第三四段 色

悩む度、と私は先述したが、私の悩みの一つには『色』があった。


 色即是空 空即是色と 唱えつつ 残り香に酔う 若き軟弱


幼少の頃から、孤独が嫌いであった。

それが根底にあるのかもしれないが、何かと、私は『色』に弱い人間であった。

幼児期には、二十歳過ぎの「大人」に憧れ、少年期には純朴というものに憧れた。

それこそ、憧れがそのまま『色』に繋がったのがこの時期の特徴であったのかもしれない。

ある意味では自分が『美しい』と思うものを愛でるという単純な感情であったのかもしれない。


少年期、私は目移りの激しい子供であった。

それこそ、目に映るひとの一割は私の『色』を覚える対象であったかもしれない。

今思えば、戦場に出て敵味方の区別もつかずに、玩具の銃を乱射したようなものであったのだろう。

この頃の悩みは中々に深いようで、自分の『罪』をよく歎いたものである。

それこそ、然し君――などと言われようものなら割腹しかねないほどであった。

それが、やがては文芸に昇華(消化ともいう)されてゆく。

まあ、少しでも「もしかすると……」と思う女性は、気持ち悪い目線が見ていたと考えてほしい。


そして、学生時代。

本格的に『色』が頭をもたげてくる。

だが、それ以上に『色情』と『恋情』の差に苦悩することとなる。

加えて、半ばには一人の女性に心奪われていることに気付かされる。

この時の思いは既に「君へ」三編に述べている通りであるが、結局は実を結ぶことなく終わる。

勇気がなかったのだ。

その結果、私の行く先は酒場や山野となり、心の中となる。

出立に当たって持つべきは離別の涙ではなく、陽気な希望であった。


 名ばかりを なぜ追うのかと 我武者羅に 推論ばかり 気狂いや 我


 朧月 眺める人も いつの間に 空へと向かう 飛びたてよ 我

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