科学とは最新の魔法だ

牛☆大権現

第1話

「乾杯!」


 蛇目谷じゃのめや大学にある、怨寺おんじ教授の研究室。

 そこで、お疲れ様パーティーが開かれていた。

 遺伝子工学の新技術、その研究発表がまさに今日終わったのだ。


「教授、この新技術の凄い所って、なんなんですか? 」


「それはのう、生きた生物に反映されることじゃ 」


 蛇目谷大学のシンボル、左片眼の蛇の像を持ち上げて。

 怨寺おんじ教授は説明する。


「例えばこの蛇、仮に先天性の遺伝子異常が原因の隻眼としよう。

 従来は、卵の状態で遺伝子編集をする必要があった 」


 研究室の冷蔵庫の中から、教授は卵を取り出す。


「これは蛇の卵ではないが、まあ代用品じゃ 」


 蛇の像の横に、卵を置く。


「話を戻そう、卵でないとダメなのは何故か?

 今までは試験管の中でしか、遺伝子編集が出来なかったからじゃ 」


 教授は説明に使った卵で、卵かけご飯を作っている。


「だが、今回の技術は、生きた細胞の遺伝子を編集できる!

 この蛇の失われた眼も、即座に生やされる! 」


 教授は赤ペンで、蛇の右目の辺りを塗る。

 そして、卵かけご飯を掻き込んでから、また一気に喋る。


「この技術が実用されれば、筋ジストロフィーなど、遺伝子由来の病気で苦しんでいる人を助けられる!

 遺伝子工学で望まれた、夢の技術じゃ 」


「まるで魔法みたいですね 」


 研究生の1人が、呟く。


「鋭い!

 ワシの元で研究を続けてきただけのことはある! 」


 博士は立ち上がり、研究生の肩を叩く。


「我々の実験器具、その殆どは魔法の研究から産まれた物じゃ。

 まさに、科学とは最新の魔法なのじゃよ 」


 研究生、小林は感心している。


「じゃあ我々は、現代に生きる魔法使いなんですね 」


「そうじゃとも。

 科学という魔法は、人を幸せにできる

 ワシはそう信じておる 」


 小林研究生は、少し考えてから質問をする。


「姉が妊娠したんですが、相手の男性が先天的な遺伝障害があるらしくて、子供が大変じゃ無いかと憂えていたんです。

 この技術を使えば、もしかして? 」


「そうじゃな、物によるが治せる可能性は高いぞ!

 なんなら、その旦那氏の治療も可能じゃ! 」


 小林研究生の質問に、胸を叩く教授。


「姉に電話して、その話をしてみます。

 きっと喜ぶと思います! 」

「実用には数年かかるじゃろうが、それからでも遅くはない。

 少し早いがこれは祝儀じゃ、お姉さんに渡してあげなさい 」


 教授が、祝儀袋を渡す。


「いや、こんなの受け取れませんって! 」


 小林は、辞退しようとしている。


「君の姉も、かつてワシの所の研究生だった。

 それに君達の祖父は、ワシの恩師じゃ。

 少しでもその借りを返したいのじゃよ 」


 教授は、祝儀袋を押し付ける。


「あんまり呑んでおらんが、ワシの家内も身重なのでな、先に帰るぞ。

 君達も、あまり遅くならないようにな 」

 教授は、研究生達に別れを告げる。


「ただいまじゃ 」


 教授が自宅の扉を開けると、金属が焦げた臭いがした。

 スイッチを押しても、電気がつかない。


 不審に思いながらも、教授は携帯のライトで床を照らす。


「珠美、帰っとらんのか? 」


 居間の戸を開くと、強烈な鉄の臭い。

 踏み込むと、足の裏から液体が染み込む。


 部屋の中を、携帯の弱い光で照らす。

 部屋の真ん中で、教授の妻が倒れているのが見える。


「珠美!

 しっかりしろ、珠美!! 」


 怨寺教授は激しく揺らすも、一切の反応はない。

 既に、彼女は事切れていた。


 腹部は切り裂かれ、足元に何かが置かれている。


 教授は、走って外に出る。


 教授は、激しく嘔吐した。

 震える指で、無駄だと悟りつつ救急車と、警察を呼んだ。


 科学という魔法は万能ではない。

 失われた命は、科学で戻すことは出来ないのだ。

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科学とは最新の魔法だ 牛☆大権現 @gyustar1997

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