放課後

「藤ヶ谷君って、夢とかあります?」

鞄に教科書や筆記用具、ノートなんかを入れて帰宅の準備を進めている藤ヶ谷君に目を向けず、校庭の運動部を眺めながら話しかけた

「今朝だったか話さなかったか、飲食店を経営するのが夢だ。急にどうした?こう言ったらあれだが、お前は人の夢とか真摯になって応援するタイプじゃないだろ」

「ボロクソに言いますね、まぁ否定はしませんけど。いえね、さっきの授業中に私寝てたじゃないですか」

「寝てたな。言っておくが、いくら成績がよくても授業態度で内申点が下がることとかあるからな。それで、寝てたことがどんな繋がりが…あぁ、寝てみる夢と将来の夢って繋がりか」

「そんなところです。寝ている時の夢の内容は忘れましたけど、そういえば私夢とかないなぁって思いまして」

「高校生なんてそんなものじゃないか。今外を駆け回っている奴らだって、別に将来その道で食べていくつもりはないだろうし、俺だって飲食店を経営したいと思っているが具体的なプランを立てているわけじゃない。今はやりたいことをやる時期なんだろ」

「アハハ、今日話したカリキュラムの話みたいですね。そうですね、来年の事を言えば鬼が笑うなんて諺もありますし、なにより人の夢と書いて儚いって読みますもんね」

「それ、将来の夢とかそういう議論を一発で終わらせる言葉だよな」

「でも小さい時は夢とかあったと思うんですよ。将来の夢、みたいな作文とか書きましたし」

「小さい時…」

「おや、ロリな私に興味津々ですか」

「どんなクソガキだったのか興味はあるな」

「クソガキ前提ですか。確かにクソガキでしたけども」

「それで、その時の将来夢はなんて書いたんだ。子供のころの夢と今の夢が同じことは少ないと思うが、それでもそれに類する仕事は興味があるんじゃないか」

「それが、その…」

「珍しく歯切れが悪いな。人に言いにくい夢か?」

「笑いませんか?」

「内容次第だな。だがまぁ、いつだか俺のことを表情筋が死滅している男、とか言ってたよな。俺の表情筋を信じろ」

「もっと感情を表に出したら絶対モテると思うんですよね。それはさておき、私の小さい時の将来の夢はですね…お、お嫁さん…でした」

「……」

「いや待ってください、確かに朝結婚とか考えられない、的なことは言いましたけど、それは今の感性からの発言であって、小さい時は小さい時なりに、それなりのメルヘンな夢を持ってたんですよ」

「…まあ、小さい時の夢だと考えると、最近は聞かなくなったが、そこまで変な夢でもないだろ」

「うぅ、妙なフォローなんていりませんよ。普通に笑ってくれた方がどれだけマシな事か」

「生憎と、表情筋が死滅しているものでな」

「前言ったこと結構気にしてますね、実は根に持ってます?」

「さぁな。それで、どんなお嫁さんになりたいと書いたんだ、その作文では」

「流石にそこまでは憶えてませんよ。多分毒にも薬にもならない、そういうありきたりなことを書いたと思いますよ、そういう普通の文章を書くのは昔から上手かったですから」

「昔から今と大して変わらなかったんだな、頭の中身というか思考回路は」

「当時から高校生レベルの思考を持っていたのか、それともただただ成長していないのか。私は前者だと思いますね」

「ならその当時から卓越していた思考を用いて出した結果である、お嫁さんという夢に胸を張ったらどうだ」

「……なら藤ヶ谷君がもらってくれます?」

「……今一瞬想像したのだが、お前と結婚して無賃金で俺の構えた飲食店で働いてくれたとしても、プライベートでも毎日こんな議論に付き合わされるとなると、流石にちょっとなぁ。赤羽とは少し距離の近い友達くらいの距離感が良いな」

告白擬きをした女の子相手にここまで言います?

なんとも言えない傷を残して、私の学校での一日は終わっていく

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二人がただただ駄弁るだけ ここみさん @kokomi3

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