第十九段 中華街

江戸の世、長崎は静かに南蛮人を受け入れ、日本では最も文化的な都市であった。

しかし、それだけではなく、唐土とのパイプでもあり、自然、明治以降はこの地に華僑の町が生じた。

それが、今の新地中華街であり、長崎の異国文化の一つである。

この中華街は最大の繁華街である浜町から大波止までの喉元に位置しており、長崎人は常に「闘い」を強いられている。

従って、長崎人は猫の額ほどの庭に注視する必要があり、あるいは、日本の縮図であるのかもしれない。


長崎で中華といえば「ちゃんぽん」、「皿うどん」が恐らく有名であろう。

これを受けてか、長崎の中華街ではこれをお高い値段で出す店も多い。

中華街の中にある店であったかどうかは不確かであるが、三千円近くする店もあるという。

別段、大した舌を持っているわけではなく、また、目的から外れるためにここでは「論評」を差し控える。

が、一つだけ申し上げるとすれば、ちゃんぽんにも在るべき姿がある。

ちゃんぽんは苦学している華僑のために生み出された料理であり、安くて量が多いというのが存在意義である。

高い中華料理の存在自体は否定しないが、高い「ちゃんぽん」というのは存在の自己否定を行っているようにしか感じられない。


 志 秘めた丼 この今は 物欲に沸く 亡者の湧いて


故に、私が中華料理を頂くのは中華街から外れた店が多かった。それも、ちゃんぽん、皿うどんなどチェーン以外では食べたことがない。

子供の頃、度々中華街を訪れたものであるが、特に魅力など感じず、嬉々としてそのような店ばかりを訪ねたものである。

周囲の同輩がそうした店を語るのも特に気にはならなかった。

天邪鬼が、子供の頃から私の中に住んでいたのかもしれない。


 一杯の 器の底に 心意気 今は知らずや 金権の野暮

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