10. 廃墟

 朽ちた外壁。

 壁を覆い隠すように、呑み込むように、毒々しいほど鮮やかな緑色の蔦がのびる。

 壁のひび割れた場所に食い込み、その割れ目を広げ、いつか壁を打ち崩してしまうのではないかと思った。


 そんな廃墟の中で彼女は佇んでいる。


「廃墟が好きなのよ」


 手を伸ばして、壁のひび割れを撫でる。


「人の生活と自然の境界にいるようで。生と死の狭間にいるようで」


 好きなのよねと繰り返す。


 廃墟にいる彼女はまるでこの世のものとは思えなかった。

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ゼロシーン 橘花やよい @yayoi326

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