7考目 踊る宗教 4

「ちょっと待って。この人信者じゃないの?」


「それどころか会った事すらないなんて。」


「しかもニートってどういうことよ?」


飛鳥と涼香は立ち上がって、矢継ぎ早に守に迫る。


「落ち着いてくれ。順を追って話をするよ。」


守は2人を座らせて、コホンと咳払いをして話を始めた。


「まず信者ではないという部分からだが、彼はダンスダンス教に無償で場所を提供している。」


「どうしてよ?」


「それが分からないんだ。困ったことにね。」


「分からない?」


「厳密には推測は出来るけど完全に分かった訳ではないという意味だ。ヒントはこの新聞のインタビュー記事だけ。これによると、人に提供したいという教祖に感銘を受けて、場所を貸し出しているそうだ。つまり、信者ではないが、ただ教祖様に頑張ってもらいたい、ということらしい。どうも眉唾だがな。」


「確かに、普通では考えにくいですね。」


「そして、信者ではない証拠がもう1つ。これは教祖に会った事すらないという部分にもつながるんだが、田山はほとんど家から出ない。こういう取材には応じているようだが、全てが家の中だ。基本的には買い物・食事は通販、家事はヘルパーを雇ってやらせているようだ。さらにこのビルにはエレベーターは無く、上に上がる手段は外階段のみ。全く教祖に会っている様子が無いらしい。こんな生活をダンスダンス教がビルに入ってからはずっと続けている。」


「ダンスダンス教が。。。」


「ビルに入ってから。。。」


飛鳥と涼香は理解を深めるようにおもむろに声に出した。


「な、怪しいだろ?ちなみに、このヘルパーってのも出入りは田山家のみだ。結論この2人はビルのオーナーと借主という関係を除けば一切連絡を取っていないらしい。」


「でも、スマホやパソコンで連絡を取っているのかも。」


「至極当然の疑問だが、そもそも教祖はあらゆる通信機器を持っていない。この21世紀にだ。」


そこまで聞くと飛鳥と涼香はため息にも近い声を出しながらいすにもたれかかった。


「うーん、何だか頭が混乱してきました。ただ、お話を聞く限り、この田山さんはかなりお金持ちのようですが、ニートなんですよね?」


「ニートと言うには少し違うか。彼の主な収入は株式だ。」


「株ってあの株?」


「ああ、田山はダンスダンス教がビルに入ってから、短期間でかなり資産を増やしているそうだ。だからこんな生活が出来ている。ここがめちゃくちゃ怪しいポイントなんだ。」


「どうして?株で上手くやっている人なんて沢山いるでしょ?」


「だが、田山のようにエスパー並みに上手くいく人間はほとんどいない。」


守は飛鳥と涼香の顔をじっくりと見比べるように見渡した。


そして、飛鳥に視点を定め、試すように顔を覗き込んだ。


「インサイダー取引。」


涼香がぼそっとつぶやく。


守がニヤッとして、ゆっくりと視線を涼香に向ける。


「その通り。ここまでの話を総合的にまとめると、田山と教祖はインサイダー取引に絡んでいるとしか思えない。」


守と涼香の目線が強く重なる。


飛鳥はそんな2人を前に呆気に取られていた。

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