第11話  ダークブルータイタン

 二台の戦闘機が怪獣の周りを周回する。その中でダンキチは唇を噛み締めた。

 数十分前に無線から流れた仲間たちの訃報が頭から離れない彼は、ビル群を踏み倒しながら、進行する怪獣に怒りと憤りの視線を浴びせることしかできない。

 

 丸い赤ん坊のような風貌のその怪獣が、背中から生やした虹色の蝶のような羽を羽ばたかせて、風圧で窓ガラスを次々に割っていく。

 二つに分かれた顔はイタズラを企てているかのように笑っている。

 それから、怪獣は羽を上下左右に動かしながら、ポンと一回ジャンプした。すると、怪獣の周囲で直径三十センチくらいの球状の風が生まれ、地上に散乱していたガラス片が吸い込まれていく。右手で上空に投げたそれを左手でキャッチしたら、今度は左手で風の球体を上空に投げる。そんなキャッチボールのような動作が繰り返される。


「クソ怪獣! 遊ぶな!」

 はるか上空からその模様を見下ろしていたダンキチが怒りを露わにしながら、戦闘機を下に傾けた。地球防衛隊の隊長を乗せた戦闘機は、竜巻にガラス片を浮かべて遊んでいる怪獣に向かって、一直線に進んでいく。

 そんな動きに、ナオの戦闘機も追尾した。

「ダンキチ隊長。怪獣に殺されていった仲間の想いを受け継いで、アレを打ち込みます」


 無線から聞こえてきた仲間の声を聴き、ダンキチは無線を握った。

「ああ、ナオ隊員。行くぞ」

「はい!」

 ナオが力強く返事して、前を向き遊ぶ怪獣の姿を捕える。


 その怪獣の周囲で二台の戦闘機が八の字を描くように宙を舞う。

 それと同時に、戦闘機から無数の小型ミサイルが次々に発射された。


「ダブルエイトアタック!!!」

 

 二人の地球防衛隊の声が重なり、多角的な攻撃が怪獣の体を直撃していく。

 やがて、周囲を白い煙が包み込んだ。


「ギュワァァァアアアアーヌゥゥ」

 怪獣の絶叫が周囲に響き、窓ガラスが次々に割れていく。

 そして、再び上空に舞い戻ったダンキチとナオは、地上を見下ろした。

 白い煙が消えた先で、動かなくなった怪獣がうつ伏せで倒れている。

 それを見たダンキチの顔に笑みが浮かぶ。


「やった。遂に俺たちだけのチカラで怪獣を倒せたんだ!」

 喜びの言葉を口にしたダンキチの元に、無線が届く。

「ご苦労と労いたいが、今はそれどころではない。東都中学校を襲撃した怪獣たちがウォーターブルータイタンと戦闘中。現在、二体の怪獣を撃破して、残り一体と交戦中とのことだ。殉職したみんなの敵を取るため、あの怪獣を撃破せよ!」


「ゲン司令官。言われなくても分かってる。あの怪獣だけは、俺とナオ隊員が倒さないといけないんだ」

 そう力強く返すと、ダンキチとナオを乗せた戦闘機は、決戦の部隊に向かい飛び立った。


 丁度そのころ、ウォーターブルータイタンは、東都中学校の校庭の上で残り一体の怪獣と対峙していた。


 二足歩行の巨大な山羊の全身に張り付いた黒い目がギョロと動く。真っ赤な瞳と鋭い角が光り、全身の目から一斉に赤い線が伸びた。

 同時多発的に発射されたビームは、校庭の木々を焼き払う。


「なるほど。あのビームを校舎に当てられてしまったら、学校が火の海に包まれるということか?」

 燃え盛り、黒い煙を天に昇らせた木々に視線を移した巨大ヒーローが顎に右手を置く。

 考察の後で、最後の怪獣をジッと見た正義の味方が右手を前に出す。


 それと同時に、怪獣の無数の目から赤い光が伸び始めた。それは、ウォーターブルータイタンの体に向かっている。


「メェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェッ」

 鳴き声と共にビームが発射され、それを受け止めるように、正義の味方は全身を白い光で包み込んだ。


 そして、伸ばされた右手に青白い光が掌に集まっていき、放たれる光線を押し返すように、光を飛ばす。


 一瞬で正義の光線は悪のビームの威力を吸収し、山羊の怪獣は白い光に包まれた。




 数分ほどで東都中学校の校庭に三体の怪獣の残骸が転がった。その様子を学校の屋上から見ていたサトルの顔に驚きが刻まれる。


「スゴイ。数分で三体の怪獣を撃破しました!」

「くっ、まだ……です。まだ、本当の闘いは終わっていません」

 サトルの隣で頭を両手で抱えたユウコが苦痛の声を漏らす。だが、サトルは彼女がなぜそんな顔をしているのか分からなかった。

「どういうことですか?」

「来ます」という女子中学生の呟きから数秒の時が流れ、屋上のドアが開く。


「素晴らしい。流石、ウォーターブルータイタン」

 男の声と共に、拍手が屋上に響く。そして、サトルは、目の前に現れた男の顔を見て、眉を潜めた。


「なぜ、あなたがここにいるのですか? ヒデキ隊員」

 突然、屋上に現れたヒデキは、驚きの視線をサトルにぶつける。その右手には手の平サイズの黒水晶が握られていて、頭には白い包帯が巻かれていた。

「それはこっちのセリフっすよ。避難誘導しなくていいんすか?」

「病院から姿を消したと聞いたが、まさかこんなところで会えるとは思いませんでした」

「いやぁ。あの神社の階段からあの女に突き飛ばされた時は、どうなるかと思ったけど、生きてて良かったっす。おかげで、計画を滞りなく実行できるんすから」


 へらへらと笑うヒデキが頭に巻かれた包帯に左手で触れる。それから、黒水晶を握った右手を天に掲げた。


「さて、世界を滅ぼしに行くっすよ。エンドワールド!」

 掛け声と共に、ヒデキの体が黒い光に包まれていく。

 禍々しいオーラを身に纏い、球体の中に取り込まれて天に飛び上がる。

 それは、校庭の地面を抉るように落ちていく、中から真っ黒の巨人が姿を現した。

 

 その見た目は、ウォーターブルータイタンの姿を黒く塗りつぶしたように見える。


「そうっすね。我の名は、ダークブルータイタン。この世界を滅ぼす者っす」


 自分と同じ見た目の巨人と対峙したウォーターブルータイタンは拳を握り締めた。



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