幕引き

 Side 闇乃 影司


 救出できた人数は結構な数になっていた。


 不自然なぐらいに効率よく助け出した闇乃 影司の御蔭である。


 と言うのも影司が移動しながら念じるだけでコンピューターをハッキングしてカメラの画像や基地の見取り図などを網膜に表示できたりとか出来るようになったからだ。


 影司は自分は人間ではなくなっているのは分かっていたがそれを完全に自覚してしまった。


 以前の時もそうだったが、まるで体を動かしてFPSゲームの主人公の体を動かしているみたいだ。


 だが全てが順調と言うわけでもなかった。


 大所帯ともなると、敵兵やら真っ黒い有機的な生物兵器らしき何かに襲撃されやすくなるが率先して闇乃 影司が叩き潰した。


『この基地は間もなく自爆します。職員達はすぐに退避してください』


 そして基地も自爆カウントがはじまった。


 それ以前に彼方此方で爆発が起きており、基地が自爆するよりもこの謎の爆発――影司は何となくだが自分のせいであるのは理解していた――で吹き飛ぶ勢いだ。


 外に出ると、そこでも戦いは始まっていた。


 砲台、ドローン、無人化された兵器、コンピューター制御可能な軍事兵器、外に脱走して暴れ回るデザイアメダルやアシュタルサイボーグ、生物兵器。


 それに巻き込まれた人の皮を被った悪魔達が惨たらしく、呆気なく死んでいく。

 

 彼方此方で爆発が起きていたのは分かったが外に出るとより状況が分かる。

 必死に生き延びるために抵抗する兵士や何かのパワードスーツを着た兵士もいた。


 もしも最終戦争が――世界が破滅するような戦争があるとすれば目の前のような光景を言うのだろうと闇乃 影司は思った。


「あいつら!! まだ部隊を隠し持ってたのか!!」


 セレナが言う通り基地の周辺には機甲部隊が展開していた。

 戦闘ヘリや戦車、日本ではほとんど配備されていないホバー移動式の陸上イージス艦まである。

 地上部隊は軍用パワードスーツ、ラウンド・ウォーリアーにロボット兵器のアサルトライドまで準備されいてた。


 それが激しい砲火を基地へと加えている。



Side 阿久津 雅人


「いいか!? 一人も逃すな!! 皆殺しにしろ!?」


「しかしよろしいので? まだ職員の救助は――」


 陸上イージス艦の艦長がブリッジでそう苦言を呈する。

 今、基地の周辺の展開にしている部隊は、戦力が激減した自衛隊の中でも数少ない虎の子の部隊だ。


 極秘の研究施設の警備と聞かされていたが噂程度で「非人道的な研究をしている」と部隊内では囁かれていた。


 この責任者の阿久津も後ろ暗い話題が絶えない。

 もしやそれが真実なのでは? と艦長は思った。


「知るか!! 皆殺しだ!! とにかく皆殺しにしろ!! さっさと命じないか!? 命令に従わなければ処分するぞ!!」


「ですが――」


 あんまりな物言いだ。

 今の阿久津は追い詰められた独裁国家の元首みたいだ。


 確かに周辺に配備した部隊や陸上イージス艦の火力を使えば可能だが基地の職員を皆殺しにするのと一緒だ。


 そもそもこんな場所に機甲戦力含めた陸上イージス艦などを配備している時点でおかしい。


 そこにこの阿久津の態度だ。

 

 本当にヤバイ研究をしていたのではとブリッジの面々は思ってしまう。 

 

「命令に従え!!」


 そして阿久津は銃を抜き出した。

 直後にブリッジへ――闇乃 影司が飛び込んでくる。

 ブリッジクルーは見掛け凶悪な黒い悪魔だか昆虫だかモチーフらしき怪人に向かって躊躇いなく発砲するが構わずに影司は艦内のコンピューターを弄くり回す。


『落ち着け――自分の体が変化していれば出来る筈だ――』


 そして用が済んだのか影司は脱出した。


 直後、ブリッジの職員は影司が何をしたのかすぐに理解できた。


「大変です!? 艦のコントロールが乗っ取られました!?」


「イージスシステムフル稼働!! 全兵装フル稼働!! 目標は周辺に展開している友軍です!!」


「直ぐに停止しろ!?」


 艦長は直ぐに指示を飛ばしたが――


「ダメです!! ラウンドウォーリアー部隊、アサルトライド部隊、戦闘ヘリ、戦車もコントロール不能!! お互いに潰し合ってます!!」


 すると陸上戦艦にも揺れが――友軍に攻撃されているようだった。

 信じられないことだ。

 例えコンピューターウイルスを流されても、パイロットの意思に反した行動は出来ない筈だ。

 

