明日を夢見る少女

午前中にテストの最後のコマが終わった。

ショウゴが真面目な顔で、私に声をかけてきた。


「咲良をよろしく。もし話してくれそうなら聞いてくれ。」


ショウゴだけでなく、私も心配している。

もちろんノリもしーちゃんも一緒の想いだろう。



私はノリとしーちゃんと咲良の4人で梅田に向かった。

特にどこで遊ぶかは決めていなかったが、

午前中にはテストが終わったので、

お好み焼き屋で昼ごはんを食べることにした。



よく考えたら、4人で繁華街に遊びに行ったことがなくて、

咲良のことを気にしながらも、少し楽しんでいる自分に気づいた。



豚モダンと焼きそば、とん平焼きを頼み、

みんなで分け合いっこした。



「ノリ、なんでモダンと焼きそばを一緒に頼んだの?」

「しーちゃんうるさいな。いいやんけ。」

「だってモダンにも焼きそば入っていて、単品でも焼きそば頼んで、どうせなら、普通のお好み焼き頼めばいいんちゃう?」

「細かいなぁ!普通のお好み焼きより、モダンの方が大きいし、食べ応えあるんやから、同じお金出すなら、モダンの方が得やん」

「みんなで食べるんやったら、バリエーションが多い方が楽しいでしょ。」

「お腹さえ膨れたらそれでいいやん。」



久々に夫婦漫才を見させてもらった。

小学校の頃と変わらない。

学校では、一緒のクラスではないから、見かけることがなかったが、

相変わらずノリとしーちゃんは仲がいいんだなと思った。

私は、その二人を見て笑っていた。



「じゅん、何笑ってんねん!」

「そうよ、じゅんちゃん。じゅんちゃんはモダンと普通のお好み焼きどっちがよかったの?」



とばっちりが私に向けられた。

本当に肝心なところで、私の意見を求めてくる。

めんどくさいと思いながらも、昔を思い出させてくれて、嬉しかった。



そんな二人を咲良は、黙りながら、笑みを浮かべて見ている。

私は、その姿を見て、安心した。

この調子であれば、少しは話してくれるのではないかと、思った。

しーちゃんは「ご飯美味しい?」「いつもどんなの頼むの?」と気を使いながら、

声を掛けていたが、簡単な返事しかせず、終始無言だった。

咲良と出会った頃を思い出す。

振り出しかと思った。



昼ごはんを食べた後、

2、3時間ほどカラオケに行った。



私とノリは、普段からカラオケに行っていたので、

聴き慣れていたが、

しーちゃんと咲良とは、初めて行くので、どんな歌を歌うのか、楽しみだった。



ノリは、快活で、お調子者の雰囲気と違い、

GLAYやL'Arc〜en〜Cielのような、ビジュアル系で、高音系の歌を歌う。

意外な一面で、いつも曲を予約するまでは、どんな声だろうとワクワクするが、

キーを下げて、低めの声で歌う。


絶対に選曲間違えていると思うが、私はもう聴き慣れている。

しーちゃんは完全にドン引きしたような顔で、ノリの曲を聴いたいた。


一曲歌い終わると、


「ノリ。サザンオールスターズとかの方がいいんちゃう。」



冷たい声で、ノリの心に突き刺さったような気がした。

しーちゃんは、的を得たことを平然と言う。

そこからノリの選曲はガラッと変わってしまった。

ショックだったのだろう。

ノリ、ドンマイ。



次は私だったが、モンゴル800とかBUMP OF CHICKENなどメジャーな歌を歌っていた。

特に上手くもなければ、下手でもないが、声量がかなりあるので、うるさかったと思う。



「ノリに比べたら、まぁ〜うまいんじゃない。」



しーちゃんからは、なぜか上から目線で言われた。

そこまで言うならうまいんやろうなっと心の中で思いながら、

しーちゃんが選曲をしていた。



しーちゃんは、浜崎あゆみや中島美嘉など、女子なら歌いそうな曲を歌うのだが、

これがまたうまい。

高低のバランスが取れて、ビブラートもしっかり奏でていた。

さすがは、ピアノをしていただけのことはある。

絶対音感というモノを持っているのかなと思うぐらい音程は合っていた。

ただ耳を突き刺す甲高い声を出すので、少々うるさく感じた。



「しーちゃん。うまいな!さすがやわ!」

「伊達に音楽をかじってたわけちゃうで!ノリも驚いたでしょ。」



ノリは、しーちゃんの方を見つめていた。

