第3話 ソムリエ先輩①

「そういえば、野上くんって中学ん時作文表彰されてましたよね?」


 ようみんな、みんな小説は読むか? 俺はまぁ漫画しか読まねーんだけどさ。でも、物語って奴には素敵な力があると思ってる。


 ただ何気なく過ぎていく、友達とダラダラしてるだけの日常をいとおしく魅せてくれたりだとか、ただの暴力でしかない喧嘩を熱い魂のぶつかり合いみたいに見せてくれたりだとか。


 俺多分さ? マンガとかなかったらさ? フツーに生まれてフツーに食って、フツーに死んでいく、なんてさ? こんなにも素敵な人生をただそれだけのことみてーに感じちまってたかもしんねー。


 笑って、怒って、恋をすることが、こんなにも意味があるんだって俺に教えてくれたのは多分マンガなんだよ。


 なんで突然こんな話すんのかってーと、とりあえずこの……、俺の目の前で一生懸命スマホでキャンプ用品(サバイバルナイフ)を見てるヒゲジョリヤローを見てくれ。


 最近人が喰いたいなんつーイカれたこと言い出して、今はネットでナイフ見てやがる。


 ……で、このオッサン高校生はよ? 文章とかうめーんだ。中学ん時に作文は表彰されて市のデカいデパートに展示されるし、ラブレター代筆一通3000円なんつーバイトもやってて大人気だったんだ。変なとこに才能あるんだ。素直にその力使って人を喜ばしときゃあいいってのに。この青の洞窟野郎ってば口を開けば人肉のことばかり。ホントムカつくよ。


 その折角の才能を前向きな事に使やぁよ? いつの日か人を感動させちゃうような物語を作れるかもしんねー。


 そしたらさ? このヒゲジョリの作った物語で俺みてーに、誰かが人生に夢を持ったりなんかして、そんな夢を作れる素敵なヤローになる未来が待ってたりするかもしんねーんだぜ。それってメチャメチャ素敵な話だよな?


 そんなヤローがさ? ただ味が気になるとかいうくだらねー理由で人をぶっ殺しちまおうなんて考えてるってのはホント、見ててマジ辛ぇよ。




「ああ、修学旅行の文集な。……確か『非日常とカメレオン』ってタイトルにしたっけか」


「そーそー、野上くん昔っから文章上手かったっすもんね? あの修学旅行先と学校での毎日の違いをカメレオンに例えた感じがマジ文学的だったっす! あ~これ将来野上くん芥川賞とかとるんだろなって思いましたもん」


 確か、


『北海道の街からは、普段の俺の素行の悪さだとか、そういった俺の内面は見えてはいない。普段から接しているクラスメイトには当たり前に認識されているものであるにも関わらずだ。この町にいれば俺は、ただ髭が濃いだけの中学生でいられる。それはまるで、カメレオンのように』


 みたいな始まり方だったかな。認めたくはねーけどぶっちゃけちょっと感銘受けちゃったんだよね。


「お? そうか? 高校に入ってからあんま作文ってねーからな。ハンセー文なんか気合入れて書きゃしねぇし、……久しぶりに小説でも書いてみっかな?」


「いっすねいっすね、どんなの書きます?」


 ……おっとこれは、いい流れじゃないのか? ここ数日で初めてだよ、この人が人肉以外に興味もっ……。


「よし、タイトルは『人間ソムリエ』でどーだ?」


 くそっ! そうくると思ったよ! 嬉しそーな顔しやがって。


「……いちおー訊きますけどそれ、……どんな話にするつもりっすか?」


「そうだな……、食べた人間の性別・年齢・健康状態を即座に判別出来る人間ソムリエの城島武夫は悩んでいた」


「なるほど」


 ……キモいなぁ。


「『俺、この才能ヤバくない? 公表したくない?』と」


「しかし、残念ながら現代の日本の法律・倫理観では、人を喰うことそのものが罰せられ忌み嫌われる対象だ」


「ふむふむ」


 ……キモイなぁ。


「そんな世界に嫌気がさした城島は、世界を根底から変えるべくあの手この手で大暴れ! そんな普通を捨てた男の苦悩と葛藤を描いたサクセスストーリー!」


「……ってのはどうだ?」


 ……キモすぎるなぁ、さて、何と答えたものか。


 いや待てよ? 


「野上くん、……それ今考えたんすか?」


「おう!」


「アタマの回転早いっすねー、無駄に」


「あ? テメーバカにしてんのか?」


「いえいえ、いい意味でっす! いい意味で! ちょっとそれマジに考えましょうよ?」


 ……この人人喰う話好き放題書いたら満足して人喰いたくなくなんじゃねーの?


「ふむ、……売れたら人、喰えるようになっかな?」


 なってたまるか! 


 ……けど我慢だ。野上くんだってまるっきしのバカじゃねーんだ、妄想で欲望満たせられれば本当に殺人なんてしないはず。


「なるなる! なるっすよ! 創作物の社会的影響ってなバカにできねぇもんすから!」


「ほ、ほら、漫画とかやべーっしょ? マンガでかっこよく描かれたことって今までキョーミなくてもやってみたくなったりするし、結構それで色々流行りましたよね?」


 そのせーで俺、無駄に多趣味なんだよね。……一回しか使ってないテニスラケットとかどうしようかな?


「……そーいうもんかねぇ」


「だ、だってほら! 俺らみてーなね? 顔もアタマもよくねー、ただ粗暴で態度が悪ぃだけの男がですよ? 中坊ん時はそこそこモテてたっしょ?」


「……ふ、まぁな」


「あれはあれっすよ! 俺らの中学でなぜか異様に、ビー〇ップと尾〇豊が流行ってたからじゃねーっすか? アレのせーでカッコよかったんすよ、不良が!」


「……確かに、高校じゃ一気にモテなくなった所見るとその可能性はあるな。それにしても懐かしいな、15ん時、歌詞に影響されて鍵ついてる原チャリ探して商店街を歩き回ったっけか」


「……野上くんも大概アタマわりーすね?」


「あ?」


「あ、いや、いい意味! いい意味っす! ほ、ほら、純粋でカワイーみてーな!」


 あぶねーあぶねー、最近あまりにも野上くんのことバカだと思いすぎてちょっとでも油断するとすぐディスっちまう。


「テメー、タカシの分際で俺をカワイーだと?」


「違うっす! いい意味、いい意味っす!んなことより小説の話しましょーよ」


「おめー、いい意味いい意味って、それ言ってりゃ何でも許されると思っちゃねぇだろな?」


「……すんませんっす」


「まぁいい、ならおめー手伝え、今から話の構想練るからよ?」


 ……よかったぁ、ヘソ曲げられなくて。せっかくのチャンスを無駄にしちゃあもったいないからね。


 それにしてもよっぽど好きなんだろな、こういうこと考えんの。ホントこの人は好奇心旺盛っつーか子供みてーっつーか、得意げな顔しちゃってまあ。


 頼むからそういう才能は人を喰う以外のことに使ってくれ。


「いっすよー」


「ふっ、おめぇもこれで共犯者ってわけだ。人を喰える世界づくりのな」


「そんなん勘弁してくっさいよー」


 なるかバカ! もしんなことんなったら俺ぁ自分のチ〇コ自分でかじってやんよ。

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マンイーター先輩 ゆきだるま @yukidarumahaiboru

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