第32話 【声】【声】【声】
中国が隕石雨に見舞われて世界は混乱中。
でも、俺の日々は変わらない。
腹が減れば飯を食うし、SNSで無駄に時間を費やすし、寝酒の量も同じ。
ただ一つ、大きな変化がある。
二ビル襲来を直前予知した鹿原の評価は世界的に高まり、日本における仕掛け人として俺もプチ注目中だ。
日本はもとより、アメリカ、ヨーロッパ、アジア……世界から取材依頼がウラノスへ殺到しているらしい。
ルキは全てを断っているとか。
賢明だ。インタビューがあったら「鹿原はわしが育てた」とドヤってやるもの。
今日はアミガのディナートークショー、場所はウラノス地下にあるホール。
お抱えスピリチュアリストの講演や株主総会等で使っている会場だ。
今日のライブは特別なもの。
企画構成をアミガ達本人が手掛けている。
もちろん、ルキと俺が補佐してるけどね。
そして、観客もファンクラブ会員のうち、ライブ参加やグッズ購入でもらえるポイントを貯めた猛者から、さらに抽選を潜り抜けた強運の持ち主だけが集っている。
今日は客席を一切使わない。
ステージ上に白い丸テーブルが四卓、それぞれに三人のファンが着いている。
つまり、観客は全十二人。
全員、アミガカラーの原色シャツをファンらしく着こなしている。
チケット代は無料。ウラノスお得意の赤字サービスが景気よく炸裂だ。
俺は舞台袖でスタッフに紛れて、ルキさん言うところの「特別なライブ」を見届けることになった。
ライブが始まり、アミガ四人はステージに出揃う。
一曲目はバラードナンバー。歌いながら、観客一人ずつと握手を交わし、目を見て微笑む。
袖から見ていても観客の目がハートマークなのがわかる。
つかみはオッケー過ぎ。
その後はいつも通りの歌とダンスにトークコーナー。
文字通り、汗がかかるような距離でファンは熱狂。
皆さんお行儀よく着席しつつもサイリウムを振り、テンションマックスで歓声を上げている。
一時間を過ぎた頃、ダリがステージ中央に進んだ。
「みんな来てくれてありがとう! 今日は三つ重大発表があります!」
客からは「おおーっ」と野太い声が上がる。
「一つ目は霊視について。バロック鹿原さんのコーチで、モンモは【声】を聞いて霊視ができるようになりました。ご存知ですよね。さて、実は今では私たち四人全員が【声】を聞くようになったのです!」
いつの間にっ。
客席からは拍手と歓声。
君達、本当に嬉しいのか、これ?
「二つ目の重大発表! これから霊視ショーを始めます。テーブルは四つ、私達は四人。お分かりですね。私達が皆さんと同じテーブルに着いて一人ずつ霊視。たっぷり【声】のアドバイスをお伝えします!」
「三つ目はショーの最後にお伝えします! お楽しみにっ。では、アミガ出動!」
四人はテーブルに散っていった。
それぞれ、円卓に着いて観客と話し始める。
マイクはオフになっているので、四組すべてがプライベートトーク。
ファン一人あたり十分間も霊視を行っている。
大好きなアイドルと見つめ合い、言葉を交わし、心の底まで見透かされて助言と励ましをもらう。ファンには夢のような時間だろう。
十二人の選ばれし男子は風呂あがり並にのぼせた笑顔を見せている。
やがて、極楽気分の彼らを席に置いて、霊感アイドルはステージ中央に集合。
再びダリはマイクを両手で包むように持ち、話し始める。
「皆さん、霊視ショーはいかがでしたか? モンモちゃん以外は初めての経験でした。今日は私達にとっても一生忘れない大切な日になりました」
四人揃って、最敬礼。
「では、最後の重大発表です。モンモ、よろしく!」
ダリはそっと下がり、モンモはゆっくりと微笑みながら中央に進み出る。
「今日は特別な日なんです。集まって頂いたファンの方にも、私たちにも、そして世界中の人にとっても。先日、中国にとても辛い災難が降りかかりました。経済、政治、エンターティメント、人々の交流、すべてが大混乱をしています。このとてつもない危機に立ち向かうため、この星はある決断をしました。今日この瞬間を境に、世界は次のステージへ進みます」
しっかりと溜めをとる。
ファンにとっては、手に汗握る時間が過ぎていく。
「【声】を聞く人が一気に増えます。これは地球の意志です」
この客層と人数だからこそ吐ける大ぼら……かな?
聞いた者は特別感を味わえるし、モンモならギャグで逃げても誰も怒らない。
「うそっ。聞こえる!」
ステージまで響く大声を上げたのは、俺の隣にいた舞台監督。
さらに助監督、照明、メイクとスタッフ達がそれに続く。
「私もっ」
「まじ? 【声】って、これ、この【声】?」
アミガの前に座る十二人の原色シャツな皆さんも驚き、はしゃぎ始めた。
「早速、みんな【声】が聞こえたみたいですね」
モンモはルンルン口調。
「お友達やご家族も聞こえるようになります。世界が一つになる時です。【声】のもとに同じ方向を向いて、世界を襲う二ビルに対抗しましょう。あなたが聞いてるその【声】は私たちアミガも聞いてる【声】だからっ!」
大歓声が沸き起こる。
見回すと客もスタッフも全員が【声】に覚醒した模様だ。
俺だけか、聞こえないのは。
別に聞きたくもないけれど。
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