07/07

11:28-11:47

「今日もここにいらっしゃるんですね」


 声を掛けると、光はこちらへ振り向き、にこりと笑みを返してくれた。


「先日迄、星間を巡っておったからのぅ」


 光はふわりと私の傍らへ寄ると、宙に腰掛けるような仕草で、あるはずのない足を揃えるように居住まいを正す。

 今日は風が強く、曇天は瞬く間に彼方の空へ押しやられ、形が目まぐるしく変化する。背景に青空が覗くと、雲の動きがよく判った。水筒に注いだ水が泡立つように、雲の端が湧き起こり、湧き起こったそばから溶けていく。その速度から、雲が駆け足をしているようにも見えた。


「今夜も、曇りのままですかね」


 私はふと尋ねていた。


「そうじゃろうの。自然のままに任せるならば」


 光は頷いて、椅子から立ち上がるように体躯を伸ばすと、草叢くさむらへ、無いはずの腰を下ろす。


「七夕の日はいつも曇りです」

「七夕、とは」


 光は、私に七夕の意味を訊ねる。

 ひと通り説明を終えると、光は首を傾げてひと呼吸考え込み、右の手のひらを広げてみせた。

 その手をうんと伸ばしたまま、軽く振り上げてみせる。虚空を凪いだ光の筋は糸となり、光の手元に現れた。


「短冊の代わりにしておくれ」


 光が私に握らせたのは、五色の糸。

 光で編まれたそれらは、私の手のひらでほのかに明るく光を放つ。


「もうひとつの七夕の日は、晴れると良いのぅ」


 光はそう言い残すと、大地から舞い上がり、そのまま天へと昇って行った。


 光の姿が曇天の向こうへ消え去るのを見届けて、私は再び手元に視線を落とす。

 赤、青、黄、白、紫色の糸が風にたなびく。吹き飛ばされないようにしっかり握ったところで、私は気が付いた。

 笹はどこに植っていただろうか。

 私は丘を駆け下りて、笹を探しに出掛けることにした。

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