第21話 BBQ&肝試し


僕が戻ると津山君と里奈が庭でBBQの為の火熾しをしていた。

炭に火をつけるのって大変だと聞いたことがある。しかし津山君はあっという間に火熾しをしたのだ。


「津山君すごい。あっという間に炭に火がついたね。こういうの得意なの?」


里奈が津山君を尊敬のまなざしで見ている。


「子供の頃にボーイスカウトで習ったんだ。家族でキャンプもよく行ってたしね」


キャンプが得意な男って頼りになるな。僕は全くできません。


「忍はキャンプ得意?」

「僕が得意に見える?僕が役に立つことはないよ。津山君の後ろに立って応援するくらいだ」


そうこうしているうちに買い物組が帰ってきた

「肉がきたぞー!」


本田君の叫びに僕たちは拍手をした。肉最高!

今井さんと中川さんが野菜を切りに台所に向かった。

僕たちは飲み物の準備をし臨戦態勢に。火力はどう?箸の準備は?皿は人数分あるんな。お爺さんとお婆さんも招待したな。

よし、こっちの準備はOKだ。

今井さんと中川さんが戻ってきたらパーティーの始まりだ。

本田リーダーの一言。


「えー、本日はお日柄も良くバーベキュー日和となりました。楽しい食事は我々の親睦を深めることになるでしょう。これからは互いに助け合い切磋琢磨して学生生活を送りたいと思います。この場を提供してくださった上原さん、お爺さん、お婆さん、本当にありがとうございます。それでは肉の宴を開催したいと思います」


本田君はみんなの”え?”という表情を満足そうに見ながら言葉を続ける。


「それじゃー肉を焼くぞ!お前ら沢山食っておおきくなるんだぞ!」


さぁ、バーベキューのスタートだ。

網の上に一瞬で置かれる肉。網全体に肉が敷き詰められている。


「多少生っぽいがファーストアタックは頂きっ!」


神崎君が箸をのばして肉を食べる。まだ、半面しか焼いてないよね。本田君や津山君もそれに続く。


「ほら、月宮も男だったら半生でいけ」


お腹壊すよ。


「ダメだよ。忍は絶対にお腹壊すから。ちゃんと私が焼肉奉行してあげる」


おう、里奈さんが奉行に立候補してくださった。

次から次へと焼かれる肉。しかし高校生の胃袋をなめちゃいけない。あっという間に消費されていく。


「お肉の次は魚介類だよ」


上原さんがイカや魚、貝を網にのせる。サザエ美味そうだ。


「はい、忍のだよ」


里奈が肉やイカを皿にのせてくれた。


「里奈ちゃんがお母さんしている」

「お母さんじゃないよ。新妻だよ」


中川さんの発言に津山君が突っ込む。そしてさらに神崎君がさらにかぶせてきた。


「沢木さんて月宮にだけは甘いよね。2人はカップルだと思っていたけど違うんでしょ?他の男に口説かれても全く興味を示さないのに、月宮の言葉には割とメロメロになってるよね」


神崎君、なんてこと言うんだ。

里奈は恥ずかしそうに、


「別に忍は口説いてこないし。対等な友人として付き合っているだけだよ。琴ちゃんとかと同じ感覚?」

「いや、上原さんと同じ感覚って時点ですごくない?だって男でそれだけ仲いいのは月宮だけでしょ?もう、付き合っちゃいなよ。見ている周りが砂糖漬けになりそうだよ。それに正式に付き合えば沢木さんに付きまとう男もいなくなるでしょ」