今まで見たことないような男の顔をしていたと思う。



「ノリ。黙ってないでなんか言ってよ。」

「あぁ〜わり〜。うまかったな。」

「なにその素っ気ない話し方。」



しーちゃんは、ノリの男らしい顔立ちに、少し顔を赤く染めて、恥ずかしがっていたと思う。

いつもおちょくってくるノリの真面目な顔に、気持ちが揺れたのだろう。

案外ほんまの『夫婦』できるんじゃないかなと感じた。



咲良は、私やノリやしーちゃんの曲を聴きながら、音に合わせて、手を叩き、楽しんでいる様子だった。

ただ咲良は、全く歌おうとせず、ずっと3人の歌を聴くだけだった。



「咲良ちゃんも何か歌ったら。」

「あまりカラオケ行ったことなくて、行っても歌うことがないの。」

「そんなことないっしょ。小学校からの友達なんやから、この際、なんか歌ってみてえや。」

「うぅ〜ん。」



ノリとしーちゃんの猛烈アタックにより、ついにディスプレイを持ち、曲を選び始めた。

咲良はどんな曲を歌うのだろうか。

私は、咲良の歌声が聴きたくて、待ち遠しかった。




テレビ画面には、『明日への扉』と表示された。

咲良は、マイクを持つと、物静かな印象とは違い、

一気に歌手のような存在感を引き出した。




あぁ〜綺麗な声だな。




私は、咲良の声と歌詞に感動していた。

弾き語りのように、時折私の方を見ながら、透き通るような声で、私の心を温めてくれる

そして、一つ一つの歌詞が、過去の情景を思い出させてくれた。

私が叔母を無くした時、夜の遅い時間に、私の元に駆けつけてくれた咲良を思い出していた。



咲良は、わざとこの曲を選んだのか。

まるで自分を重ねるかのように、

一つ一つの言葉が、私に語りかけていた。


いつか叶えたいのかな。

それは母親に対してなのかな。

答えは咲良にしかわからなかった。



なんて美しい声をしてるんだろう。



私は目頭を熱くしながら、最後まで咲良の声の余韻に浸っていた。

この声をまだまだ聴きたいと思えた。



「咲良ちゃん、めっちゃうまいやん。綺麗な声だね。」

「俺もびっくりしたは、ちょっと聴き入ってしまってたわ。」



ノリとしーちゃんは私の余韻を全て崩してしまった。

不服に思いながらも、私はちょっと前かがみになり、咲良の方を見つめた。



咲良は、優しい目で私を見ていた。

何か今まで溜めていた想いを全て出し尽くしたかのように、

すっきりした表情をしていた。




みんなで歌を歌い尽くした後、お会計を済ませて、

カラオケ店のあるビルから、エレベーターで降りた時、

咲良は私たちに声をかけた。




「みんな心配させてごめんなさい。ちょっと家のことでいざこざがあったけど、みんなのおかげで元気になれた。久々に小学校の頃を思い出すことができて、今日は楽しかった。

みんな変わってなくて、本当に嬉しかった。また遊びに行こうね。」


咲良は、元気な声で、私たちに話してくれた。

ノリもしーちゃんも安堵の表情を出し、

私も咲良が元気になればそれでいいと想い、安心した。




ただ家で何が起きたのか、一切を話をしなかった。




私は電車の中で、莉奈からのメールが届いていたので、

今日に一日の出来事をやりとりしていた。

だが私は、莉奈ではなく、咲良のことを考えていたんだ。

私をあの日の夜、咲良に助けてもらったことを思い出していた。

だから今回は、私が咲良に何か手を差し伸べて、助けてあげたい。



咲良の本当のことを聞くのであれば、

もうこれしかないと思った。



私は、家に到着してすぐに自分の机に向かった。

そして、何時間かかっただろうか。

たくさんの紙が、ゴミ箱の中で乱雑に散らかっている。

それほど言葉を選んでしまっていた。

もう5年以上たつと、書くことが難しいのだ。



私は、机の前に置いてある。

昔使っていた財布のつく虹色のキーホルダーを見つめながら、

便箋に認めた。



そして、次の日の朝、咲良の下駄箱の中に




手紙を入れた。

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letter over ~一期一会~ @chrisbenjamin

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