい! それ以上近づいたらやばい! やばいやばいやばいいい匂い!


「ふふ、これに懲りたら次から私のいうことはちゃんと聞きなさい? 」


要するに逆らったらレベル上げるぞと言っている。


「は、はい…」


なぜか俺が更正? した。いや、まてそれじゃあ小牧が正しいってことになるじゃねえか。何で悪い方向に更正しちゃうんだよ。

「そうね、じゃあ私にご飯たべさせなさい」


「へいへい…」


昼休みが丸々小牧へのご奉仕時間になったのであった。

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