神崎君の言葉に里奈はたじたじだ。

よし、僕が場の雰囲気を変えよう。


「サザエ焼けたぞ。僕はサザエが焼きあがるのをずっと待っていた」


醤油を垂らしサザエを皿にのせる。里奈の皿にもサザエをとってやる。


「僕はサザエをほじくるの上手いんだ。里奈のも取ってやろう」


割りばしを使いサザエの身を取り出す。ワタを切らないように一気に捻って取り出した。


「サザエのほろ苦さがいいよね」


続いてハマグリ、ホタテを食す。……野菜は?知らない。

お婆さんの握ってくれたおにぎりを網で焼き、焼きおにぎりで食べる。醤油の香ばしさがとってもいい。

沢山用意された肉や魚介があっという間になくなった。男だけじゃなく、女性陣も結構食べていたよね。


「こんなに食べたのは久しぶりだよ。お腹がパンクしそう」


うんうん、里奈も結構食べてたよね。


「食後の運動がてらに肝試しがあるから平気でしょ。運動になるからね」

「そういえば肝試しの準備で神社行ったんだよね」

「うん、行ってきた。悪いのはいなかったから安心していいよ。たまに強いのが神社にいる場合があるんだけど、今日行く神社は何もいなかったから」


その後、デザートのスイカを食べながら肝試しの説明を本田君から聞く。

肝試しは2人1組で神社まで行き、手水舎に置いた飴玉を持って帰ってくる事。組はスマホアプリでランダムに決める。各組に懐中電灯1つが支給される。往復20分位なので途中で他の組とすれ違う。

上原さんがアプリで組み分けを行う。


1組 月宮 今井

2組 本田 津山

3組 上原 中川

4組 神崎 沢木


となった。

一部の男子より組み分けに物言いがついたが、必ず男女ペアとの決まりはなかっため決定となる。

本田君の絶望した顔はナイスです。



僕たちはお爺さんの家の前に集合している。


「それでは肝試し大会を始めます。皆も知ってのとおり今回の肝試しにはお化け役がいません。なので何か出たらそれは本物です。呪われないようにしてください。無事の生還を祈ります」


