第32話 新たな能力

「なんで私じゃないのよ……」


黒沢が露骨に不機嫌そうに寺田に当たっている。


若井を殺したことで寺井がスキルを手にしたことが不満だった。

ナギナタを刺したのは寺田だったが、致命傷を与えたのは毒スキルだと言いたいようだ。


納得がいかずにふくれていた。


「まあ誰が決めたのか分からないけど、そういうものなんだろ? 香耶のことは俺が守ってやるから安心しろよ」


「香耶って呼ばないで!」


寺田の恋人になったかのような口調と妙に自信満々な態度が気に入らなかった。

魅了したため命令は聞いてくれるだろうが寺田のことは受け入れられそうにない、むしろ心はずっと会えずじまいの上田になびいていた。


「ねぇ、行くよ……どうせここにはいないだろうし」


「えっ、いない? 誰か探してるのか? 教えてくれ!」


黒沢の眉間にシワがよる。

一言一言がかんに触る、やはりこの男とは気持ちの温度が合わない。


返事もせず黒沢は歩きだした。



「おいおい、置いてくなよ! なんで機嫌悪いんだよ! あぁぁ、もしかして……」


寺田が黒沢の下半身に目を向けた。


「サイテー……」



2人の距離は縮まりそうになかった……








さて、どうしたもんか……


あんなに猛威を振るっていた若井が死んだ……寺田がこんなに強いなんて驚きだ。

デバッグルームの出入口が見つからないか心配だったけど、黒沢と寺田も離れて行ったからもう安心だろう。


それよりも問題は……



「ゼェ、ゼェ……うぅ……」


中村さん、すごく苦しそうだ。

黒沢の毒が回ってから時間もたってる、もう長くないのかもしれない。


外でバチバチと争っている時に咄嗟に連れ出してきてしまったけど……俺に何ができる訳でもない。



「大丈夫、、ですか?」


「……ハァ、ハァ……ゲホッ……」


返事なんて当然ない、こんな状態の人を励ましたところで気休めにもならないだろうし……



そうだ、丹澤が入ってきた時のようにここに来た人はステータスが見れるんだった。


ここで中村さんの映像を……


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名前:中村 かな 性別:女

身長:145 体重:38

状態:毒


所持スキル

剣術技能(レベル1)

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やっぱりだ、目を閉じているから映像は表示されないけどステータスは見れる。


体重38キロって結構痩せてるんだな……っとそんなところ見てる場合じゃないや。

状態が『毒』になってる、今の具合が悪いのはそれのせいか……


見れたところでなぁ、これどうにかできないのかな。


ステータスの表示されている壁まで近づき、ステータス表示に触れてみた。


この『毒』ってやつさえなんとかできればなぁ。


表示され散る『毒』の文字をトントンと軽く叩くと、文字が一瞬薄くなり揺れたように見えた。


ん? 反応があった。


試しに身長や体重の部分にも触れてみるが、何も変化がない。

元々あるパーソナルな部分は影響がない……


待てよ、ってことはここで与えられた状態異常ならどうにかできるってことじゃないか?


『毒』の文字に触れたら文字が動いたよな。


このステータス表示を消しゴムで消すようにゴシゴシと擦ると文字がだんだんと崩れてきた。


◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️

状態:

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やった『毒』の表示が消えた!


丹澤のステータスの状態ってどうなってたっけな……?

空白ではなかっと思うけど。


とりあえず、毒はなくなったと思っていいんだよな。



「ハァ…………ハァ」


呼吸の乱れはさっきより穏やかになった。


顔色も血の気が少し戻ってきてる、明らかにさっきよりは楽そうだ。


俺がここで毒の文字を消したから快調に向かっているとしか考えられないよな?



すごいなこのスキル、相手のステータスの一部にまで影響を与えることができるのか。


これさえあれば黒沢は怖くない、あっでも俺自身のステータスは調べられないから俺が奴と会うのはまずい……まあ元々接触する気なんてないけど。



中村さんは普段から色白で血の気は薄いけど確実に回復している、息遣いも穏やかになって普通に寝てるみたいだ。



◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️

名前:中村 かな 性別:女

身長:145 体重:38

状態:普通


所持スキル

剣術技能(レベル1)

◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️


おっ、状態ステータスが『普通』になった、そっか丹澤も確かこんなだったな。


まだ目は覚ましてないけど、これで命に別状はなさそうだ。

良かった、中村さんが死んだら……


いや、やめようそんなこと考えるのは。


それよりこの人、スキルずっと隠してたけど剣術技能なんてスキルだったんだ。


こんな華奢な子が剣術なんてやってるはずがないもんな、中村さんの性格的に言っていじられるのが嫌だったんだろうな。


渡辺が作り出した剣を護身用に持ってきてたけど、これを渡したら強くなるのかな?



はっ……!? ずっと中村さんの顔を見つめてしまっていた。


今目を覚まされたら俺、変なやつだと勘違いされるんじゃ……

も、も、もし好意があるように思われたりしたら……めめめ、迷惑かけてしまうよな、、、


ダメだダメだ、そんなこと考えてたら。


あああああああああ、なんかここ緊張するな……

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