 だが真相の究明よりも艦長は言いたいことがあった。


「アンタらは一体何の研究をしていたんだ!? さっきの怪人はなんだ!?」


 艦長は阿久津に怒鳴り散らす。

 もはや悪夢としか言いようがない。

 最低最悪の状態だ。


 阿久津は尻餅をついて顔を真っ青にして、汗だくの状態で失禁して「ワシは知らん!! ワシの責任ではない!! 断じてワシの責任ではないぞ!!」と言っていた。


「コントロールの奪回は!?」


「無理です!! いかなるアクセスも受け付けません!! 」


「被害拡大!! 被害報告追いつきません!! 駆けつけた友軍の戦闘機にも攻撃してます!!」


「本艦の自爆プログラムも作動!! こちらも制御受け付けません!!」


「クソ・・・・・・理由は聞かせて貰うぞ!! そいつを連れて総員退艦急げ!!」


「了解!!」


「終わりだ!! 何もかも終わりだ!!」


 

 Side 闇乃 影司


 盛大に潰し合いが行われているのをよそに走って走って――散り散りになった――


 これは少しでも生存確率をあげるための判断だ。


 残ったのはセレナと影司だけになった。


 海が一望出来る高い崖。


 地平線の先に夕日が現れていて、その夕日が海面に反射し、ロマンティックな情景になっている。

 

「ごめんな――こんな姉ちゃんで――」


 そこでセレナは廃人となったエミを殺した。

 影司は止めようとしたが間に合わなかった。

 そしてセレナも倒れ込んだ。セレナの体を中心に血溜まりができる。


 慌てて影司はセレナを抱えた。


「それが、もう限界みたい――」


『それは・・・・・・』


「その様子だと分かってたみたいだな・・・・・・」


 例えサイボーグでも、自分の遺伝子で体が変質していたとはいえ、セレナは"助け出した時点"で生きているのが不思議な状態だった。


 手の施しようがなかった。


 出来たとしても死を遅らせるぐらいだった。


「・・・・・・最後の大脱出劇、楽しかったな」


『うん――』


「キスして。最後ぐらい、ロマンティックな死に方したい」


 影司は慌てて人間形態に戻ってセレナとキスをした。


 セレナは「ありがとう」と言って――力尽きた。


 セレナとエミは光の粒子となって――嘗ての凛堂学園での霞や小春のように体内に吸収された。


「これが――地獄なのか――こんな事が続くと言うのか――」


『ならいっそ、闇に身を落としてみてはどうかしら?』


「お前は!?」


 悲しみにくれる暇もなく


 そして背後に現れたのは忘れもしない。

 凛堂学園の屋上で現れた――自分を化け物に変えた張本人。


 黒いドレスに紫色の長い髪の毛。胸元が露出したドレス。

 ファンタジーの魔女と女王が融合した様な姿。

 傍には今や国民的なヒーローである変身ヒロインであるセイントフェアリーのブラックバージョンもいる。

 他にもプロテクターを付けた少女達が多数いた。

 

 忘れもしない。


 忘れてたまるものか。


 こいつらも復讐対象だ。


 それがノコノコと眼前に現れてくれた。


『丁度いい! 今はとても最悪な気分なんでな! あの時の因縁もろともここで終わらせてやる!』


 そして両者は激突した。



 数日後――


 この事件は隠し立てするには犠牲者が多すぎて、そして被害総額も巨額すぎて完全には隠し通せなかった。


 阿久津 雅人は事件の重要参考人として捕らえられたが廃人同然の状態となっていた。


 事件の関係者も九割近くが死亡。


 特に極秘研究エリアの生存は絶望視された。


 周囲に展開していた自衛隊も九割近くの隊員が死亡。


 さらには僅かな生き残りにも箝口令が敷くが前述通り「何かとてつもないことが起きた」ことまでは隠し通せなかった。


 またこの事件の舞台となった極秘施設関係者の不審死が相次ぎ、研究成果らしきファイルも何者かに奪取される。


 後にこの事件の真相は最悪なタイミングで公表されることになるが、それはまた別の話である。

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ヒーローロード外伝・闇乃 影司(R17・5、閲覧注意) MrR @mrr

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