本田君が拗ねていたので上原さんが始まりの挨拶をした。

トップバッターの僕と今井さんが出発をする。


「懐中電灯は今井さんが持ってね。今井さんのペースで歩けばいいから。僕は怪談とかお化けとか割と平気なほうだから、何かあったら遠慮なく頼ってね」

「月宮くん頼りにしてるよ」


出発してすぐに神社への山道に入る。道は未舗装で森の中に続いている。


「暗いね。私ちょっと怖いかも」

「街灯ないからね。歩くときに転ばないようにゆっくり歩こう。僕が前を歩くから道を照らしてね」


今井さんの一歩前に出て歩く。さすがに女の子の後ろについて行くなんてかっこ悪いからね。


「月宮君、洋服掴んでいい?」


彼女はビビりらしい。


「手つなぐ?暗いし躓いて転んでも大変だから」


今井さんの前に手を差しだす。彼女は僕の手を取り、

「ゴメンね。ちょっと怖いかも。里奈ちゃんに怒られるかもしれないけどゴメン」


別に怒らないでしょ。


「僕と今井さんが手をつないだって怒らないよ。それより怪我でもしたほうが大変だよ。ゆっくりでいいから慎重に行こう」


細い山道をゆっくりと進んだ。

しばらく進むと道の先に赤い鳥居が見えてくる。手水舎は鳥居をくぐって左手にある。

日中と同じく霊の気配は全く感じない。真っ暗な闇の中に浮かぶ赤い鳥居はなかなか趣があるな。


「月宮君怖くないの?私だめだ。気分悪いかもしれないけどくっついていい?」


今井さんは僕の腕にしがみついてきた。女の子の体って柔らかい。


「しがみついたら歩けないよ。僕はお化けに耐性があるからちゃんとエスコートするよ。とりあえずしがみつくのは止めて手をつなごうか」


くっついた体を離し手をつなぐ。


「ゴメンね。肝試しって結構くるね。こんなに怖いと思わなかった」


僕と今井さんは転ばないように慎重に進む。鳥居をくぐると手水舎はすぐある。


「あ、あの飴だね」


4つある飴の一つを手に取り今井さんに渡す。今井さんは飴の袋破り僕を見る。


「はい、あーん」


その言葉につられて口を開ける。

今井さんは飴を僕の口に放り込み、


「美味しいかな?」

「甘い」

「飴だしね。さて、帰りも頼りにしてるからね」


歩いてきた道を戻る。鳥居をくぐり山道に進もうとすると前のほうに懐中電灯の明かりを見つける。


「2組目の本田君と津山君だよ」

「ふふっ、ここは驚かすのがお約束でしょう」


今井さんに手を引かれて道のわきの草むらに隠れる。

懐中電灯の光が徐々に近づいてくる。本田君の愚痴も聞こえてきた。


「何で男2人で肝試しに回らないといけないんだよ。俺の青春計画が……」

「本田君が組み分けの前にちゃんと男女を分けなかったのがいけないんだよ」

「だって上原さんがスマホアプリつかうなんて思わなかったからな。たしかにアプリだったら全員が公平だ」

「日中に十分楽しんだからいいじゃないか。欲を出すと失敗するよ」


本当にそのとおりだ。

今井さんが耳元で私が驚かすからじっとしていてと指示がきた。

近づいてくる2人が隠れている僕たちの前を通過する。そっと草むらから出た今井さんは2人の後ろから肩をつかんだ。


「ひゃっ」「おわぁぁぁぁ~~~~」


津山君はその場で固まり、本田君は見事な前転を披露してくれた。


「はーい、ドッキリ成功でーす。さぁ戻ろうか」


後ろから聞こえる本田君と津山君の非難する声をまるっきり無視。

今井さんは僕の手を取り歩き出した。


「あの2人はものすごく驚いていたね。本田君が地面転がったときはどうしようかと思ったよ」

「あはは、すごかったね。自分が言い出したのにね」


今井さん、実にいい笑顔である。さっきまでの怖がっていた姿が嘘みたい。


「今井さんはもう大丈夫なの?怖くなくなった?」

「うん、もう平気。手をつないでもらってるしね。1人だったら絶対無理だけど2人だからもう大丈夫」


ドッキリを行い気持ちを持ち直した彼女の足取りは軽い。さっきまで怖がっていたのが嘘みたいだ。

あっと言う間にゴール傍まで来た。ちょうど3組目とすれ違う。

上原・中川ペアに今井さんがアドバイス。


「さっき草陰から本田君と津山君を驚かしたよ。2人もやってみたら?明かりが見えたらすぐに隠れて驚かせるの。本田君なんて地面転がって驚いたからね」


それを聞いた上原・中川組はもの凄くいい笑顔である。


「おっけー!私たちはミッションをやり遂げて見せる。忍君も期待していいよ」


2人は山道に入っていった。

ゴールに戻ると出発前の神崎くんと里奈がスタンバっている。


「お帰りなさい、忍。怖かった?」

「それ答え分かってて言ってるよね。道が暗いから気をつけないと怪我するからね。足元注意だよ」

「うん、注意する」

「ちなみに気配は全くない」

「わかったよ」


里奈もリラックスしているみたい。どちらかというと神崎君のほうが緊張してるのか?

念の為、里奈に小さなアトマイザーに入った血水を渡しておいた。


「神崎君、山道が思ったより暗いから足元注意してね」

「おう、サンキュ。なんかドキドキしてきた」

「神社はもの凄くいい雰囲気だし、山道を歩いてると離れたところからカサカサ音が聞こえるよ。見てはいけないものを見ないようにね」

「おい、出発前に止めてくれ。沢木さんの前でビクビクできない」


神崎君、里奈は全然怖がってないよ。

時間になり神崎君と里奈は出発をする。ちょうど本田君・津山君たちが戻ってきた。


「やべー、マジ怖かった。お前らに驚かされた後、上原さんと中川さんにもやられたよ。2人が木の陰からいきなり飛び出してくるもんだから大声出しちまった」


どうやら上手く驚かせることに成功したようだ。


「男のくせにビビりなの?月宮君なんて通学路を歩くがごとく普通にしてたよ。怖くてもちゃんとエスコートしてくれたし。女の子だったら100%惚れるよ」

「俺たちは男2人だったからいいんだよ。間違えて惚れちゃったら困るだろ?」

「本田君と津山君かぁ、”有り”だね」


今井さん、何が”有り”なんだ。

しばらくすると上原・中川ペアが戻ってきた。そして神崎・沢木ペアも到着。

上原さんたちは神崎君と里奈も驚かしたみたい。里奈はそんなに驚かなかったけど、神崎君が大声出して里奈に縋りついたらしい。ゴールしてからも必死に謝っていた。

結構楽しめた肝試しであった。





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