ばんそうこう

宇佐美真里

ばんそうこう

「わ~ん!」

目の前を走っていた小さなオンナのコが転んで泣き出した。

週末の小さな公園。辺りには何人も子供たちが遊んでいる。

泣き出すオンナのコを気にする子供は誰もいない。

みんなそれぞれ自分たちの世界に没頭している。

平日、ボクがその公園を通りかかる頃はほとんど子供も見かけないが、

それはボクが通りかかる時間の問題。いつも朝早く夜遅い。

週末の公園は賑やかだ。


「パパ~っ!」

泣き出したオンナのコがボクの方へと駆け寄って来る。

そう、このコはボクのムスメだ。

「すりむいちゃったの~!」

泥だらけの指先で、擦り剥いて赤く血の滲んだ膝小僧を指差す。


「痛かったネ…。ほら、見せてごらん」

小さな膝についた砂をそっとボクは指先で払う。

「血が出てるケド、怖くないネ?痛い?」

「うん…、チョットだけ…」鼻をすすりながらカノジョは言った。

転んだコトに驚いて泣き出したものの、もう泣いてはいなかった。


「水で洗って、パパが絆創膏を貼ってあげよう」

座っていたベンチからボクは立ち上がり、ムスメと手をつなぎ歩き出す。

「バンソウコウ?」

「そう。絆創膏を貼ってバイキンが入らないようにしないと…」

するとムスメがボクを見上げて言った。


「ちがうヨ、パパ。すりむいたらみずであらって、そのままにしておくンだヨ!」

「そうなンだ?」得意顔で見上げるムスメをボクは見下ろす。

「そうだよ!パパ、なんにもしらないンだネ~っ!」

ついさっきまで泣いていたはずなのに、今はもうかなりの得意顔だ…。

「かさぶたがはやくできるように、じゅくじゅくさせておくンだって…ママがいってた」

「へぇ~、ママが言ってたンだ?」

「うん!」

顔中を笑顔にしてムスメは頷く…。


「ママは昔、パパが擦り剥いたトキは、消毒して絆創膏を貼ってくれたンだヨ…」



サッカー部だった高校生の頃のボク…。

練習中に擦りむいた膝は血の筋を何本も浮かばせていた。

「ほらっ!擦り剥いたら消毒しないと!見せて、見せて!」

救急箱を持ちながら駆け寄って来るマネージャー。

ベンチに座るボクの前に跪くと、ボクの手を払いのけて傷口を覗き込む。

「あぁ…、結構擦り剥いちゃったネ…」そう言うと傷口に水を流しかける。

続いて救急箱から消毒薬出し、「沁みるヨ?」と言いながらガーゼで傷口をポンポンと軽く叩いた。

手際よく絆創膏を取り出すとボクの膝に貼るマネージャー。

「はい、おわり。絆創膏はしばらく剥がしちゃダメだからネ、いい?!」

「うん…ありがとう」目の前に跪く笑顔のマネージャーにボクは頷いた。



「でも…ママが、みずであらってそのままって、いってたもん!」

ボクの膝に絆創膏を貼ってくれたマネージャーの姿を思い出しながら、もう一度ムスメに言ってみた。

「へぇ~、ママが言ったンだ?」

「うん!」

顔中を笑顔にしてムスメは頷いた…。



-了-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ばんそうこう 宇佐美真里 @ottoleaf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