Interlude

Interlude『成行-Success-』~時系列『未来』~

 2039.02.22


「煙草ある?」


 薄暗い尋問室。第二次大革命の首謀者は尋問官に聞いた。


「ふん、あるわけがなかろう。で、その後エルシュ島に放り込まれ、どうなったんだ?」


「どうもこうも、そこを生き抜いたんだから、今俺はこうしてここにいるんだろう。そんなことより煙草は本当にないのか? おたくさん、けっこうなスモーカーっぽいけどさ」


 図々しい、ここに極まり。

 両手に科せられた手錠をジャラジャラと鳴らしながら手を差し出してくるキングに尋問官は「こ、こいつ」と唸っていた。


 そこで動きがある。ブザーが鳴り、誰かの入室を知らせていた。キングと尋問官はドアを方を見る。


 キングを逮捕、拘束したSASのカートマン大尉だった。そして彼の背後でキングの方を見ているのは……


「ミラ……」


 キングがつぶやいた。


 ミラ・クラークが静かにこちらの方を見ていた。


「少し外してくれないか?」とカートマン大尉は皺だらけの顔をさらに険しくしながら言う。

 尋問官は黙って席を立ち、ホログラム資料やメモ用紙の入っていたファイルを二つに折りたたんで尋問室を出た。


「煙草ないのかー?」

 キングは尋問官のいなくなったドアに向かって怒鳴った。


「館内は禁煙だよ、ミスター・テロリスト。これで我慢しろ」


 カートマン大尉はそう言って、アールグレイの香るマグカップを差し向けた。


 キングが紅茶を下品に啜るあいだ、カートマンはミラを先に坐(すわ)らせ自分は最後に坐った。


「それで、何の用? 大尉殿」


 キングがフランクな態度を崩さずに訊く。

 初対面の時は尊大な態度を見せていたキングも、何度か顔を合わせているうちに、よく言えば気軽に、悪く言えばふてぶてしくなった。


「罪の意識はないのか……おまえは。第二次大革命でアメリカはさらなる混沌に叩き落とされたんだぞ」


 カートマン大尉が頭をぼりぼりと掻きつつ言う。


 キングは彼の顔をジロっと見て、「あるわけがない。どうせ飽きたらやめるよ国民は」ときっぱり言い放った。


「そう、だよね……」と隣のミラがつぶやく。カートマン大尉は彼女の方をちらっと見た。


「尋問官にも同じことを話したが」とキングは切り出す。


「俺の起こした『第二次大革命』はバーンズの起こした第一次のそれとは根本的になにかが違う。なにかは言わないけど、「なにかとは何か?」。それはおたくさんらもよく考えてほしいんだ」


 キングは大真面目な顔でそう叫んだ。


「国民の自由意志にゆだねる、ということか? あの文書にもそのようなことが書かれていた。おまえが闇市場ブラックマーケットにリークしたあれだよ」


「いいね、いい線行ってるよ」とキングは嬉しそうに言う。


「俺の書いた『あれ』は第一次大革命? 今はそう呼ばれてるんだっけか? あれをしずめるために書いたものだ」


 高らかに言い放つキング。


「俺は言うならば『必要悪』だ。亡き友人との誓いを貫くために、死んでいった者のために、俺はあれを書いた」


 そこまで言って彼は不意に「ミラ」とカートマンの隣りに座っているミラに声を掛ける。

 ずっと机の下で下腹を擦る動作をしていたミラは、ハッとして正面に向き直った。


「な、なにかな?」


「いつからだ? それ」キングはゆっくりと尋ねる。


 ミラは目を見開きキングの方を見た。


 数秒の沈黙。


 やがてミラは諦めたかのように「ずっと前から。もうすぐ大きくなってくるのかな」と照れくさそうにささやく。


 カートマン大尉は、その短いやり取りの中に二人の絆がうかがい知れた。おそらく、なにか隠し事をしていてもすぐバレる。そんな関係(なか)に二人はなっているのだろう。


「お取り込み中悪いが、まだ終わってないのでね。キング、あの文書を書いた一番の理由、それは「アメリカの沈静化」。そこまではわかった」


 カートマンが切り出すとキングは彼の方を見る。


「だが疑問に思うことがある。どんな偉業やテロリズムにも動機がある。落ちこぼれだったアイザック・ニュートンは、いじめっ子を見返すために勉強をして「万有引力の法則」を発見した。ニコラ・テスラはライバルであるアインシュタインに追いつくために数々の発明を行った…………」


 カートマンはゆっくりとわかるようにキングに説明をした。


「……そのどれもが、「人類のため」とか「社会貢献のため」とか言うよりも、どちらかと言えば私利私欲に近い偉業だった。そこでおまえに聞きたい。なぜ、今回のような行動に出た」


 キングは押し黙った。目をつむり、鼻から息を吸い口から吐く。


 そしてしばらく数秒の沈黙が流れた。


 やがて、キングは目を開いた。


「俺は……殺戮人形としての矜持を見せたかった。仲間の死を無駄にしたくなかった。それだけだよ。言うならばそう、「自分自身の存在を証明」したかっただけなんだ」



 その声は腹の中から出しているキングの心だった。

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