第6話 復活怪獣シシオン対ウォーターブルータイタン

「緊急警報。緊急警報。街に怪獣が現れました。街に怪獣が現れました」


 鳴り響く警告音の中、ダンキチは目の前のモニターに映り込む怪獣の姿を見て、目を見開いた。

「コイツだ。セイジさんが死ぬまで戦っていた怪獣が復活しやがった!」

 因縁の相手を前にして、ナオは唇を噛み締める。

「まだ別個体の可能性もあるけど、この怪獣だけは絶対に倒します! あの巨大ヒーローよりも先に!」

「ああ、言われなくても分かってる。コイツは俺たちで倒す!」

 その隊長の目は怒りで赤く充血していた。それから、隊長はギロリとサトルの顔を睨みつける。


「サトル隊員は、いつも通り民間人の避難誘導だ。俺とナオ隊員で、あの怪獣を駆逐する!」

「はい!」と強く返事してから、サトルが走り出す。それに続いて、ダンキチとナオもコクピットに向かい駆け出した。



 あの日と同じ雲一つない青空の下、ムラマサ学習塾ビルの中で、色黒の塾講師が教卓の前で本を開く。その視線の先で、ラベンダーをモチーフにしたヘアピンを前髪に止めた女子生徒が立ち、黒板に記された方程式の答えを口にした。


「x=2」

「正解だ。では、次の問題は、夏羽ユウコ……」

 塾講師が生徒を指名する声は、一人の黒髪短髪男子の声で掻き消されてしまう。

「おい、なんだ? デカいライオンが近づいてるぞ!」

 窓から景色を眺めていた少年の声に反応して、次々と生徒たちが窓を覗き込むため立ち上がる。

その怪獣は、遠くに見えたビルを押し潰しながら、こちらへと近づいている。

その中でユウコだけは立ち上がらず、胸の前で合掌して、目を瞑っていた。


 それから数秒後、壁に埋め込まれたスピーカーから緊急放送が流れる。


「緊急放送。緊急放送。街に怪獣が現れました。避難場所まで逃げてください。街に怪獣が現れました。避難場所まで逃げてください」


「みんな、今から逃げるぞ!」

 バンと教卓を叩いた塾講師の呼びかけに応じ、次々と生徒たちが急ぎ足で学習塾のビルの階段を下りていく。その中でユウコは眉を潜めていた。



「緊急連絡。緊急連絡。ムラマサ学習塾に通っていた女子高生、夏羽ユウコの所在が不明と連絡あり。至急保護してください。特徴は黒髪ロングヘア。後ろ髪は腰の高さまで伸ばしていて、黒いセーラー服を着ている……」


 そんな放送が路上駐車した自動車内の無線から流れたのは、怪獣出現から十分後のことだった。

「ムラマサ学習塾か。この近くだったな」

 サトルが呟き、誰もいない助手席に目を向ける。そこには、ハヤト隊員が座っているはずだが、今日はなぜかいない。一人で任務を行わなければならないと緊張したサトルは、上空から轟音を聞いた。


 その直後から、ミサイルの発射音まで聞こえてくる。この間にもダンキチ隊長やナオ隊員はあの怪獣と戦っているのだ。

 だからこそ、ここでできることをしなければならない。気合を入れるため、両手で両頬を叩く。

 そして、目の前の横断歩道を、黒髪ロングヘアの少女が通り過ぎた。

 その手には赤色の水晶のようなネックレスが握られていて、黒いセーラー服を着ている。


「夏羽ユウコか?」

 先程の放送と一致する特徴の少女は、避難所とは逆方向のビルの谷間を目指している。

 あの先では怪獣と地球防衛隊が死闘を繰り広げている。

 マズイと思ったサトルは、慌てて車を降り、彼女を追いかける。だが、そこには、先程までいたはずの夏羽ユウコの姿はなかった。


 横断歩道を渡り切り、周囲を見渡しても、彼女はどこにいるのか分からない。

 その時、サトルの周囲が薄暗くなった。巨大な影がサトルの影を消し去り、薄暗くなった空を見上げると、いつの間にか現れた巨大な黒い影と視線が合う。


「我が名は、ウォーターブルータイタン。使命はいつも一つ! セイジさんの意志を継ぐことだ!」

 性別不明の奇妙な声を周囲に響かせてから、その正義の巨大ヒーローは、サトルを追い越し、街で暴れる怪獣を目指し駆け出していく。


「セイジさんの意志を継ぐだと?」

 突然、目の前に現れた巨大ヒーローの口から飛び出した事実。

 まさか、この巨大ヒーローの目的は……


 サトルの頭の中で仮設が浮かび上がった。



 黄金の毛並みの怪獣がビルを押しつぶしながら、駆け抜けていく。それを二台の戦闘機が追尾した。空の上から見えた瓦礫の山を見て、ナオは唇を噛む。


「ダンキチ隊長。もう一度、あの怪獣にミサイルを撃ち込みます!」

「ああ、言われなくても分かってる。イッキに片付けるぞ」

「はい!」と強く答えたナオがミサイルの発射ボタンを押す。それと同じタイミングでダンキチもボタンを押した。

 すると、二台の戦闘機から銀色のミサイルが二発発射される。


 目の前の怪獣に向かって進む攻撃に対して、巨大な獅子の動きが止まった。

 その直後、巨大怪獣は大きく口を開け、咆哮する。それによって生まれた強風に煽られて、二発のミサイルは、地上へと方向を変えてしまう。


 そんな変化に気が付いたダンキチの顔に焦りが浮かぶ。

「マズイ。このままだとアレが地上に……」


 墜落すると言い切るよりも先に、ダンキチの視界に巨大ヒーローの影が映り込む。

 巨大ヒーローは軽々と二発のミサイル右手だけで持ち上げてみせる。

 その直後、怪獣は息を吸い込んだ。すると、強風が止まってしまう。その隙を狙い、ヒーローがミサイルと怪獣に向かって投げた。


 直撃すると同時に爆発する二発のミサイルによって、周囲は白い煙に包まれていく。


「いいモノを持っているな」

 そう呟いたウォーターブルータイタンが右手を前に伸ばす。青白い光が掌に集まっていき、光線が怪獣に向かって放たれていく。

 そうして、怪獣は白い光に包まれて消えていった。


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