本当にあった怖いか怖くないか分からない話

※苦手な人は見ないでね。


 それは高校生になって、初めての夏休みの事だった。


 私はいつものようにスーパーカブに跨って溜まり場になっている友達の家に向かう。ものの五分もあれば着く距離だ。


 自分で言うのもなんだが、私のスーパーカブはかなりお洒落だったと自負している。白いカバーの足を守る部分を切り落とし、後輪の泥除けをグラインダーでぶった切った。ハンドルをパイプハンドルに替えてヘッドライトにタコメーター、左グリップにクラッチレバーも取り付けた。

 もちろんウィンカーもテールランプもクリアレンズの小さい物に替えていた。

 このスーパーカブによって当時の私の行動範囲は劇的に広がった。

 ちなみにこの件は体験談とは全く関係無い事を先に謝っておこう。


 友達の家に着くとお邪魔しますと小さく言って二階に上がる。部屋の扉を開くと天井から三分の一ほどの高さまで紫煙が漂っていた。ガラス製の容器には、半分ぐらい残して用を終えた燃えかすが山盛りになっている。

 部屋にはすでにいつもの友達四人が集まっていた。私は軽く挨拶をしてからいつもの場所に腰を下ろし、壁に背中を預けると胸ポケットに手を伸ばした……

 この部屋の片隅、それが私の定位置だった。どうしていつもそこに座るのかと聞かれた事がある。ツッコミという立ち位置だから常に全員を見ていなければならないと言った記憶があるが、それは取って付けた理由だったなと今は思う。

 本当はそこから見る情景、つまりそこに居た皆が好きだっただけ。


 くだらない話とくだらない事をしては笑い合っていた。


 そんなある日、誰かがキャンプをしたいと言い出した。するとまた別の誰かが家にテントがあるとか、良い場所があるとか、釣竿を持って行こうとか、話題は盛り上がる。普段は面倒くさいとかダルいとか言う奴らだが、こんな時だけは話が早い。ちなみに釣竿と言ったのは私である。


 場所はちょっと離れた小さな川のほとり、決まった日取りは盆の真ん中だった。

 その時に思い出したのは、お盆の日は水場に近づくと霊に連れて行かれるからねと昔おばあちゃんが言っていた事。その前から不思議な体験は何度かしていたがそれが心霊現象だったとは思ってなかったので、おばあちゃんが言っていた事も信じていなかった。


 キャンプ当日、それぞれの原動機付自転車に荷物を乗せた私達は目的地へと辿り着いた。

 川幅は三メートル程だろうか、川を挟む岸には灰色で丸みのある石が敷き詰められていた。その両側には十メートルはあるだろう崖がそびえ立っている。その崖の上には神社があって春にはたくさんの桜が咲いて桃源郷に来た気分になれる。


 私を含めたいつもの五人でテントを組み立てて火を起こした。

 高校生だったなぁと思うのは夕食をコンビニで買って持って行った事だ。今思えば何でもいいからキャンプ飯を作れば良かったなと思う。


 それからあっという間に夜になった。


 今日は五人、テントの中で一晩中語り明かそうと決めたにも関わらず、テントの両端でいびきをかいて夢の世界へと旅立った二人が居た。

 それでも三人は会話を続ける、高校であった話なんかを面白可笑しく喋った。何気に携帯で時刻を確認したら、一時だったか二時だったか、はっきりとは覚えていないが盆踊りの太鼓ってこんな時間まで聞こえるのかと友達に聞いた記憶がある。


 それからもくだらない話を続けていたその時だった。


 ドスン……と何か重たい物が落ちた音が聞こえた。

 飛び交っていた会話がぴたりと止まる。それと同時に三人は顔を見合わせた。その表情から確認出来たのは、今聞いた音が気のせいでは無いという事。

 世界が静まり返る。テントの中から外が見えない分、テント内と外との圧倒的な空間差が恐怖心を増長させていた。


 カポン…………カポ……と川の上流の方でまた音がした。川で魚が跳ねたのか、それとも何かが近づいて来たのか、いずれにしてもそれは水に関係する音。先程の何かが落ちた音も上流の方から聞こえた。


 腕から全身にかけて、ぞわぁと寒気が這う。何かが外に居るのか……確かめない事には安心出来なかった。


 私はテントの外に出ようと意を決してライトを手にした。メッシュの生地に取り付けられたチャックをゆっくりと動かすとジジジジと音がする。今まではまったく気にもならなかった音なのに静寂の中ではかなり大きく聞こえた。


 テントから出る前にまずはライトで辺りを照らす……誰も居ない。

 外に出ると川なので当然だが、家はおろか街灯すら無いので何も見えない。ライトを向けた場所だけが照らされて浮かび上がる。見える所があると、見えない所に妙な想像を重ねてしまう、それがまた何とも言えない気持ち悪さだった。


 結局辺りには誰も居ないし、何も落ちていなかった事で少し安心した私はテントの中へと戻った。すっかり眠気が覚めた三人は再びくだらない話を始めた。ただただ喋り続けた。そうしないとまた聞こえるんじゃないかと思ったから……


 気付けば辺りは明るくなっていた。怖い時間が終わった、三人はそう思った。


 程なくしてゴールデン・レトリバーと散歩している老人がやって来た。そのゴールデン・レトリバーが川に飛び込んだのを見て、自分達も先に寝た二人を起こして川に入ろうとテンションが上がった。


 私達五人は川を上流に向かって進んで行く。基本的には浅い川だがたまに深い場所もある、そんな場所は飛び込んだりしてはしゃいでいた。


 五人はさらに上流に向かうとそこである物を見つける。


 背筋が凍ったような気がした。


 崖の上には赤い橋が架けられている、これは川を渡って神社へ向かうための橋。

 そのちょうど真下に花束が置かれていた。見た目からして買ってすぐだったんだろう、とても綺麗な花だったのを今でも覚えている。

 先に寝た友達の一人がその花束を見て、昨日私達が聞いた音はこれじゃないかと言い出した。夜中に橋の上からこの花束を落としたのだろうと。


 私達は納得した。いや納得するしかなかった。状況から考えてそれ以外に無かったからだ。




 どうでしたか?

 あまり怖くなかったですか?

 この友達と会うと今でもたまにこの時の話をするんですよ。

 そして決まって最後は三人とも、こう言うんです。




























「あれは間違いなく……人が落ちた音だった」

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