第24話 後日談


 ちなみにその後。皇女様は平然とまた天井の“穴”からお戻りになられた。「なにも言うな。大丈夫だ」とかなんとか言いながら人の頭を撫でくり回す。そんなことより僕はあの妙な出入り口がなんなのか知りたい。この人は一体なんなんだ。

 しかし残念なことに、皇女様を問い詰める前に僕は高熱を出してダウンした。



 翌朝、熱は引いていたのでのこのこ早朝訓練へ行く。も即座にぶり返し医務室送りに。そこでドクターストップを食らった僕は、その日一日を自室でゆるゆる過ごすことになった。

 こんなにのんびりできる日は久しぶりだ。一方どうやら慌てたのは皇女様だった。平日昼間に僕が部屋にいるというのは不都合らしい。

 部屋に戻った僕を見て、なんとも言えない顔になった。

「……ベッドで休むか?」

 そんなことをそっと聞いてくる。昨晩高熱の出た僕を床に寝させた人とは思えない発言だ。

 有難い申し出ではあったけど、今さらベッドなど必要なかったので丁重に辞退した。

「そ、そうか。では、できるだけゆっくり休んで、体を労れ」

 そう言いつつ、後ずさるようにクローゼットへ入っていく。そんなとこ入ってなにをしたいんだ、この人は。そう思いはしたが、あんまり皇女様が誤魔化したそうに動いているから、詮索しても悪いようである。見ないフリをした。

 皇女様はすっかり中へ入って扉を閉めてしまう。そのまま静かになる。いやほんと、なにがしたいんだ。

 待てど暮らせど皇女様は出てこない。さすがに気になってクローゼットをノック。声を掛けるが返事もない。不審が躊躇を越えたところで僕はクローゼットを開けた。

 皇女殿下がちんまり座って……いなかった。そこには誰もいなかった。いや、普通はクローゼットには誰もいないものだが。でも、入ったはずの皇女様が影も形もないっていうのはどういうことだ。

 狭いクローゼットの中をあちこち調べても、衣装ケースも荷物も壁も天井も床も異常なし。まるでもとから皇女様などいなかったかのようだ。

 もしや。この部屋の隠し出入り口は、ベッド上の天井だけじゃないってことか……?


 午後になって、皇女様がなんかさっぱりした顔でクローゼットから出てきた。はい、きっとこの部屋、変な出入り口いっぱいありますね。



 さらに翌日。すっかり回復した僕は授業へ復帰した。心なしか僕を遠巻きにしていたクラスメートの輪が、さらにさらに遠く離れたようである。なんとなく皆が僕と関わり合いになるのを避けたがっているらしい。こういうのは地味に堪える。けれどもまぁ、交友関係としては特に以前と変わってないわけで。

 それよりアルに腫れ物に触るような扱いをされたことに腹が立つ。ぽこぽこ三回ぐらい叩いたら、やっとアルはいつもの調子に戻った。だから許してやったけど、まったく手の掛かるやつだ。

 同じ事を向こうも思っている? 知るか。


 最後に例の恐い教官に関しては、本当に皇女殿下はなにか物申したらしい。詳しくは分からない。ただ、この教官の次の訓練の折り、嫌な感じで睨まれはしたものの、実際の嫌がらせの類いは一切なかった。むしろ釈明を受けた。

 曰く、体重を見誤り吹き飛ばした結果、軽い脳震盪の症状が見受けられたため、訓練へ参加させず安静を促したのだと。物は言い様にも限度があるし、なんにせよ僕はこの教官が恐くて嫌いだ。でもその顔を見ていると、天井の穴へ入っていく皇女様の御御足おみあしが浮かんできてしまうという病状に悩まされている僕は、吹き出さないようにするのが大変で、だからどうでもいい。


 しかし変な抜け穴は使うわ、教官に物申すわ、皇女様はますます得体が知れない。

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