ひざとごぼう

子どものころ

ごぼうが嫌いだった


固くて

見た目も口当たりも

木の根っこみたいで

土臭くて


子どものころ

ごぼうの匂いは

ひざの匂いにそっくりだと思っていた

友だちと畦道や里山を駆け回り

楽しかった一日の終りの

ひざの匂い


大人になった私は

ごぼうが好きになっている


歯ごたえも

食物繊維を含んで

体に良いところも

懐かしい風味も


あの頃の遊び場はなくなり

私は街中に暮らしている

あのひざの匂いを思い出そうとしても

記憶の保管庫には

過去の存在を示すラベルがあるだけで

実体はもうない


今、ひざは何の匂いもしない

ごぼうの匂いは野の匂い

鳥が囀り小川に魚が泳いでいた

子どものころを思い出すよすが

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